スキューバダイビングの合間に素潜り(スキンダイビング)していいの? ~「第18回安全潜水を考える会 研究集会」~
2016年11月12日(土)、東京海洋大学越中島キャンパスにて、DANジャパン主催のセミナー「第18回安全潜水を考える会 研究集会」が開催された。
講演で行なわれた4つの演目の中から、数回にわけて、ダイバーに役立ちそうな情報を、個人的な見解も交えつつポイントのみ紹介する。
※詳細は会報誌に掲載される予定
今回は、スキンダイビングやフリーダイビングの研究者として知られる藤本先生による「安全な素潜りのために」。
安全な素潜りのために
~藤本浩一先生(東京海洋大学)~
具体的なテーマは、著書でも紹介していない「スキューバダイビング前後の素潜り(スキンダイビング)」と「子供の素潜り」。
スキューバダイビングの合間に素潜りはOK?
午前1ダイブ、午後1ダイブのスケジュールで、その間や前後に素潜り(スキンダイビング)をしてよいのかどうか。
つまり、ダイビング後の窒素のたまった体で、急激な水圧変化での運動により、窒素が気泡化し、減圧症になるのでは? という懸念だ。
先生の第一声は、「エビデンスが少なくて、明確な答えに困ってしまう」。
実際、DANのHPを見ても、ドクターの間でも、絶対だめ、時間をおけば大丈夫、浅い水深なら大丈夫、など、意見がわかれている。
海外の論文には、「2時間くらいは時間をあけて5m以上は潜らなければ大丈夫」といったものもあるが、藤本先生が的を射ていると考えているのが、デューク大のDr.ホロックの見解。
- MAX12mで30分のスキューバダイビングの1時間後に、9mを越えない範囲で素潜り
- 3~4.5mの素潜り直後のスキューバダイビング
- 午前に9mを越えない範囲で素潜り、午後にスキューバダイビング
以上のようなケースはおそらく安全というものだ。
※当然、無減圧潜水の範囲ということは前提で、ギリギリのところで潜れば潜るほど減圧症を罹患するリスクは高まる
減圧症は生理的要因が多く、エビデンスも少ない中、具体的な例を提示していただいたことは大きい。
一方で、「明確な答えに困る」と先生がおっしゃるように、最終的には、こうした情報をもとにダイバーが自分でマネージメントするしかないだろう。
子供の素潜りは大人と同様でいいの?
海遊びが大好きな子供たち。
彼らの好きなように、大人と同様にスキンダイビングをさせていいのだろうか?
まず、おさえておきたい前提として、「大人に比べて、子供は、外的要因による体温の上昇や下降のスピードが速い」ということ。
【大人と子供に比較】
1. 暑さ寒さを感じる能力
子供<大人
2. 体温を上げたり下げたり調整する能力
不明
3. 暑い部屋にじっとした状態でかく汗
子供>大人
4.汗に含まれる塩分など
子供<大人
以上の違いを踏まえた上での対応策は……。
【マネージメント】
- 夏における活動時間&水中での活動時間 → 大人の基準で考えるよりも短く
- ウエットスーツの利用 → 積極的に行った方がいい。しかし、陸上での着用は最小限に
- 子供の状態をよく観察する → 唇の色やふるえなど。子供には「寒い?」と聞いても正しい回答が期待できない
- 水分補給 → こまめに。水でよい。積極的な塩分補給は大人ほど必要はない。
もうひとつ、よくある疑問、「限界まで息こらえさせて大丈夫?」。
具体的な症例は省くが、限界まで息ごらえをした子供の中枢神経系の異常2例が報告がされ、気胸みたいな症例や中枢神経系の異常もあり得るとの指摘。
ただ、もう少し症例が重なっていく必要がありそうだ。
そんな可能性を踏まえた上での、先生のマネージメントは以下。
【マネージメント】
- 限界まで息こらえさせない
- 時間、距離、深度に関する競争をさせない
- 小学校高学年~中学生には要注意
- 胸痛や呼吸困難感、めまいや感覚異常がないか確認する →あれば適切な医療機関に診てもらう。小児科がよい
その他、素潜り(スキンダイビング)での減圧症の可能性について、「20mで繰り返し潜水すると減圧症はあり得るのではないか。特に、神経症状。脳動脈を詰まらせる」という指摘もあったが、フリーダイバーの領域かもしれない。
また、素潜りだと減圧症は起こらないという先生もいるとのこと。
最後に
ダイビングの合間の素潜りはOK?
聞かれて困ったことのあるインストラクターやガイドもいるのではないだろうか。
情報がひとり歩きして、現場で「ダイビングの合間に素潜りすると減圧症になるから危険!」と断定されていることもあれば、反対に、情報に無頓着で「全然、大丈夫でしょ」という声も聞くが、双方、正解でもあり不正解でもあるということだろう。
まずは「明確なことはわからない」ことをわかることが大切で、その上で、自らがマネージメントしなければならないということだ。
そして、そんなマネージメントをする上で、エビデンスが少ない中、具体的例を出していただいたことは、昨今のスキンダイビングやスノーケルブームの中で有意義だろう。