ハンマーヘッドシャーク~驚きの生態とトンカチ頭の秘密!ウオッチングの注意点や会える海も紹介

正面から見たハンマーヘッドシャーク

左右に張り出した頭部をもつハンマーヘッドシャーク。このユニークな姿は何かワケあり? どんな暮らしをしていて、世界の海に何種類いるのか? 今回の記事では、皆さんが疑問に持ちそうなことを深掘りしてみたいと思います。

やっぱり気になる「頭」の形

アカシュモクザメ

ダイビングでよく見られるアカシュモクザメ。頭部が左右に大きく張り出していることがわかる

和名の「シュモク」って何だ?

あまりにも有名なハンマーヘッドシャークという名称ですが、これは英名。このサメの仲間は日本近海にも生息しているので、もちろん和名があります。それは「シュモクザメ」。シュモクとは仏具の撞木のこと。金属製の(かね)を打ち鳴らすための棒で、丁字形(ていじけい)をしています。いわゆる金槌をイメージするとよりわかりやすいかもですね。
英名も和名も名前の由来は頭の形というわけですが、そうなるのも当たり前。一度見たら忘れられない、強烈なインパクトがありますから。

ただ、ハンマーヘッドシャークの中には左右への張り出しが小さな種類もいます。ウチワシュモクザメ(後述)やナミシュモクザメなど4種ほどいて、サメ研究の大家(たいか)・仲谷一宏先生は著書『サメのおちんちんはふたつ』の中で“シャベルシュモク”と形容しています。

奇妙な形の頭部の役割は?

張り出しの程度は種類によって差はあるものの、なぜ頭部がこんな奇妙な形なのか? 不思議ですね。その理由として次のようなことが挙げられています。

◆感覚機能が向上する

ロレンチーニ瓶の場所

左右に張り出した部分を観察してみると、先端に眼があります。両眼が離れていることで、敵や獲物の位置や距離をより正確に知覚できます。また、視野が広がることも期待され、実際にアメリカの研究者が測定したところ、一般的な体形のニシレモンザメの水平方向の視野が159度だったのに対し、アカシュモクザメは182度もありました。

眼のすぐ内側の穴は鼻孔です。鼻孔も左右に離れていればいるほど、においがどの方向から流れてくるのか判断しやすくなります。サメにとって嗅覚は重要な感覚ですから、これは大きなメリットでしょう。

また、サメの仲間には磁場や電場を感じ取る、ロレンチーニ瓶という独特の感覚器官があります。ロレンチーニ瓶は傍から見ると小さな孔で、吻部などに集中して開口しています。頭部が左右に長いハンマーヘッドシャークはそれだけロレンチーニ瓶が多く、感覚が鋭敏といえます。大海原を回遊する際は地球の磁場を感知して方向を確認したり、また魚の筋肉運動によって生じる電場を感じ取ることで隠れている獲物を見つけるこができるのです。

◆舵を取る

ハンマーヘッドシャークは頭のすぐ後ろ、「首」のような部分の可動域が広いことが知られています。
例えば、一般的なサメは頭部を下げることができませんが、ハンマーヘッドシャークでは15度も下がります。上にも30度曲がるので上下だけで45度も動き、さらに斜めに傾けることも可能です。
このよく動く「首」で、ハンマーヘッドシャークはT字の頭部を微妙に調整しつ、上下左右に細かく舵取りをしているのです。

◆俊敏に方向転換

アカシュモクザメ()と一般的な体形のサメ()。体に比較して、アカシュモクザメの胸ビレはかなり小さい

一般的なサメの場合、舵取り(方向転換)は主に胸ビレを使っており、遊泳性の強い種類ほど胸ビレが大きい傾向にあります。ハンマーヘッドシャークもよく泳ぐタイプのサメですが、頭部も舵として使っているためか、胸ビレは小さくても十分なようです。

頭部と胸ビレ、2つの舵を器用に使うことで、ハンマーヘッドシャークは俊敏に動くことができます。素早い方向転換や急旋回、急上昇や急降下などアクロバティックな動きが得意なのです。

