素潜りライフのススメ(第8回)

DeepdiveDubai(ディープダイブドバイ)体験記 日本人初!世界一深いプールで素潜りした男

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「世界一深いプール」をご存知だろうか?

それは、アラブ首長国連邦(UAE)に2021年7月にオープンしたばかりの「ディープ・ダイブ・ドバイ」。深さ60m、水量1400万リットル、巨大な水中都市をイメージしたさまざまなオブジェを備えるほか、音楽や光など最新のテクノロジーが取り入れられ、「世界一深いダイビング用プール」とギネス記録に認定されている。

「行ってみたい!!」
「潜ってみたい!!」

とダイバー・スキンダイバーなら誰もが興味をひかれると思うが、気軽に海外旅行することが難しいこのご時世、そう簡単には行けない。しかし、早速このプールに素潜りで潜ってきた日本人がいる。フリーダイバーの菊本(きくもと)丞馬(じょうま)氏だ。

彼はこの9月にキプロス共和国のリマソールで行われたフリーダイビング世界大会(AIDA World Championship2021)に、日本代表選手として出場。FIM(ロープを手繰って潜る種目)で水深81mという快挙を成し遂げた。日本歴代第3位の水深だ。

競技で浮上後にサインを作る菊本氏

競技で浮上後にサインを作る菊本氏

この大会の帰途、乗り継ぎであるドバイにストップオーバーしてこのプールを訪問したという。このプールにはこれまでスキューバダイビングで訪問した日本人は2名。フリーダイビングで訪れたのは、菊本氏が日本人で最初とのことだ。

実は筆者は菊本氏とは今大会でチームメイトであり、自分も帰路このプールに立ち寄りたいところをスケジュールの都合上、泣く泣く断念した。というわけで、今回は素潜りのエキスパートである菊本氏が体験した世界一深いプールでの素潜りをレポートし、バーチャル体験をしてみたい。

誰でも世界一深いプールに潜れるのか?

「Scuba dive(スキューバダイビングコース)」と、「Freediving (フリーダイビングコース)」が用意されており、Cカード(※)を持っていればランクに応じた深度を潜ることができる。持っていない場合は体験コースではスキューバは最大12m、フリーダイビングは5mまで潜水できる。
詳細は公式サイトにて

※Cカード…スキルや知識を認定する資格。スキューバダイビングだけでなく、フリーダイビングも現在は複数の団体が国際的に通用する認定カードを出している。

ちなみに安全管理上、深度制限はかなり厳格に設けられており、現在は60mの水底まで潜ることができるのはスキューバのテクニカルダイバーのみ、とのこと。菊本氏の場合、メジャーなフリーダイビング団体AIDA Internationalの上級ランクの資格である「AIDA4」(素潜りで32m潜れることが認定条件の一つ)を有している上、数日前に世界大会で80m以上を潜っていたが、今回は最大45mまでの素潜りしか許されなかったとのことだ。

訪問する際にはスキューバダイビングまたはフリーダイビングの認定と、事前予約が必ず必要なので注意したい。

また、感染症予防のためもあってか、無料で見学できる同行者は1名のみ。しかし子どもはカウントされないため、菊本氏は家族4名で訪問したとのこと。

フリーダイビングでの入場料は日本円で約30,000円、滞在できるのは2時間ほどと、かなりのお値段だが、その実態はいかに。

いざプールへ

こちらがプールサイド。ドバイのプールというと、さぞゴージャスできらびやかと思いきやスッキリとシンプルな様子だ。

ディープダイブドバイ

この日はダイバーが10名、フリーダイバーが3名ほどいたとのこと。参加したのは1名にも関わらず2名のインストラクターの付き添いがあり、英語でのやりとりができた(日本語でのガイドはないようだ)。

プールサイドに腰掛け、水中を眺めると

水面から水底都市の様子が見える。透明度40mはあるだろうか。当たり前だが恐ろしく澄んでいる。

まずは、真水は海水とは浮力が異なるので浮力チェックをするようにインストラクターから指示が出された。    

いざ潜ってみる。

潜りながらロープにつかまり「中性浮力」を確認する。15m地点で浮きも沈みもしない状態、中性浮力となった。海水とくらべて2kgの浮力の差があった。キプロスの海でつけていた2kgのウエイトを外し、ノーウエイトでちょうど良かったようだ。

水温は温かく、30度ほどもある。菊本氏がつい先日までいた地中海はサーモクラインがあり水底は21度、波や流れがきつかった。それと比べると楽園。このプールはまるで「フィリピンの海」とのこと。冷たい海が苦手な人には最高の環境だ!

