海難救助のプロ・海上保安庁に聞く!水難救助やダイビング時における安全管理【前編】

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楽しいダイビングには、安全管理が絶対不可欠。

オーシャナでは、いままでにも医療関係者やダイビング指導団体など各方面でのエキスパートにご協力をいただき、ダイビングの安全管理についてお話を伺ってきた。

そして今回は、日本の海の警察・消防として、日夜人命の保護および救助に尽力している海上保安庁に直撃取材を敢行!

任務内容から、実際に使っているダイビング器材、任務時の安全管理など、海上保安庁内部の事柄については前編で、一般の海水浴客やダイバーにもできる安全管理の方法など、私たち市民ができることについては後編でお伝えしていく。普段なかなか聞けない質問にもお答えいただいたので是非チェックを!

それでは前編、いってみよう!

海上保安庁潜水士の業務概要

編集部(以下、—)

数多くの任務があるかと存じますが、その中でも、タンクを使用する任務(ダイビング)について、どのような内容であるのか具体的に教えてください。

海上保安庁

海上保安庁では、全国各地に巡視船艇・航空機を配備しているほか、救助救急体制の充実のため、潜水士や機動救難士、特殊救難隊といった海難救助のプロフェッショナルを配置しています。

任務の内容は、各プロフェッショナルで異なるため、それぞれの役割をご紹介致します。

海難救助のプロフェッショナルたち

① 潜水士(Diver)

転覆した船舶や沈没した船舶等に取り残された方の救出や、海上で行方不明となった方の潜水捜索などを任務としています。潜水士は、巡視船艇乗組員の中から選抜され、厳しい潜水研修を受けた後、全国22隻の潜水指定を受けた巡視船艇で業務にあたっています。

※ 海上保安庁潜水士は、行方不明者の捜索救助、遭難船舶などの救助活動のほか、事故調査、犯罪捜査、流出油の防除といったことも行っています。

② 機動救難士(Mobile Rescue Technicians)

洋上の船舶で発生した傷病者や、海上で漂流する遭難者等をヘリコプターとの連携により迅速に救助することを主な任務としています。機動救難士は、高度なヘリコプターからの降下技術を有するほか、隊員の約半数が救急救命士の資格を有しており、全国9箇所の航空基地等に配置され、特殊救難隊とともに、日本沿岸の大部分をカバーしています。

③ 特殊救難隊(Special Rescue Team)

火災を起こした危険物積載船に取り残された方の救助や、荒天下で座礁船に取り残された方の救助等、高度な知識・技術を必要とする特殊海難に対応する海難救助のスペシャリストです。特殊救難隊は37名で構成され、海難救助の最後の砦として、全国各地の海難に対応しています。

(昭和50年10月の発足からの累計出動件数:5,512件<令和3年3月末時点>)

人命救助任務の状況

実際に海難が発生した場合は、どのように対応されているのですか。

海上保安庁

海上保安庁は、東京に本庁を置き、全国を十一の管区海上保安本部分けて、それぞれの管区海上保安本部の下に、海上保安部(監)、海上保安署、航空基地などの組織を置き、各保安部等に所属する巡視船艇・航空機を中心として現場業務を担当しております。

人命救助は海上保安庁の任務の一つであり、海難発生時には、昼夜を問わず、現場第一線へ早期に救助勢力を投入して迅速な救助活動を行いますが、これら救助活動に対応する者は、巡視船艇の職員や、「海猿(うみざる)」として広く知られている「潜水士」だけではなく、航空基地に配置している「機動救難士」、海難救助のスペシャリストである「特殊救難隊」が対応に当たっております。

海上保安庁の潜水士の画像

対応中の「潜水士」の様子

救助活動の具体的な内容については、海難の発生場所や事故の種類、現場の状況等により、対応する救助勢力や救助手法は様々ですが、潜水技術を必要とする海難には「潜水士」「機動救難士」「特殊救難隊」が対応しており、全国各地で発生する海難へ迅速に救助活動ができるよう常に備えております。

海上保安庁の特殊救難隊の画像

対応中の「特殊救難隊」の様子

海で発生する事件・事故へ迅速に対応するためには、海難情報の早期入手が鍵となります。特に、海中転落を伴う事故では、海水温度との関係から人の生存可能時間が限られており一刻を争います。また、海上で行方不明者が発生した場合、広大な海を捜索するには、遭難者の最終目撃位置や身体的特徴などの情報が非常に重要になり、短時間で捜索救助に関する情報収集を行うことが重要となります。

