日本初、水中彫刻「オーシャン・ガイア」が徳之島に誕生──アートがつなぐ、海と人と未来
鹿児島県・徳之島の海中に、日本初となる水中彫刻「Ocean Gaia(オーシャン・ガイア)」が誕生した。直径5.5mの円環状の彫刻は、藻やサンゴが着生し、魚が集まる「生きるアート作品」として時間とともに姿を変えていく。
彫刻を制作したのはジェイソン・デケアス・テイラー氏。メキシコの「⽔中美術館(Museo Subacuático de Arte)」やオーストラリアの「⽔中⽂化芸術館(Museum of Underwater Art)」を代表作とする彼の最新作となるこの彫刻は、昨年出生率が日本一にもなった「子宝の島」と呼ばれる徳之島を象徴する「命の循環」をテーマに制作され、町の新たな環境・観光資源として注目が集まっている。

スキンダイバーとオーシャン・ガイア
「オーシャン・ガイア」とは
彫刻は高さ2メートル、直径5.5メートル、重量45トンの大規模作品で、中性セメントとステンレススチールを素材に用いている。これらは環境負荷を抑えつつ、サンゴや藻類が着生しやすいよう配慮されたものだ。作品のモデルは日本のモデル・水原希子氏。妊婦を思わせる柔らかなシルエットは、「命を育む母なる海」を象徴している。島の山並みやアマミホシゾラフグの砂紋など、徳之島ならではの自然と文化もデザインに取り入れられた。

水中に沈める前のオーシャン・ガイアとテイラー氏
彫刻は12ピースに分割してイギリスから運ばれ、徳之島で制作したコンクリートの土台に組み上げられた。設置されたのは水深5m。外洋の台風の影響を避けつつ、サンゴの着生や魚礁としての機能が期待できる環境が選ばれている。

島に運ばれた12のピースを組み上げて作られた

過去にサンゴが生きていた場所に魚礁として沈められた
プロジェクトの背景と経緯
計画が動き出したのは2023年6月。徳之島にゆかりのある人物が、島の自然を象徴する作品を残したいという思いから、テイラー氏へ直接メッセージを送ったことがきっかけだ。
翌年2月、テイラー氏は初来島し、約1週間滞在。闘牛をはじめ島の行事に参加し、「徳之島らしさ」を丁寧に吸収した。島の和気あいあいとした人々の対話や子宝の島と言われる空気感などをテーマに、半年かけてデザインを作り上げた。

オーシャン・ガイアにメッセージを書く島の子どもたち
そして2025年10月、地元漁協・建設業者・ダイバーらの協力のもと海中への沈設が完了。
事業費にはふるさと納税等も使われ、町・民間・有志が一体となったプロジェクトとなった。



島の多くの人が関わって完成した
徳之島町の目的と期待される効果
町がこの彫刻に込めたのは、「海と共生するまちづくり」の象徴としての役割だ。徳之島は観光地としての派手さは少ないが、静かに過ごしたい層や富裕層との相性が良く、海底アートを起点に環境ツアーや滞在型観光の拡充を目指している。
また、設置場所はかつて伊勢海老がよく獲れていた漁場でもある。
近年、水温上昇により周囲のサンゴは死滅してしまったが、彫刻には既に藻がつき始めており、今後はサンゴの着生や魚の回帰、コウイカの産卵場所になるなど、海の再生に寄与することが期待されている。
この「変化を目に見える形で感じられること」が、島民にとっても大きなモチベーションになっている。
環境に配慮した素材と設計
土台には通常のコンクリートを使用しつつ、彫刻本体には藻やサンゴの幼生が着床しやすい素材を採用。時間の経過とともに海藻に覆われ、自然と調和していくことが前提に設計されている。台風や流れを考慮した場所選びを行うなど、環境負荷と安全性に配慮した施工が徹底されている点も特徴だ。

設置から約1ヶ月で藻が着き始めている様子 写真提供:マリンサービス海夢居
今後の利用に関して
徳之島町の海岸線は原則「遊泳禁止区域」である。そのため町では現在、安全と環境保全のための利用ルールの策定を進めているところだ。

シュノーケリングやダイビングの新しいポイントとなる
アートがつなぐ「島の海の未来」
作品には、海を生命の源と見なす「母なる海(ガイア)」の概念が投影されており、訪れた人が胎内のような安心感や、海との原初的なつながりを感じられるよう意図されている。サンゴが着生し、魚が戻り、海藻に包まれていくその姿は、まさに「生きるアート」。時間とともに自然と一体化していく過程が、海の価値や環境保全の重要性を伝える存在になっていく。

母なる海を思わせるオーシャン・ガイア
今後は観光・環境教育・地域振興のハブとして、オーシャンガイアを中心に新たな循環が生まれていくだろう。この「海に眠る女神」が、徳之島の未来をどのように形づくっていくのか。その物語は、今まさに始まったばかりだ。
所在地:⿅児島県⼤島郡徳之島町井之川
重量:45,000 kg
素材:中性セメント、ステンレススチール
サイズ:直径5.5メートル、⾼さ2メートル
設置⽔深:5~7メートル(潮位による)
アクセス:岸から短い遊泳、または船で約5分。ダイビング、シュノーケリング、グラス
ボートから鑑賞可能。
主催:徳之島町役場およびとくのしま漁業共同組合
制作期間:2年間
【徳之島からの重要なお知らせ】
この海中彫刻は徳之島の今後の環境啓蒙に重要な役割を担います。2026年4月スタートを目処に、地元行政、漁協により、この場所をスクーバダイビング、スキンダイビング等で利用する場合のルールや、徳之島の環境保護協力への金銭的な取り組みの可能性を含めて検討、策定段階にあります。
2026年3月末日までの期間にも自然条件が合えば潜れますが、SNS等への発信はこの文面を添えて発信していただくことをお願いしております。
ジェイソン・デケアレス・テイラー(Jason deCaires Taylor)


2017年に⾃⾝がプロデュースするブランド「OK」を⽴ち上げ、2021年にはAmazonPrime Video「キコキカク」で初の番組企画・出演・監修を⼿掛ける。2024年、ライフスタイル・ビューティーブランドのkiiksをローンチ。

