初心者にもわかりやすいダイブコンピュータと減圧症の話-TUSA IQ850開発者インタビュー
ダイバーなら知っておかなければいけない、ダイブコンピュータの話と減圧症の話。
それぞれは密接にかかわり合っています。
けれど、残念なことにそれをあまりよく知らないダイバーさん・学ぶ機会がないダイバーさんが多いのも事実。
そこで、ダイビング器材メーカー・TUSAで「ダイブコンピュータのことについて調べに調べた」というご担当者・今村さんにお話をうかがいました。
全てのダイバーにとって必読のお話です。
なお、なるべく初心者さんにも分かりやすい表記にしていますが、どうしても他の言葉に置き換えられない用語も出てきます。
「これ、どういう意味だろう?」という言葉があったら、周りのインストラクターに質問されるか、もしくは当サイト宛にご質問ください。
お話をうかがった方:株式会社タバタ 開発・企画制作部 製品広報課 課長・今村昭彦さん、主事・児島武さん
(取材日:2011年5月26日 聞き手:いぬたく 撮影:編集部)
ダイブコンピュータの「なぜ?」
ダイブテーブルからダイブコンピュータへ
児島
今村はIQ-850のことに関しては掘れば掘るほど出てきますし、明日の朝まででもずっと息つぎなしで話せるんですよ。
いぬたく
(笑)どうぞよろしくお願いします。
では、まず今村さんとダイブコンピュータとの関わりからうかがえればと思います。
今村
私自身が開発を直接やってるわけじゃないんですけども、製作依頼しているメーカーに対して「こういう商品を作って」っていうアイディアを出す仕事をしています。
いぬたく
ダイブコンピュータの商品企画のような部分に関わってらっしゃるんですね。
今村
そうですね。
いぬたく
今村さんがダイブコンピュータに最初に触れたのはいつだったんでしょうか?
今村
もともとダイブコンピュータのことはあまり知らなかったんですが、80年代後半からダイブコンピュータなどの各種取扱説明書を作る仕事もしています。それで、だんだん詳しくなってきたんです。
いぬたく
以前はダイブコンピュータではなく、ダイブテーブルを使って潜っていたんですよね?
今村
はい。
ダイブコンピュータが世の中に出てきた頃にビックリしたんです。それまでのダイブテーブルと比べて「なんでこんなに長く潜れるんだろう?深く潜れるんだろう?」って思ったんですね。
いぬたく
ダイブテーブルと比べるとそうですよね。
ダイブコンピュータを手にして生まれた「なぜ?」
今村
ダイブテーブルを基準に潜っていた頃は、1本目に一瞬でも深いところに行ったら2本目ってもうほんとに厳しくなっちゃって、そんなに潜れないんです。
2本潜るのが普通で、3本潜るなんてかなり計画を立てていかないと潜れなかったっていうのが自分の実感なんですけど、ダイブコンピュータが出てきてあまりにも劇的な変化が起こったんです。
いぬたく
「潜れる時間」がガラッと変わって長くなったんですね。
今村
それで「ダイブコンピュータはどういう計算をしているんだろう」ということを考えるようになって、調べ始めました。
それまではコンピュータの計算って、ひとつの式でできていると思っていたんですよ。そうしたら、それが全然違っていて。
いぬたく
はい。
今村
いわゆるコンパートメント(体の組織の区分け)に分かれていて、それぞれ独立した計算を行っているということを知ったんです。
水深が深いところと浅いところでは無減圧潜水時間をきめるコンパートメントがまったく違う、だから浅くなると無減圧潜水時間がすごく長くなる、っていうメカニズムを知ったんですよね。
いぬたく
浅い水深で無減圧潜水時間がいきなり増えるのはそういうことですね。
コンパートメント(体の組織の区分け)ごとに溜まった窒素量をあらわす表示。
組織によって窒素の溜まり方が違うのがよく分かる。
注:左側の100%が減圧潜水に切り替わるライン
日本人ダイバーと海外ダイバーの潜り方の違い
今村
あとは、減圧症患者のことも調べだしたんです。論文・文献を片っ端から見るようになって。
いぬたく
それは主に国内の資料ですか?
今村
はい。
なぜ国内かというと、海外の文献もインターネットで手に入れることができたんですけど、自分も世界中の海をダイビングしていて日本人と外国人では潜り方が違うっていうことが分かっていたんです。
いぬたく
確かに違いますよね。
今村
例えばモルディブへ行くと、ほとんどの日本人って少なくとも3本は潜るじゃないですか。多いとハウスリーフも入れて4本・5本潜りますよね。
でも、外国人ってだいたい午前中2本で終わらせるんですよ。それで午後はゆっくりして、っていう。
いぬたく
そうですね。
今村
しかも潜り方も違うんです。
海外のダイバーってわりとアドベンチャーみたいな感じでどーんと潜って楽しんで、ゆっくり浮上していって、わりと早めに上がる。日本人は、一箇所に留まってマクロ写真を撮ったりすることに重きを置いていますよね。
今村
潜り方のスタイルが違うので、減圧症の患者の分析をするときも海外と日本は分けて考えないと正しい答えが出てこないだろうなと考えました。ですから、あんまり海外の例は見なかったですね。
いぬたく
なるほど、日本人向けのダイブコンピュータなら日本人の潜り方を調べた方がいい、ということですね。
今村
はい。ただ、海外より日本の方がたぶん減圧症の割合が高いだろうなとは漠然と思っていので、DANなどの資料で海外と日本の罹患率を調べたりはしました。