超重要ポジション!ハンディキャップダイバーをサポートする“ダイブバディ”に注目!

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ハンディキャップダイバーとダイブバディの画像

ダイビングを安全に楽しむためには、インストラクターだけでなくバディの存在は必要不可欠だ。そして障がいがある方にとっては、そのバディがハンディキャップダイビングの専門知識を持った「ダイブバディ」であればとても心強い。

それにも関わらず、まだまだ知名度が低いこともあり、成り手が不足気味なのが現状のようだ。

そこで「ダイブバディ」をクローズアップすべく、世界最大の障がい者ダイビング指導団体、HSA(Handicapped Scuba Association) の日本支部HSA JAPANで代表理事を務める太田樹男氏と、太田氏が運営するダイビングショップシーメイドにて「ダイブバディ」として活躍中の小池由莉氏(※1)に、ダイブバディの役割や具体的なサポート内容、やりがいについてお伺いした。

※本記事は2021年2月のインタビューをもとに作成しています。
(※1)2022年2月現在はHSAインストラクター、HSAアダブテッドサポートインストラクターとして活躍中。

太田氏に聞く!ダイブバディって何?どんな役割なの?

編集部(以下、—)

「ダイブバディ」とはどういったものですか。

太田樹男氏

太田氏

太田氏

ハンディキャップを持ったダイバーのサポーターであり、バディのことです。HSAが用意するコースを受講して十分な知識とスキルを身に着けていただいた方が認定されます。基本的にはOW(オープンウォーター)以上のクラスで経験本数は38本以上、なおかつCPRレスキューの資格を持っている人が対象です。とはいえ、ハンディを持った人に万一のことが起きても、冷静に対応しなければなりませんので、実際はPADIでいうところのレスキューダイバーレベルが一番ふさわしいのかなと思います。

「ダイブバディ」の役割について教えてください。

太田氏

役割を理解していただくためにも、HSAの‟マルチレベルシステム”をご説明します。マルチレベルシステムとは、ハンディキャップダイバーを、‟その人ができること”によって3つのレベルに分け、安全管理を行うシステムのことです。認定されたレベルに応じて安全管理の条件も変わります。

3つのレベル分けには、ダイバーが基本的なレスキュースキルを使用して別のダイバーを支援する能力、またはダイバーが必要とするであろうサポートの種類に基づいて細かく判定していますが、ここではわかりやすくするために判定条件は簡易的に表記します。

条件
マルチレベルA ・健常者の方とおおむね変わらない状況でダイビングができる。
マルチレベルB
  • ・一部の項目に制限があるが、インストラクターやダイブバディ、他者の手を借りてクリアできる。
  • ・緊急時にはセルフレスキューを行うことができる(ただし他のダイバーをレスキューすることはできない)
  • ・マルチレベルA以上の認定を受けた2名以上の認定ダイバーと共に行動することが必要。
マルチレベルC
  • ・ほとんどの項目に制限があるが、インストラクターやダイブバディ、他者の手を借りてクリアできる。
  • ・セルフレスキュー、水中で泳ぐ、浮力制御デバイスを操作して降下することはできない。
  • ・マルチレベルA以上の認定を受けた2名以上の認定ダイバーのサポートが必要。うち1名は国際的に認められたダイビング認定団体によってレスキューダイバーとして認定されている必要がある。

マルチレベルAの人は、ハンディキャップダイバーの受け入れをしているダイビングショップに限定しなくともダイビングを楽しめる方たちなので、今回は説明を割愛しますね。

次にマルチレベルBの人をみていきます。たとえば、目が見えないB(以下B)がバディに対して予備のセーフセカンドステージ(オクトパス)を渡すことができなかったら、この部分に関してはダイブバディのサポートが必要と判断します。

Bがダイビングを楽しむためには、インストラクターの他に1人以上のバディをつけることが条件です。インストラクターとBが1対1の場合は、ダイブバディは1名必要といった具合です。この時のダイブバディの役割は、インストラクターのバディもしくは、Bのサポートです。