有名なハンマー3種とその特徴

ハンマーヘッドはメジロザメの仲間

世界の海には500種以上ものサメがいます。いくつものグループに分けられており、その中でハンマーヘッドシャークはメジロザメ(もく)-シュモクザメ科としてまとめられています。
メジロザメ目にはオオメジロザメやイタチザメなど、いかにも「サメ」らしい姿の種類が多いので、ハンマーヘッドシャークのような奇妙な形のものが入っているのは不思議な気もしますね。でも、真横から見ると、ハンマーヘッドシャークもごく普通の体形のサメなのです。

ヒラシュモクザメを真横から見たところ
メジロザメ目でメジロザメ科のオオメジロザメ
の画像はヒラシュモクザメを真横から見たところ。は同じメジロザメ目でメジロザメ科のオオメジロザメ。

シュモクザメ科は、インドシュモクザメ属とシュモクザメ属という2属に分けられています。前者はインドシュモクザメという1種で構成され、頭部の張り出しが非常に長いことが特徴。あまりに細長いため、英語圏ではウイングヘッドシャーク(翼のような頭部のサメ)と呼ばれています。前述の仲谷先生は“ツルハシ”と形容しています。まさにピッタリです。

【FishBase】に掲載されているWinghead shark(インドシュモクザメ)
https://www.fishbase.se/photos/ThumbnailsSummary.php?ID=908
https://www.fishbase.se/summary/Eusphyra-blochii.html

さて、シュモクザメ属にはシロシュモクザメやナミシュモクザメなど世界の海から8種ほどが報告されています。その中から知っておきたい3種類を紹介しましょう。

「ハンマーリバー」を成す種類
アカシュモクザメ

最もポピュラーな種類で、日本で見られるハンマーヘッドシャークもほとんどが本種。しばしば「ハンマーリバー」と呼ばれる数百尾にもなる大群をつくり、季節回遊すると考えられているが、その理由はよくわかっていない。若い個体は沿岸近くに生息し、成長するにつれ深場に移動することが知られており、ときに300m以深の深海まで潜ることも。●分布/世界中の温帯~熱帯海域 ●大きさ/2~4m

ハンマーヘッドならぬ「シャベル頭」?
ウチワシュモクザメ

水深10~25mほどの砂泥底に生息するが、スキューバダイビングで見られることはほとんどない。写真は打ち上げられた個体()と飼育個体()。頭部があまり張り出しておらず、その形状から英語圏ではボンネットヘッドシャークと呼ばれている。こうした丸っこい頭部の種類は、他にもスクープヘッドシャークなどがいる。●分布/南北アメリカ大陸の太平洋側・大西洋側(温~熱帯沿岸)●大きさ/0.5~1.5m

最大6mに達する大型種
ヒラシュモクザメ

グレートハンマーヘッド

英語圏ではグレートハンマーヘッドと呼ばれ、ハンマーヘッドシャークの中では最も大きくなる。大きな鎌状の背ビレと「ハンマー」の前縁部分が直線状であることが特徴。表層から水深80mほどのリーフ付近に生息し、バハマ諸島ではしばしばダイビングで見られる。●分布/世界中の亜熱帯~熱帯海域 ●大きさ/4~6m

不思議でユニークな生態を探る

雑食のハンマーヘッドシャーク?

ヒラシュモクザメ

バハマ諸島にあるシャークフィーディングのポイントに姿を見せたヒラシュモクザメ。口の中には鋭い歯が並んでいる

ハンマーヘッドシャークは基本的に肉食。アカシュモクザメの胃内容物からは、小型のエイやサメ類、アナゴなどの魚類をはじめ、イカ・タコやエビ・カニなどが出てきます。バハマの海では、エイを捕食するヒラシュモクザメも観察されています。

歯の形状から見ても、ハンマーヘッドシャークは完全肉食と長いあいだ考えられていました。まぁ、そもそもサメですし。

ところが2007年、ウチワシュモクザメの胃内容物の半分以上が海草で占められている、という調査結果が報告されました。そのときは「藻場や海草に隠れているエビ・カニ、イカ・タコなどを捕食する際、一緒に飲み込んでしまったのだろう」と考えられてしまったようです。しかし、「いやいや、半分って多すぎないか?」「どんだけ不器用なんだ?」と誰もが疑問に思うでしょう。

そして2018年、ウチワシュモクザメは完全肉食ではなく、雑食性であることが判明しました。カリフォルニア大学アーバイン校のサマンサ・レイ氏を中心とするチームの研究成果です。ウチワシュモクザメには「海草を消化し、栄養を吸収する能力」があったのです。 

もちろん、雑食のサメが確認されたのは世界初の快挙。しかも、その割合もびっくりです。なんと飼育下のウチワシュモクザメに「海草9:イカ1」という海草メインの餌を3週間にわたって与え続けても、すべての個体が健康を維持し、体重も増加したというから驚きです。

「ハンマー」で獲物を捕らえる?

