鳥取・田後(たじり)「越智隆治はじめてのダンゴウオ」

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鳥取・田後(たじり)の海・越智隆治とダンゴウオ

越智隆治はじめてのダンゴウオ・ドキュメント
~1日半でどれだけ撮れるのか!? 撮影編~

田後ダンゴウオ特集

写真家とカメラマンの狭間で…

はじめてのダンゴウオとのご対面の時がいよいよ近づいてきたというのに、とてもじゃないですが、嬉しそうには見えない越智カメラマン。

「いや、ダンゴウオって、親指の第一関節くらいはあると思ってたけど、小指の爪の1/4あれば大きい方とか言うし……」

確かに、成魚ともなれば、ピンポン玉と思うほどの大きさになりますが、今はベビーラッシュの最中。
ここ田後(たじり)では、抱卵のためか、ダンゴウオの成魚は2月ごろ姿が見られなくなります。
抱卵中のダンゴウオはどこかにはいるのでしょうが、見つけるのはなかなか難しく、3月ごろになってようやく見られるようになってくるのはふ化した幼魚たちなのです。

尻尾を抜かすと2ミリほどの大きさのダンゴウオの幼魚

尻尾を抜かすと2ミリほどの大きさのダンゴウオの幼魚

鳥取・田後(たじり)に来る前、ダンゴウオが数センチだと思っていた越智カメラマンは、タイガーシャークからの劇的な大きさの変化を楽しむ余裕があり、「4メートルが数センチかよ~」という言葉も言いたいだけで、「かよ~」のテンションはどこかいたずらっ子のように楽しげでしたが、数ミリと知った後の「4メートルが数ミリかよ…」という言葉は、魂の溜息のようでした。

“唯一無二”のテーマを“掘り下げる”ことが重要な写真家としては、大型海洋生物にテーマを絞って作品を撮り続け、その分野で確固たる地位を持つ写真家・越智隆治。
「ダンゴ、畑違いだし」「長明さんには敵わないし」という言葉は、弱気のようでいて、写真家としての自信の裏返しでもあります。

しかし、“限られた条件”の中で“結果を出す”ことが重要なカメラマンとしては、畑違いだろうが結果を出さねばならないという思いがあります。
元報道カメラマンとしてはなおさらでしょう。

でも、結果を出したところで、結局は写真家・佐藤長明の撮るダンゴは超えられないし…でも、写真家としては畑違いだからしょうがないし…でも、カメラマンとして結果はある程度出さなくちゃだし…でも、小さいし…(続く)

そんな無限のループの中、ボートに乗り込みいよいよダンゴウオとの対面です。

ブルーライン田後の目の前にある港から乗船。ポイントまでは数分で到着する

ブルーライン田後の目の前にある港から乗船。ポイントまでは数分で到着する

越智隆治、ベビーラッシュに安心する

撮影班を含めて3グループ同時に潜ることを知り、何やら越智カメラマンが困惑の表情。
ただでさえ初めての被写体。
順番待ちのプレッシャーに弱い性格上、じっくり粘って撮影できないことにストレスを感じたのでしょう。

しかし、エントリーしてすぐに、それはまったくの杞憂だとわかりました。

潜降して根に到着すると、先にエントリーした10人近いダイバーたちのほとんどが撮影に没頭しています。
つまり、人数分、ダンゴウオがいるということです。

実際、昨シーズンは、1枚の海藻に最高15個体、1ダイブで60個体のダンゴウオが確認されていて、順番待ちなどあり得ない、最高のダンゴウオの撮影環境。

初めてダンゴウオと対面する越智カメラマンが、「自分で見つけられちゃうんですけど」と驚くほどの個体数。
1本目で、とりあえず撮影環境の良さに安心した様子でした。

今シーズン初の“赤い彗星”も登場! ダンゴウオいろいろ

今回のテーマは「1日半でどれだけ撮れるか? 撮れる海なのか?」。

ダンゴウオといえば比較的ビーチダイビングが多い中、ドボンと飛び込むだけのボートダイビング。
ロープを手繰って潜降すれば、水深10メートル前後のそこがダンゴウオ天国。
撮影環境として最高の状況が整っています。
あとは、「どれだけ撮れるのか?」ということですが、言葉を重ねるより、海況がイマイチの中、越智カメラマンが1日半という弾丸日程で撮影したダンゴウオたちをご覧いただきましょう。

天使の輪。

赤ちゃんダンゴウオの頭には、通称“天使の輪”と呼ばれる模様があり、大きくなるにつれて徐々に消えていく

赤ちゃんダンゴウオの頭には、通称“天使の輪”と呼ばれる模様があり、大きくなるにつれて徐々に消えていく

ペアを上から。

クロメという海藻の表面を探すと、複数の赤ちゃん個体が見つかる

クロメという海藻の表面を探すと、複数の赤ちゃん個体が見つかる

「何匹同時に撮れるのか」にもチャレンジしましたが、同時に撮影できて、絵になったのは3匹でした。

懐かしのダンゴ三兄弟。今回、目で見るこことができた最高は6匹

懐かしのダンゴ三兄弟。今回、目で見るこことができた最高は6匹

さらに、ナイトダイビングでは“持ってる男”の面目躍如。
今シーズン初の“赤い彗星”こと、赤色の親ダンゴウオが登場!

今季初の赤ダンゴウオの成魚です。

田後のダンゴウオ

赤いダウンゴウオの成魚は3~4センチほどの大きさで、越智カメラマンも「これくらいあると撮りやすいね。やっと、納得いくダンゴウオが一カットだけ撮れたよ。やっぱり、笑っているような可愛い表情を撮りたかったからね」とホッとした様子。

1日半と限られた条件でしたが、最後、納得いく写真が撮れ、無事「越智隆治はじめてのダンゴウオ」企画は終了したのでした。

最後に、越智カメラマンに、初めてダンゴウオと対面した感想を聞いてみると、「小さかった」。
そのまま! まあ、可愛いとか絶対に言わない人なのでね……。

では、撮影中はダンゴちゃんに対して何を考えていましたか? と聞いてみると、「動くんじゃねーよ!」。
いや、まあ、それほど、ピントを合わすことに必死だったということで……。

どこか、“ダンゴウオ=アイドル”ということを前提に話をする僕の質問に、予定調和を嫌う越智カメラマンは、ダンゴウオに感情移入するような、決してこちらの欲しい感想は言ってくれませんが、帰りの車の中でボソリ。

「初めての撮影が田後で本当に良かったよ。ここじゃなきゃ、ここまで撮れなかったんじゃないかな。撮影の環境という意味では最高だったよね…」

そうそう! そういうコメント(笑)。
聞かれたわけでもなく、ふとした瞬間にもらしたこの言葉が本音なのでしょう。

撮影者として対峙していたので、ダンゴウオ自体に関しては、あくまでピント合わせが大変な小さい生物だったようですが、写真家としては物足りなさを感じながらも、カメラマンとしては納得いく撮影ができたようです。
そして、それを撮らせてくれた撮影フィールドに満足した様子。

ドライスーツからウエットスーツに着替え、越智カメラマンの次のロケ地は、タイ。
思う存分ワイド写真を撮ってきて欲しいですが、「また、こういう企画やろうね」とマクロ撮影もまんざらでもなかったようです。

田後のダンゴウオ特集

鳥取・田後(たじり)「越智隆治はじめてのダンゴウオ」

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