最後にマルチレベルC(以下C)の人。Cには、インストラクターの他に2人以上のバディをつけることが条件。Bより1名サポートが増えるイメージです。

そしてBとの決定的な違いは、セルフレスキューおよび他のダイバーをレスキューできないこと。万が一、インストラクターにトラブルがあった場合、インストラクターも自分も助けられません。この時のダイブバディ2人の役割は、インストラクターのバディおよびCのバディです。

なるほど。BとCは「ダイブバディ」がいなければダイビングが成立しないということですね。

太田氏

その通りです。ダイブバディを単なるインストラクターの手伝いをする人と思われている方もいらっしゃいますが、そうではありません。ハンディキャップダイバーがダイビングを楽しむために必要不可欠な‟土台”のような役割を担っています。

インストラクターまたはハンディキャップダイバーのどちらに万一のことが起きても、適切なレスキューを行う能力が必要ですね。

太田氏

はい。一般的なレスキュー技術に加え、障がいに関する基本的な医療の知識を持ち合わせていなければなりません。ハンディキャップダイバーは健常者に比べると体の循環が悪い場合があるので、窒素がたまりやすいなど、ハンディキャップダイバーに特化した減圧症予防の知識も必要です。

ダイブバディになるには、ハードルが高い気がしてきました。

太田氏

「やりたい!」、「やってみたい!」という気持ちが何よりも大切です。HSA ダイブバディコース(DBC)でしっかりとした知識と技術を身に着けた後も、フォローアップのツアーに参加していただくことで実践経験を積むこともできます。「ダイブバディ」になることは、いろいろな意味でのレベルアップになると思いますのでぜひチャレンジしてみてください。

ダイブバディの小池氏に聞く!実際にどんなことをしているの?

ダイブバディの具体的なサポート内容について具体的に教えてください。

小池由莉氏

小池氏

小池氏

ダイブバディとして参加したダイビングの内容を振り返りながらお伝えしますね。その日は、レベルCのダイバー‟井上金吾(きんご)さん(以下、金吾さん)”のダイブバディとしてサポートに入りました。

まずは陸上での挨拶とコミュニケーションタイム。当日の海況や見られる生き物の話をお伝えしながら緊張をほぐします。この時、会話をしながらも金吾さんの様子を観察します。通常の状態を知っておくことで、水中での些細な変化にも気づけるようになるからです。

金吾さんは、手の指の本数や長さがそれぞれ違っていて、両足は太もものあたりから下はありません。当日は電動車いすでの来店でしたので、陸上移動はご本人にお任せしていましたが、ウエットスーツを着る時はお手伝いをしました。

HSAインストラクターと金吾さん

インストラクターと金吾さん

それから車いすにのって海まで移動をしてメインインストラクター、ダイブバディとして私と太田さんの4人でビーチダイビングを行いました。

インストラクターは自分の器材を着用した状態で先に海へエントリー。すでに、水面に浮かべられた金吾さんの器材を確保します。

それからダイブバディの私と太田さんの2人(器材未着用状態)で、金吾さんが乗った車いすを押しながら海にエントリーを開始。

着水したら、太田さんはその場に残ります。私は車いすを陸上にあげて、自分の器材を着用して戻ってきます。太田さんと入れ替わって、インストラクターと一緒に金吾さんの器材を着せます。その間、太田さんは自分の器材を着用します。

全員の準備が整ったら、アイコンタクトで潜降開始です。

潜降後は、インストラクターが金吾さんの後ろに回り込む形でサポート。私は前に回ってインストラクターとアイコンタクトをとりながら安全な状態か確認。前後から挟みこむような形でサポートしていきます。太田さんはわたしたち3名を俯瞰しながら、いつでもサポートできる位置で状態を確認します。

ダイビングを楽しむ金吾さん

金吾さんをインストラクターが支える。ダイブバディは金吾さんの正面と、横やあるいは上下の位置から様子を観察およびサポートする。

金吾さんは、手の指の本数や長さがそれぞれ違っていることもあって、ハンドシグナルが
使えない場合があります。ですから、顔色や目の動きなど見逃してしまいがちな変化まで注意深く確認が必要です。