ハンマーヘッドシャークが、頭部に分布するロレンチーニ瓶という感覚器を利用し、砂中に隠れているエイやアナゴなどの獲物を感知することは既に紹介しました。

それだけにとどまらず、「道具」として使うケースが1990年に初めて報告されました。バハマ諸島の海で、「ハンマー」を使ってアカエイを捕食するヒラシュモクザメが観察されたのです。そのヒラシュモクザメは、海底付近を泳ぐアカエイを発見するや素早く近寄っていき、なんと頭部でアカエイを攻撃! 「ハンマー」を叩きつけ、海底に押しつけたうえ食いちぎったというのです。
なかなか激しくもアナログなハンティングですが、これはぜひ見てみたい! ただ残念なことに、スキューバダイビングでよく出会うアカシュモクザメではこの行動は未確認です。

卵ではなくベビーを出産?

サメの仲間は、種類やグループによって実に多様な繁殖スタイルがあります。現生種のうち約4割が卵生で、残りは胎生(たいせい)。つまり6割のサメは卵ではなく、仔ザメを出産するのです。

ハンマーヘッドシャークも胎生のサメですが、驚くべきことに子宮内で「ヘソの緒」を介して母体と繋がり、栄養を補給されて育ちます。まるで私たち(哺乳類(ほにゅうるい))のようですね。アカシュモクザメの場合、妊娠期間は9~12カ月で、13~32尾ほどの仔ザメを出産することが知られています。体長4mとなるシロシュモクザメでは30~40尾、大型種だけあって子だくさんですね。

サメの主な繁殖スタイル

母体からの栄養供給 概略 主な種類
卵生 単卵生型
複卵生型
ない 卵殻に包まれた状態(卵)で生まれ、自分の卵黄で育ち、海中で孵化する ネコザメ
ナヌカザメ など
胎生 卵黄依存型 母体の子宮内で卵殻に包まれて成長し、そこで孵化。
自分の卵黄だけで育ち、やがて仔ザメとして出産されると考えられていたが、
種によっては母体から何らかの栄養供給がある可能性が示唆されている。
ノコギリザメ
イタチザメ
ジンベエザメ
カスザメ など
母体依存型 ある 【食卵タイプ】
子宮内で孵化し、自分の卵黄や無精卵を食べて育つ。
シロワニの場合、無精卵だけではなく子宮内の兄弟姉妹も食べる
ホホジロザメ
オナガザメ
シロワニ など
【子宮ミルクタイプ】
子宮内で孵化し、子宮壁から分泌される栄養物(子宮ミルク)を摂取して育つ
アカエイやナンヨウマンタ、
トビエイなどのエイ類
【胎盤タイプ】
子宮内で自分の卵黄や子宮ミルクで育ち、
やがて胎盤が形成されると「ヘソの緒」を通じて母体から栄養を供給される
シュモクザメの仲間
メジロザメ など

今のところ、サメ類の祖先は卵生で、進化の過程で卵生から胎生へと生殖スタイルが多様化したと考えられています。実際最も複雑なシステムの胎盤タイプは、サメの仲間の中でも高度に進化を遂げたとされるメジロザメ科、シュモクザメ科などメジロザメ目の種類だけに確認されています。ただ、卵生だからといって原始的とは言い切れません。というのも近年、軟骨魚類(エイ・サメ類)の中で最も原始的な繁殖方法は「卵黄依存型の胎生」ではないか、という説も出ているからです。
サメ類の生殖スタイルは、非常にバラエティに富んでおりユニークかつ複雑怪奇。まだまだ研究の余地があり、その解釈は流動的のようです。

メスだけで妊娠できる!?