まずはウォーミングアップで20m。

何もない海と違って、水中の景観がともかくおもしろい。

「自転車や小道具など写真映えポイントは水深18mよりも浅い場所にあり、それより深い場所はただ単に穴がぽっかり空いているだけ」ということが確認できた。

快適な環境にすっかりテンションも上がり、浮力チェックとウォーミングアップを終えたところで、いよいよ60mの水底までアプローチ!と思ったところ、この時点で最大45mまでしか潜れないことが発覚し、ショックを受けている菊本氏。

60mまで潜る気満々だったのに…残念。
でもまあ仕方ない…と気を取り直し、制限深度の-45mにアプローチすることに。

浮力が少ないため、水面では浮力のあるヌードルに座って呼吸を整え、得意のFIMで潜行開始。

20mを超えるとただのぽっかりと空いた穴。下の方はかなり暗いようだ。

世界大会で80m以上を潜ってきたばかりの彼にとってはごく軽く潜れる深度だが、プールでの45mとはやはり激レア体験であることには違いない。

浮上中の景色もなんとも不思議だ。

無事浮上し、「アイムOK!」。フリーダイビングで競技後に必ず行うこのサインは、全世界、海でもプールでも共通のお約束の動作だ。

「波も流れもなく、塩辛くもなく、潜りやすい。練習には最高だね!…値段を除けば(笑)」
とのこと。

最大深度を潜った後は、いよいよプールの探検へ

トレーニング的な潜りはこの辺りで切り上げ、プール内の探索へ。

「水面から5mほど下を見ると、下のフロアからガラス越しにプールを見ている家族を確認できました。合図などを送り、向こうからも写真や動画を撮ってもらうことができます」。

プールの外で水中の父の姿を見守る家族と対面。

プールの外からはこのようにばっちり見えていたそうだ。まるで水族館のようだ。

家族写真をパチリ。

よくみると水中トイレ…。

車を発見。ドアを開けなくてもそのままシートから飛び出せる感覚もおもしろい。

水中ビリヤード。どうも体が安定しない。まるで宇宙船の中にいるようだ。(乗ったことないけれど)

水中バイクに飛び乗る姿は、まるでアクションヒーローの気分。

インストラクターが水中で一緒にゲームをしてくれた。勝つのは息が長持ちする方!?

一人で行ってもインストラクターが一緒なので、持っていった水中カメラで写真を撮ってくれたり、あちこち水中を案内してくれたりするため、楽しく過ごせたそうだ。

そうこうしているうちにあっという間に1時間半ほど経過。

「体感的には短くも長くもなく、ちょうどいい時間でした」とのこと。

「付き添ってくれた家族は、ガラス越しにこちらを見て楽しんでいる様子でしたが、1時間半と長くなるのでよっぽどでなければ普通は飽きるでしょう(笑)」とのこと。さすが仲良し菊本家の家族は、退屈もせずに鑑賞できたようだ。

以上で世界一深いプールのフリーダイビング体験は終了。いかがだっただろうか。

深く潜るならば海で潜ればいいのに、と思いつつも、やはり真水にさまざまなオブジェがあるこの空間は魅力的。これまでにない水との戯れ方ができそうだ。このプールをどんなふうに楽しむか、想像力が広がる。

非現実的な空間、フリーダイバーによるアートのような作品もぜひ見ていただきたい。

コロナが収束し、また自由に旅ができる世界が戻ってきてほしい、と願いながら夢を膨らませよう。そして、来るべき日に備えて、まだスキューバダイビングやフリーダイビングのライセンス(Cカード)をお持ちでない方は、国内で取得しておくことをおすすめする。

フリーダイバー菊本
ディープ・ダイブ・ドバイ公式ホームページ
フリーダイビング団体AIDA International
フリーダイビング世界大会(AIDA World Championship2021)
フリーダイビングチーム日本代表

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PROFILE
Apnea AcademyAsiaフリーダイビングインストラクター。 2015年フリーダイビング日本代表選手。CWT(フィンをつけて潜る競技)では水深-60mの公式記録を有する。オーシャナ主催のスキンダイビング講習会ではメイン・インストラクターをつとめる。また、自ら主催するフリーダイビング&スキンダイビングサークル「リトル・ブルー」や地元葉山での素潜りを通じ、素潜りや水の世界の素晴らしさを伝える活動をしている。
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