“ダイバーのかかりつけ医”の存在とアテンドダイビングの有用性 ~ダイバーズクリニックの役割~
2016年11月12日(土)、東京海洋大学越中島キャンパスにて開催された、DANジャパン主催の「第18回安全潜水を考える会 研究集会」。
講演で行なわれた4つの演目の中から、数回にわけて、ダイバーに役立ちそうな情報を、個人的な見解も交えつつポイントのみ紹介する。
※詳細は会報誌に掲載される予定
今回は、日本では珍しい“ダイバーズ外来”のある「南あたみ第一病院」院長の鈴木卓先生による「ダイバーズクリニックの役割」から。
ダイバーズクリニックの役割―安全潜水の一助として
~鈴木卓先生(南あたみ第一病院)~
「南あたみ第一病院」では、日本では珍しい「ダイバーズ外来」が行なわれている。
元海上自衛隊の医官であり、ダイビングのインストラクターである鈴木先生が院長であることから、一般病院としての視点、潜水医学の標榜病院としての視点、ダイバー(インストラクター)としての視点を持つ、ダイバーにとってはありがたい存在だ。
主な診療内容は、
- ダイバー検診
- ダイバーの医学的サポート(身体的・精神的)
- ダイビングトラブル発生時の一次・二次救急対応
感銘を受けたのは、「ダイビングが継続できる」という視点で、健康診断や診察を行なっているという点だ。
医師としては、リスクを提示するのみ、「可能ならやらない方がいい」と言うことが簡単で、リスクヘッジとしては大切かもしれない。
そういう意味では、ダイビングしたいという希望を絶たれるのではなく、可能性を探っていただけることが前提の病院は、ダイバーにとってはとてもありがたい存在だ。
さらに、素晴らしい取り組みとして、「アテンドダイビング」を行なっている。
アテンドとは、直訳すれば「付き添う」という意味で、文字通り、先生が自ら付き添って潜るダイビングのこと。
ダイビング中の観察やエグジット後の検査から問題点を確認し、解決策を探るという、まさに、ダイバーと医師としての視点が活かされるダイビングだ。
例えば、以下のような観点から観察、検査を行なっているとのこと。
■ダイビング中の観察
・肉体的観察
・泊脈数カウント
・呼吸数カウント
・速度の意識的変化
■エグジット後の検査
・血圧や脈拍の測定
・神経学的理学所見
・心音や呼吸音聴診
・血中酸素飽和度測定
・メンタルチェック
今回、詳細は省くが、具体的に3例の症例が紹介された。
うち2例は「普段の生活環境では無自覚、精査で異常なし」という結果で、セルフダイビングである環境や、ブリーフィング不十分、ガイドの気配り、スケジュールの問題など、主に安全管理の問題が指摘された。
つまり、医学的見地から異常がないことがわかり、インストラクターの見地からストレス要因が問題視されており、ダイバーズ外来ならではだろう。
また、医師からの「医学的見地から異常がない」という結果は、大きな安心感を得るのに大きな役割を果たしていると想像できる。
もう1例は、ダイバーズクリニック受診がきっかけとなり、改めて行った追加検査にて、器質的異常が見つかり、内服治療で症状が消失し、現在ダイビングを楽しんでいるとのこと。
ダイビング中に限っての異常であるのかどうか重要なポイントを見極めるうえでも、ダイバーズ外来、アテンドダイビングの有用性がわかる。
そして、最後に、「信頼のおけるリーダーのもとでのダイビングをする」ことを強く推奨し、ダイバーズクリニックの役割とは「ダイバーにとってのかかりつけ医」と結論づけた。
最後に
ダイビングの継続が前提の“ダイバーかかりつけ医”の存在というのは、ダイバーにとってありがたく、素晴らしい取り組みというほかない。
アテンドダイビングは、インストラクターと医学的な知見が入ることによる問題発見という有益性はもちろんのこと、医学的に異常がないということがわかるだけでも、大きな安心感を得られるはずだ。
しかし、現在は、ダイビングを愛する先生の善意で成り立っている部分が大きいように感じられる。
アテンドダイビングが普及する上では、医師側のリスクや金銭面についての、ダイバー側の理解やバックアップが不可欠だと感じた。