ジェームズ・キャメロン最新作『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』。フリーダイビングを活かした撮影の舞台裏に迫る

2022年12月16日より、全国の劇場で公開された『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』。2009年にジェームズ・キャメロン監督が手がけ、当時、全世界興行収入歴代1位の大ヒット作となった『アバター』の約13年ぶりとなる続編だ。本作で注目すべきは、タイトルに「ウォーター」とあるように、舞台が海となっていること。さらに主要キャストは全員、フリーダイビングのトレーニングを受け撮影に臨んだとか。そこで今回、オーシャナ編集部がダイバー目線で『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の撮影の様子や、実際に観た感想をお届けしたいと思う。

美しい海辺の楽園が舞台

まずは簡単にあらすじを紹介しよう。前作から引き続き、ダイナミックで神秘的な自然が息づく、地球から遙か彼方にある惑星「パンドラ」が舞台。地球で枯渇したエネルギー資源を得るため、パンドラの資源や土地を奪おうとする人間たちと、自分たちの暮らしや生態系を守ろうとする先住民「ナヴィ」との戦いを描いている。

主な舞台となるのは、海の部族が住む美しい海辺の楽園。その中で描かれているCGとは思えないリアルな水中でのシーンが本作の見どころの一つにもなっている。スキューバダイビングやフリーダイビングを何年も趣味とするジェームズ監督が見てきた水中世界が描かれているかのようだ。

1年以上フリーダイビングのトレーニングをして臨んだ撮影

大ヒット映画『ターミネーター』(1984年)や『タイタニック』(1997年)などを手掛けたジェームズ監督は撮影技法などに徹底的にこだわり、リアルをとことん追求することで知られる監督だが、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』でも、水中でのシーンをリアルに描くために特別な撮影方法を用いたという。

本作での水中シーンの撮影は、リアルな海を再現するために長さ約36.5m、幅約18.3メートルm、深さ約9メートル、約340万ℓサイズの超巨大水槽の中で行なわれたという。水流を作り出すプロペラ・システムも搭載するなど、水槽丸ごとを撮影スタジオとしたわけだ。

贅沢な撮影スタジオにジェームズ監督の作品にかけるただならぬ想いを感じる。 引用:2022 20th Century Studios.

贅沢な撮影スタジオにジェームズ監督の作品にかけるただならぬ想いを感じる。
引用:2022 20th Century Studios.

そして驚くべきは、キャスト陣をはじめ撮影スタッフも息を止めて水中での撮影に臨んだこと。本作では、細かい動作や表情の繊細な部分までCGで表現するためにパフォーマンス・キャプチャー(※)での撮影を行ったが、その撮影方法では水中に気泡あってはならず、クリアであることが必須。だから排気した空気が映り込む可能性のあるスキューバダイビングは不向きだったというわけだ。
※人間の動作に加え、表情の変化もデジタルデータとしてコンピュータに取り込む手法の一つ。

キャスト陣は、本作の撮影を行う前に、フリーダイビングインストラクターのカーク・クラック氏のもとで、フリーダイビングの技術を学んだという。そのトレーニングを受ける中でフリーダイビングの素質を見せたのが、過去に『タイタニック』で主演を務め、本作でも主要なキャストであるケイト・ウィンスレット氏だ。ケイト氏はなんと7分15秒も息どめに成功。ちなみにフリーダイビング競技での女子息止め種目(スタティック アプネア)の世界記録は9分2秒で日本記録が7分6秒なのだから、そのトレーニングと努力の成果、そして秀でた素質さえ伺える。

水中での滑らかな動きがそのまま映像でも表現されている 引用:2022 20th Century Studios.

水中での滑らかな動きがそのまま映像でも表現されている 引用:2022 20th Century Studios.

左からジェームズ・キャメロン監督とジェイク・サリーを演じたサム・ワーシントン 引用:2022 20th Century Studios.

左からジェームズ・キャメロン監督とジェイク・サリーを演じたサム・ワーシントン
引用:2022 20th Century Studios.

左上からケイト・ウィンスレット、クリフ・カーティス、ゾーイ・サルダナ、サム・ワーシントン。水のシーンを撮影する様子。引用:2022 20th Century Studios.

左上からケイト・ウィンスレット、クリフ・カーティス、ゾーイ・サルダナ、サム・ワーシントン。水のシーンを撮影する様子。引用:2022 20th Century Studios.

編集部、鑑賞を終えて

とにかく、リアルな水中映像が美しいという一言につきる。水中に広がる異世界な雰囲気、水中から見上げるキラキラとした太陽光、水中生物が優雅に泳ぐ姿、これらがCGとは思えないほどにリアルに描かれている。ここには美しく滑らかな動きを再現するハイフレームレート(※)という技術が用いられているというが、映画館で3Dメガネをかけて映像を観ていることを忘れるくらいに没入してしまう。また、本作で描かれている水中生物はすべて架空の生き物だが、イカやミノカサゴ、ホホジロザメ、ザトウクジラなどと似ている生物が登場するので、見ていておもしろい。
※通常の映画撮影で用いられる秒間24コマを超えるフレームレートによる撮影。フレームレートが高ければ高いほど映像は滑らかになる。

そして、たとえトレーニングを積んだとはいえ人間にとって不自由な水中で、役柄の心情を表情や身振り手振りで表現するのは、精神的なコントロールも必要だったのではないかと思う。作中には、フリーダイビングの呼吸法のトレーニングをするシーンも出てくるので、そこにも注目してほしい。

もちろん、水中映像だけでなく、そのストーリー性にも非常に共感する部分がある。あらすじの部分でも少し触れたが、人間たちは、地球で枯渇したエネルギー資源を得るため、命の犠牲を惜しまずにパンドラの資源や土地を奪おうとする。まるで、今の地球で起きている地球温暖化や戦争、そのものを投影しているかのように感じた。ザトウクジラを彷彿とさせる水中生物から採れる油を金目的で捕獲しているシーンもあったが、これは鯨油を目的としたクジラ乱獲の歴史とリンクする部分があった。ある意味、社会問題についても考えさせられる映画であった。

いかがだっただろうか。ぜひ劇場で観るときにはここで紹介したキャスト陣の水中での努力にも目を向けて、素晴らしい水中映像を体感してほしい。

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PROFILE
0歳~22歳まで水泳に没頭し、日本選手権入賞や国際大会出場。新卒で電子部品メーカー(広報室)に入社。同時にダイビングも始める。次第に海やダイビングに対しての想いが強くなりすぎたため、2021年にオーシャナに転職。ライターとして、全国各地の海へ取材に行く傍ら、フリーダイビングにゼロから挑戦。1年で日本代表となり世界選手権に出場。現在はスキンダイビングインストラクターとしてマリンアクティビティツアーやスキンダイビングレッスンを開催。
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