函館のグラントスカルピン・佐藤長明さんと潜る時に思っていたこと

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グラントスカルピンの佐藤長明さん(撮影:越智隆治)

フォト派のガイドさんのいる海に取材に行くことって、撮影慣れしていたり、機材のメンテナンスの事を熟知してくれているから、やっぱりとても安心感があります。

例えば、最悪の場合、そう、水没してしまった場合でも、取材に対応できる機材を借りることもできる。
過去にも何回かそういう事がありました。

今回の函館でのグラントスカルピンでの佐藤長明さんのところでの取材も、当然の事ながら、そんな安心感を持ってお伺いしましたし、寒冷地での正しいカメラ機材の扱い方もお伺いできて、今回の北海道ロケで、一番最初にここに来て長明さんから話を聞いておけば、水没も免れたのではないかと、ちょっと後悔したりもしました。

そういうメリットも多い反面、実はフォト派のガイドさんのところに取材に行くときには、精神的には、普段以上にプレッシャーを感じているんです。
もちろん、そんな気持ちは表には出さないようにはしてるけど。

ガイドの人の卓越したダイビングスキル、海と生物を熟知したホームグランド、プロ顔負けの水中写真を撮影する写真への造詣の深さ。
そして、長年その海を撮影し続けてきたという自負。

笑顔で迎えてくれて、「やっと一緒に潜ることができますね~。嬉しいな~」と言ってくれるその心の内には、(さあ、俺のフィールドでどんな写真を撮ってくれるのか、腕前拝見だな)という思いが充満しているように感じます。

だから、本当は少しでも長く滞在して、そんなガイドの人たちが、納得し、かつ「え!こんな表現の仕方があったんだ」と思わせ、そして「この人になら、自分の愛する海の良さを写真で表現してもらえる」と信頼してくれる写真を撮りたいと思うんです。
そして、それが自分にとってのプロとしての勝負でもあると考えています。
だから、それがなし得なかったときの悔しさは相当なものです。
見せないようにしてるけど。

「北の海の伝道師」と言われる佐藤長明さんの写真は、僕の中では、ある意味未知の海で、今までまったく接点の無い生き物たちの生命で満ちあふれていました。
そんな写真を初めて見た時には、本当に衝撃的でした。
写っている生き物全てが、まるで宇宙生命体かのよう。
そんな生き物たちを小さな海中のフィールドをスタジオに見立て、完璧な構図と、考え抜いたライティングの美しさの中で、より美しいものへと昇華させ、価値あるものに変えていく。
まさに芸術作品だと思いました。

「かなわないな。同じフィールドにいて、これ以上の写真を撮ることができるんだろうか」
そんな思いを常に抱かせる写真を撮る人です。

だから、今回、たった2日間、3本という少ないダイビング本数の間に、自分が取材し、何を表現できるんだろうという、プレッシャーが心の大半を締めていました。
札幌から函館まで、一人で車での移動中、高速道路が一部通行止めになるほどの大雪の中でも、高速道路で目の前で車がスピンして雪しぶきを上げながら、回転して、クラッシュするのを目撃したりしながらも、初めての寒冷地での運転を不安に思うより以上に、函館に着いてからのプレッシャーの方が大きかったように思います。

実は、今回、函館で潜ったときにも、それまでの撮影でマクロカメラが水没してしまっていて、長明さんのマクロ用カメラをお借りして取材を行ないました。
初めて潜る極寒の海で、ほとんど着慣れていないドライスーツを着て、使った事の無いカメラとハウジングを使う。
そして、ガイドは佐藤長明さん・・・・・、めちゃくちゃアウェーじゃん。自分!そんな感じです。
それどころか、Jリーグの優勝チームに練習試合で付き合ってもらう、どこぞの中学校、いや、小学校のサッカーチームくらいに感じていました。
20対0で負けても「まあ、良く頑張ったね」って言われて終わりみたいな。

だけど、一矢報いたい。
20点取られたとしても、泥まみれで、ボロボロになろうとも、絶対に1点は奪ってみせる。
その1点が奪えるか奪えないかで、今後この海に来てまた勝負する気持ちになれるかどうかが決まる。

撮影のターゲットを、今函館、臼尻の海に繁茂する海藻にしぼることにしました。
やはり慣れない機材でのマクロより、せめて自分の得意なワイド。
そう思って1本目を潜ってみたものの、海藻って結構光りを吸収してしまい、思うような表現ができない。
内心焦りながらも、とにかくいかにこの海藻の美しさを表現しようか。
それだけに集中して撮影し、初日のダイビングが終わって、facebookや、オーシャナのヘッドラインに掲載したのが下の写真でした。

北海道のワカメ(撮影:越智隆治)

海藻の写真の割には、「いいね」を結構付けてくれる人もいて、シェアしてくれる人もいました。
でも、気にしていたのは、長明さんが、「いいね」を押してくれるのかどうか。その一点でした。
朝その写真の「いいね」を確認するとそこに長明さんの「いいね」があることを確認しました。

そして、2日目、「僕も撮影しようかな」と言って、長明さんがワイドレンズ付けたカメラを持ち出した事。
この時点で、僕は1点取れた!と思いました。

他の海でもそうなんだけど、フォト派のガイドさんとこに撮影に行って、取材で撮ったお気に入りの写真を見せると、その次のダイビングでカメラを持って入りたがるガイドさんが結構います。
自分が逆の立場になって考えると、もし撮った写真を見て何かを感じてくれていたら「こんな写真が撮れるなら俺もカメラ持って入りたい」そう感じると思います。
僕の思い過ごしかもしれないけど。

でも、その夜居酒屋で飲んでいるときに、長明さんから、「初めてきて、あれだけの写真を撮れるのは、やっぱりさすがですね」と言われたときに、思わず緊張感がほぐれて、隣で酒を飲んでいた寺山君の背中を思いっきりひっぱたいていました。笑顔で。

その後、言わなきゃいいのに、「いや~、あれは、ベストの写真じゃなくて、3番目か4番目に気に入ってる写真なんですよ~」なんて言ったのがいけないんだけど、「普通、あれを撮影できるようになるまでに3日はかかりますね(笑)」と付け足しされました。
でも、少なくとも一矢は報いることができたかなという思いです。

フフフフフ、長明さん、また、函館にリベンジに来ますよ。
次はマクロで勝負です。

と、O型で根が単純な僕は、すでにJリーグ一部リーグ最弱チームくらいには昇格したかな、くらいの良い気になっているのでした。
で、良い気になって、めちゃくちゃ飲んで酔っぱらってたから、携帯を居酒屋に忘れて来ちゃいました~。

函館のグラントスカルピン、是非潜りに行って下さいね。
これから、稚魚も増えてきて、海の中も賑やかになるそうですよ。

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PROFILE
慶応大学文学部人間関係学科卒業。
産経新聞写真報道局(同紙潜水取材班に所属)を経てフリーのフォトグラファー&ライターに。
以降、南の島や暖かい海などを中心に、自然環境をテーマに取材を続けている。
与那国島の海底遺跡、バハマ・ビミニ島の海に沈むアトランティス・ロード、核実験でビキニ環礁に沈められた戦艦長門、南オーストラリア でのホオジロザメ取材などの水中取材経験もある。
ダイビング経験本数5500本以上。
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