積丹のウニと藻場を守れ!漁師とダイバーが手を組んだ再生プロジェクト

北海道積丹(しゃこたん)町。

古くはニシンの大漁場として栄え、現在も主要産業である漁業の中心は「ウニ」。
ウニ漁の解禁となる6月から8月の間には、北海道のみならず全国から積丹のウニ丼を求めて多くの人が訪れます。

北海道積丹町(撮影:大川拓哉)

そして、積丹は北海道ダイバーの聖地。

積丹半島神威岬(かむいみさき)から連なる断崖絶壁の海岸は、「ニセコ積丹小樽海岸国定公園」の一角をなし、北海道で唯一の海中公園に指定されています。

積丹ブルーと称される独特の海の色は、時に抜群の透明度も相まってダイバーたちを魅了し、週末ともなれば実に多くのファンダイバーで賑わっています。

北海道、積丹ブルーの海(撮影:大川拓哉)

このように好漁場と好ダイビングポイントは得てして重なり合うが故、多くの地域で漁師とダイバーの関係は良好ではない事も少なくなく、大きな対立や摩擦が生じている話も耳にします。

しかしこの積丹町では、漁師とダイバーが協同で海づくりに取り組んでいます。

こう書くと「ああ、プロダイバーが作業を手伝ってあげて関係を取り繕ってダイビングをしやすくしてるのね」という、よくある話に聞こえるかもしれません。

しかし関係者にインタビューをしてみると、もっともっと進んだ取り組みである事が見えてきました。
活動のひとつである、私も参加している「ウニの間引き作業」を軸に紹介します。

ウニと藻場のバランスをとるために行われる間引き

積丹のウニがおいしいのは良質なコンブやワカメを主食とするため。
コンブやワカメなどの海藻やアマモが生い茂るのが藻場(もば)。

北海道、積丹の藻場(撮影:大川拓哉)

陸上の植物同様、光合成を行い酸素を生み出します。

また、海藻自体が海の生物の餌となったり、外敵から身や卵を守る隠れ家としての役割など、海の生態系のオアシスのような存在。

しかし近年、全国的に藻場が縮小傾向にあり、積丹も例外ではありません(地球環境の変化などが原因と推測されていますが、はっきりした理由はわかっていません)。

藻場が衰退するとウニが育たなくなります。
そして衰退した藻場にウニが集まると藻場が食い尽くされてしまいます。

藻場とウニの適正なバランスというものがあり、そのバランスを取るための手段のひとつとして「ウニの間引き」が行われているのです。

海中のウニを捕獲し、一時的に別の場所へ移動させる。
藻場が再生したらウニを移植する。
時に藻場に対して多すぎるウニを減らすために間引く。

これら作業は本来「潜水具を装着しての漁行為」に当たり、漁業権のない者が行うことが出来ません。
また水中での労務は潜水作業に該当し、潜水士免許も必要です。

しかし今回紹介の「美しい海づくりプロジェクト」では、漁業関係者のみならず、いわゆるレジャーダイバーも参加できる仕組みを構築しているのです!

「美しい海づくり協議会」にインタビュー

このプロジェクトの主体が「美しい海づくり協議会」なる団体(以下、協議会)。

これまでの経緯を、世話人の細川さん(会社員でレジャーダイバー)、安全管理を行う大塚さん(作業潜水会社・代表)のお二人にお聞きしました。

――

どんなきっかけでこの活動が始まったのでしょうか?

協議会

浅場で採られて少なくなったウニを深場から移して育てる「深浅移植」は漁業関係者の手で以前から行われていました。

しかし従事者の高齢化が進み担い手の不足が深刻化してきたそうです。

(東しゃこたん漁協)副組合長の神(じん)さんが、山崎さん(積丹マリーン:現地ダイビングサービス)に、酒の席で相談し「それならダイバーに参加してもらおうか?」となった話がきっかけですね。
平成18年ころの話だと思います。

――

法律上、漁業権の壁がありますよね?

協議会

そもそも平成19年から21年の3年間、国の事業である「環境生態系保全活動支援事業」の認定を受けての活動なのですが、何度も折衝を重ね、プロジェクトに対し「特別採捕許可」を北海道知事から受けました。

――

潜水士免許が必要になりますよね?

協議会

作業自体はボランティアであり(雇用→労働の関係ではない、という解釈)、漁協が責任を持って一元的に参加者の管理を行うと言う条件のもと、潜水士免許はなくても良いというお墨付きも得ています。

――

さらに大塚さんのプロの目で作業の安全管理を担っていると?

協議会

作業自体は漁協が立案・管理しますが、実際の潜水作業をダイバーが行います。
やはりダイバーの安全管理が大事だと考えました。

最近はレジャーダイバーだけでなく漁師の若手も参加しています。

北海道、積丹の美しい海づくり協議会大塚さん(撮影:大川拓哉)

作業を説明する大塚さん

――

現在の活動形態は?

協議会

平成24年より、やはり国の事業の「水産多面的機能発揮対策事業」の認定を受けて実施しています。

取り組みが評価され、平成24年度の「全国豊かな海づくり大会」で環境保全部門・大会会長賞を受賞しました。

授賞式では(協議会)会長の神さんが、天皇陛下からお言葉を頂戴して末代までの自慢話が出来たと…(一同笑)。

北海道、積丹の美しい海づくり協議会会長の神さん(撮影:大川拓哉)

協議会会長で漁協副組合長の神さん

――

本日、私が参加させて頂きましたのは除去作業ですが他の活動は?

協議会

日本財団からの助成を受けて、子供たちが海について学ぶレクレーション活動なども開催しています。

藻場の再生だけでなく地域振興や情操教育など、積丹の海の活動を通して漁師もダイバーもこの美しい海を未来につなげていくのが役目だと思っています。

北海道、積丹の美しい海づくり協議会細川さん(撮影:大川拓哉)

協議会・世話人の細川さん

――

これだけ漁師とダイバーが良好な関係を築けた要因は?

協議会

やはり20年にわたり積丹でダイビング業を営む山崎さんの人柄だと思います。

北海道のダイビングサービス・積丹マリーン(撮影:大川拓哉)

積丹マリーン(現地ダイビングサービス)

――

本日はありがとうございました。

お話をお聞きして感じたのは、美しい海を願うのはダイバーも漁師も同じと言うこと。
豊かな海を潜り、楽しみ、陸に上がっておいしいウニ丼を食べる。

その両方のベースとなる「藻場」の再生・保全にレジャーダイバーが参加できるというのは全国でも珍しい取り組みなのではないでしょうか。

この仕組みに取り組んでこられた関係者の尽力に敬意を表すると同時に、末永く続けて行くことが出来るよう願ってやみません。

北海道、積丹の美しい海づくり協議会メンバー(撮影:大川拓哉)

美しい海プロジェクト、10/19第一回作業日のメンバー

北海道、積丹の美しい海づくりプロジェクト(撮影:大川拓哉)

作業準備の様子(索の設営)

北海道、積丹の美しい海づくりプロジェクト(撮影:大川拓哉)

水中での作業の様子

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PROFILE
グアムでCカードを取得~沖縄リゾートダイバーだったはずが、新千歳-那覇直行便が廃止となったのを機に?北海道で潜り始める。
 
セルフでしっかり潜りたくてプロダイバーになったはずなのに、インターンで目覚めて?ガイド業へ。

テレビのカメラマンだったはずが、水中デジフォトインストラクターに。
 
積丹半島をベースに、北海道を幅広く潜っています。
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