エアを共有しようとしたところ失敗してパニックに

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メンバーが、DANアメリカに寄せたさまざまなトラブルの報告。この報告を専門家が分析・評価して、ダイビングの安全のために役立てています。DANアメリカの協力により、DAN JAPAN会員のみなさまに順次ご紹介します。

※本記事はDAN JAPANが発行する会報誌「Alert Diver Monthly」2021年6月号からの転載です

スキルのリフレッシュは欠かせない

報告されたケース

CASE
兄弟でセルフダイビングをしていて、兄のエアが少なくなり弟のエアを共有しようとしたらレギュレータークリアに失敗して…。

DIVING PROFILE
・BCDのインフレーター体型のレギュレーターを使用した湖でのダイビング
・水深10m前後

私は、兄と一緒にかなりたくさんダイビングをしていて、お互いにどんな時にどうすればいいのかわかっているつもりでした。私は、14歳で認定を受け、現在、61歳です。兄の方は計400本以上のダイビング経験があり、よくダイビング講習の手伝いをしています。10年前くらいから、かなりダイビングをするようになり、おそらく200本くらいダイビングしていて、今年は17本潜りました。

ある日、私と兄は湖でダイビングしていました。計画では、最大水深35〜40フィート(10.5~12m)で、大体は30~35フィート(9~10.5m)のところにいるはずでした。その水深での視程(透明度)はおおよそ8~10フィート(2.4~3m)でした。タンク圧は最初、私が3000psi (200kPa)で兄が2400psi(160kPa)。36分くらいたった時に、兄からエアがなくなった(300psi=20kPa)と合図されました。私のエアにはまだ余裕があったので、兄は私のタンクからエアを吸って、もっと水中にいたいようでした。私のバックアップレギュレーターは、BCDのインフレータ一体型でした。これはとても短いので、それを自分が使って右から来ているメインのレギュレーターを兄に渡す方がよいと判断し、一回大きく息をしてから、それを手渡しました。
 

私は、BCに組み込まれている一体型レギュレーターをつかみ、最初に息を吐き出し、普通に息を吸い込みました。ここでダイビングがうまくいかなくて、90秒ほどのパニック状態へと変わりました。水を吐き出せたと思ったのですが、そうはいかなかったのです。息を吸ったとたんに、水を吸い込んでしまいました。それでむせてしまい、もう一回レギュレーターをクリアするだけの息がなくなってしまいました。二回目に吸い込んだとき半分は水で、もう死ぬかと思いました。そのときは水面に飛び上がりたいと思いましたが、そうしたらどうなるかがわかっていたので、もう一回だけクリアし、息をしてみました。今度は、トラブルを解決するのに十分な呼吸ができました。水を飲んでしまっていたので、まだむせていましたが、もう溺れるような危険はありませんでした。

この時点で、私たちは水面に浮上しました。水面で、どんなことが起こったかを兄に話したところ、レギュレーターをどうして取り返そうとしなかったのかと兄が聞いてきたので、「レギュレーターをクリアするだけ息がないかもしれないと思ったし、それに、自分のヤツでどうにかするのが一番いいと思った」と応えました。すると、なんでパージボタンを押さなかったと聞かれ、血の気が引きました。なんでそうしなかったのか。答えは、自分がそのトレーニングをしたことがなくて、これまで一回もそうしたことがなかったからでした。

自分のエアをバディとシェアすることなんて、完全に身についていると思っていたのでそんなことになるとは思わず、実際に起きて初めて気がついたのです。人生の教訓として学んだのは、基本を決して忘れないように、みんな基本を練習しなければならないということです。私は、基本的な救命スキルを忘れていたために、溺れて死ぬところだったのです。兄がエア切れになった上に、私が水面に飛び上がっていれば、二人とも破滅的だったことでしょう。私たちは、45分休憩して、もう一本ダイビングしましたが、これはよかったです。馬上に戻ったとでもいうのでしょうか。

その日遅くなって、胸の真ん中がちょっと締め付けられるような感じがしました。とても軽いもので、息をするのに問題はありませんでした。水を吸い込んで息苦しかったからだと思っています。2、3日たっても、締め付け感がなくならなかったので、DANに電話して相談しました。そのことが気になっていろいろ質問したところ、医者に診てもらうように勧められました。診察を受けに行き、胸部X線を撮りましたが、幸いにも何も問題はありませんでした。DANのメディカルサービスに電話してアドバイスがもらえて本当にありがたいと思います。他の人たちが私と同じ基本的な間違いをしないように、このメッセージが少しでも役立てば幸いです。

この冬に、私はリフレッシュコースを受けて、基本のすべてをブラッシュアップするつもりです。命に関わる方法を絶対に忘れるわけにはいきませんから。

専門家からのコメント

 
このシナリオから得られる教訓はいくつかあります。バックアップ空気源をクリアする場合、完全にクリアするには数回息を吐く必要があるかもしれません。クリアしてから最初に息をする際には、すごく気をつけて息を吸ってください。ダイバーの中には、最初、少しだけ吸って、息が“ぬれている”かどうかを見る人もいます。また、舌を口元に置くようにして、レギュレーターに残っている水が直に喉に入ってこないようにする人もいます。

BCDと一体になっているバックアップ空気源を扱う場合には、さらにいくつか考慮すべきことがあります。このタイプのバックアップ空気源でエアをシェアする場合、与える方がバックアップ空気源を使って、自分のメインレギュレーターをエアが必要な人に与えることになります。このレポートの場合、ダイバーは正しい判断をして、自分のメインレギュレーターをあげて、BC一体型のバックアップを使っています。気をつけるべきさらに大事なことは、このタイプのレギュレーターは、普通のレギュレーターと同じように保守・点検やメインテナンスが必要だということです。しかし、このレギュレーターに関してはメインテナンスのサイクルが滞りがちなことがあります。というのも、ダイバーたちは、これをBCDだと考えて、レギュレーターとは考えないからです (BCDだと保守・点検の間隔がもっと長くなります)。ダイビング器材を保守・点検に出すときは、これも一緒に出すようにしてください。

バディの中には、エアが一番多いダイバーのタンクからもらって、ダイビング時間を延ばそうとする人がいるかもしれませんが、これは勧められません。第一の理由として、同じタンクから2名の人が吸うと、エアがかなり早くなくなるからです。緊急事態が(他に)生じると、片方のダイバーはもちろんのこと、両方のダイバーのエアが少なくなって、緊急事態にうまく対処できなくなるおそれがあります。

この事例から考えておきたい大事なことが、このダイバーが述べている、“そのトレーニングをしたことがなかった”という言葉からわかります。“そのトレーニング”とは、レギュレーターをクリアするのにパージボタンを使うということ。彼がその方法を教わっていて、そのテクニックを使ったのはずっと前なので、記憶に残っていなかったかもしれないとも思えますし、あるいは、実際にそのトレーニングを受けたことがなかったのかもしれません。どちらにしても、重要なスキルなのは間違いありません。たとえば、レギュレータークリアやエアのシェアなどのスキルは、一定の間隔で実際に行っておくべきものですし、新しい/慣れていない器材を使うときには、特に練習しておくべきです。また、お互いの装備がよくわかっていないなら、バディチェックをする場合に必ずやっておくべきことでしょう。このダイバーは正しい判断をして、この冬に基本をブラッシュアップするリフレッシュコースを受けるようと計画しています。こうした基本のスキルを練習しておくことは、ダイビングの安全に欠かせません。

— Jim Gunderson, DAN Training

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