海上保安庁の特殊救難隊の画像

対応中の「特殊救難隊」の様子

海上保安庁では、海上における緊急通報用電話番号「118番」を運用するとともに、携帯電話からの位置通報を受信することができる「緊急通報位置情報システム」の導入、聴覚や発語に障がいをもつ方を対象に、スマートフォンなどによる入力操作により海上保安庁への緊急通報が可能となる「NET118」のサービスを行うなど、本庁や各管区本部に置かれる運用司令センターを中心に、様々なツールを活用しながら24時間体制で海難情報の早期入手と情報収集を行っております。

      
これらを入手した海難発生場所や状況等を踏まえ、管区運用司令センターから最寄りの海上保安部署、巡視船艇・航空機等に出動を指示し現場へ急行させ、迅速に人命救助を行っています。

使用しているダイビング器材

実際に使用されているダイビング器材について教えてください。

海上保安庁

各種資器材について、公表可能な情報は以下のとおりとなっております。

各種資器材

①マスク: 市販品
②シュノーケル: 市販品
③フィン : 市販品
④ウェットスーツ(ドライスーツ): フルオーダー
⑤グローブ: 市販品
⑥ウエイトベルト及びウエイト: 市販品
⑦ブーツ: 市販品
⑧ナイフ: 市販品
⑨潜水時計・コンパス: 市販品
⑩ヘルメット: 市販品
⑪BC(浮力補償装置): 特注品

任務時の安全対策や心構え

任務を遂行するにあたり心掛けていることなど、安全に対する考え方や対策について教えてください。

海上保安庁

「潜水作業前後に考慮すべき事項」、「潜水作業時の安全対策」、「潜水士としての任務遂行時の考え方及び心構えについて」の3つの項目に分けて、ご説明いたします。

潜水作業前後に考慮すべき事項

海上保安庁

まずはじめに「潜水作業前後に考慮すべき事項」として、以下の項目に留意しています。

潜水作業前後に考慮すべき事項

① 潜水士の体調管理
② 潜水士と支援班との意思疎通がしやすい雰囲気の醸成
③ 資器材の取り扱い慣熟及び整備の徹底
④ バディ・チームでの活動前後のミーティング
⑤ AED等応急用資器材の準備
⑤ 再圧室を備えた専門病院の把握
⑥ 潮流などの気象海象の状況に合わせた明確な潜水作業中止基準の設定
⑦ 潜水後の航空機の搭乗、高所移動制限
⑧ 十分な休息時間を取ることによる減圧症の防止

潜水作業時の安全対策

海上保安庁

潜水作業時の安全対策として、「潜水作業は水上支援作業とセット」ということを考えています。
支援班は、移動・連絡手段や潜水士自身が事故に陥った場合等のトラブル時の対処支援を実施しています。

また、潜水作業を実施する海域は通航船舶がいることも多く、また夜間や水中視界が悪いこともあるため、支援班による監視、警戒が必要です。加えて、現場海域を全体的に見てもらうことで、天候や海上模様の異変などの外因的な危険察知もしやすくなります。

その他、潜水士としての任務遂行時の考え方及び心構えについて

海上保安庁

海上保安庁の潜水士として第一に大切にしていることは、安全管理の徹底です。人命を救う場面では自身が危険な状況下に置かれることが多いため、安全な環境を作ることや、危険な状況を避ける考え方が必要になります。

潜水作業を行う上で安全管理は自身の命を守り、仲間やチームを守るために重要な基本動作です。具体的には、ボンベ(タンク)の残圧管理、潜水(可能)時間の把握、水深把握などが挙げられます。

また、バディ・チームの状態や装備状況などを確認することも安全潜水につながります。

様々な作業を強いられる潜水士たちは、安全な作業を行うため、必ず作業前のミーティングを行い、バディやチームで作業をする前の意思統一や非常時における対処法等を話し合います。ここで、作業に対する不安の払しょくを図り、スムーズな作業が行え、意思疎通のしづらい水中でのストレスを軽減する効果が期待できます。

水面下では、常に危険が伴い、パニックに陥りやすい状況ですが、潜水士は日頃の訓練を通じて、様々な緊急事態への対処方法を習得しています。状況に応じて危険は変わっていきますが、危険を予測する能力を身に着けることが重要です。

水難救助の最前線で日夜戦う海上保安庁の内部を知る貴重な回答、いかがでしたか?
後編は、一般の海水浴客やダイバーにもできる安全管理の方法について伺った。くわしい内容はこちら

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