2001年12月、アメリカの水族館で3年前から飼育されていた3尾のウチワシュモクザメ(すべてメス)の中の1尾が、仔ザメを出産しました。水族館におけるサメの出産・産卵は珍しいことではありませんが、これには世界中のサメ研究者やサメ・マニアが驚愕しました。

というのも、水槽内はずっとオスが不在だったからです。それまでもオスがいない飼育環境下で、サメが繁殖するケースはありました。ただ、すでに自然界でオスと交尾をすませており、その後に水族館にきたのだろうと考えられていました。サメ類のメスは、長期間にわたって体内に精子をキープすることが可能とされていますから。

しかし、このウチワシュモクザメの場合は3年。さすがに期間が長すぎるし、そもそも水族館に来たときは未成熟個体でした。そこで、生まれてきた仔ザメと飼育されていた3尾のメスの遺伝子を調べたところ、1尾のメスが母親であることは確認されましたが、父親(オス)由来の遺伝子は見つかりませんでした。
つまり、このウチワシュモクザメはメスだけで妊娠、出産したのです。世界初、軟骨魚類の単為生殖が確認された事例となりました。

ちなみに、単為生殖とはメスだけで次世代をつくる繁殖スタイル。自然界ではさほど珍しい現象ではありませんが、今まで哺乳類と軟骨魚類では確認されていなかったのです。

このケースのあと、ネムリブカやトラフザメ、ドチザメなど続々と単為生殖できる種類が報告されています。もしかしてもしかすると遠い将来、単為生殖がメインで増えるサメも出現するかも?

ハンマーヘッドシャークと会いたい!

アカシュモクザメの大群

アカシュモクザメの大群。川のように流れていく様は、「ハンマーリバー」と称されダイバー憧れのシーンだ

世界の海の主なハンマーポイント

ハンマーヘッドシャークの中で、最も遭遇率が高いのはアカシュモクザメ。ウオッチングできる海域としては、東部太平洋のガラパゴス諸島やココ島、ヒラシュモクザメと会えるカリブ海のバハマ諸島などが有名ですが、はるばる海外まで行かずとも、日本国内にも遭遇率の高いエリアが3カ所もあります。

◆神子元島

伊豆半島の南東沖合10kmほどに浮かぶ小さな無人島。周辺海域は潮が速く、大物・魚群ポイントとして有名。ドリフトダイビングで潜り、ハンマーヘッドシャークのシーズンは夏から秋。数百尾もの群れが見られる。

◆与那国島

日本最西端として知られる沖縄の島。「海底遺跡」という地形ポイントでも有名。神子元島とは逆で、ハンマーシーズンは冬(12~5月)。ドリフトダイビングで潜る。

◆伊豆大島

6~10月、日の出直後に潜るスタイル。ビーチポイントで水深18m以浅と浅く、ビギナーからチャレンジできる。東京から高速船で約100分というアクセスの良さも魅力。

ウオッチングの注意点

ハンマーヘッドシャークが見られるポイントの多くは潮が速く、ドリフトダイビングで潜ります。エリアや状況にもよりますが、水深が深くなることもあり、ある程度の経験を積み、確実に中性浮力がとれるなど、中級レベレのスキルが必要でしょう。

エリアによっては、ダイビングの経験本数に条件を設けたり、シグナルフロートやホイッスルの携行を義務づけています。事前に現地サービスに確認をとりましょう。
また、ハンマーヘッドシャークに向かって突進したり、ガイドの指示を無視して勝手に行動したりすることはNGです。

ルールとマナーを守って、安全に楽しくハンマーリバーを楽しみましょう。

ハンマーヘッドシャークついて基本的な情報をお届けしました。機会があったら、ぜひハンマーヘッド・ウオッチングにお出かけください。海はもちろんですが、形や泳ぎ方などをじっくり観察できる水族館もお勧めです。

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PROFILE
東京水産大学(現東京海洋大学)在学中、「水産生物研究会」でスキンダイビングにはまり、卒論のサンプルであるヤドカリ採集のためスキューバダイビングも始める。『マリンダイビング』『マリンフォト』編集部に約9年所属した後フリーライターとなり、現在も細々と仕事継続中。最近はダイビングより弓に夢中。すみません。
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