またOKサインだけの確認では不十分。本人が頑張って大丈夫なように振る舞う時があるからです。

ダイビングを楽しむ金吾さん2

体は震えていない?陸上にいるときから通常時の状態をチェックすることは、些細な変化に気づくコツ。

この日は、平均水深12mで約20分のダイビングを1本分楽しみました。とくに本数が制限されているわけではなく、その日の体調に合わせて本数は変わります。健常者のダイバーと同じですね。

ただ、潜水時間に関しては注意が必要です。健常者のダイバーよりも体の循環がとどこおりがちなので、無限減圧潜水時間は一般的なダイブテーブルで計算した時間よりも短く設定して、減圧症のリスクを引き下げます。

また、体温調整がしづらいこともあり、長時間水中環境にいることのヒートロスにも注意が必要です。

このように、身体的なサポートから健康面の管理まで幅広くサポートしていきます。

ダイブバディになったきっかけや やりがいは?

小池さんがダイブバディになったきっかけや やりがいを教えてください。

小池由莉氏2

小池氏

あるときチャレンジした体験ダイビングで、肌に触れる水や波の心地よさを知ってCカードを取得してから、ダイビングは趣味として続けていました。本職が看護師ということもあり、ダイビングでも自分にできることは何かないかという気持ちになっていたところ、自然な流れでハンディキャップダイビングの存在を知りました。

それから太田さんが運営するダイビングショップ「シーメイド」にてダイブバディになるためのコースを受講。今年でダイブバディになって4年目になります。

車いすを海から引き上げたり、自分よりも体格がいいダイバーを支えたりと体力的に辛いこともあるので、たまには心が折れることもあります(笑)

でも、トラブルなくダイビングを終えたときは安堵の気持ちに包まれると同時にやりがいを感じます。

ハンディキャップダイバーはできないことが多いと思われがちだし本人も思いがち。ですが「やってみよう!」とチャレンジする気持ちがあればできるんだよ!ということを伝えたいです。自分が心地よいと感じた海を案内して、多くのハンディキャップダイバーたちと気持ちを共有出来たらいいなと思っています。

ダイブバディになるには

HSA認定の「ダイブバディコース(DBC)」を受講し、認定されれば晴れてダイブバディへの仲間入り。OW(オープンウォーター)以上のクラスで経験本数は38本以上、なおかつCPRレスキューの資格を持っている人であれば受講可能。HSA本部に問い合わせれば、最寄りのDBC取り扱いショップを案内してくれるので、こちらから連絡を!

profile:太田樹男氏

太田樹男氏
ダイビング指導員歴30年目に突入。自身もハンディキャップである事から障がい者ダイビングをライフワークに世界最大の障がい者ダイビング指導団体HSAJAPANのコミッショナーを務める。東日本大震災を機に潜水捜索救難協会を発足。代表理事としても活動。要請があれば日本中の行方不明者の潜水捜索を行っている. 最近の活動は遊びと学びを融合させた子供たちの支援活動や心理カウンセラーとしても活動している。

保有資格: NAUI コースディレクター/HSAコースディレクター/DANインストラクタートレーナー/NCFAインストラクタートレーナー/潜水士/1級小型船舶操縦士/認定心理士/上級カウンセラー

ダイビングショップ「シーメイド」:https://seamaid.co.jp/

profile:小池由莉氏

小池由莉氏
看護師として医療に従事するかたわら、ダイビングショップ「シーメイド」にて、HSAインストラクター、HSAアダブテッドサポートインストラクターとして活躍。「やってみよう!」という気持ちがあればダイビングは楽しめるということを多くのハンディキャップダイバーに伝えるべく日々奮闘中。

保有資格:NAUIインストラクター/HSAインストラクター/HSAアダブテッドサポートインストラクター

HSA(Handicapped Scuba Association)について

HSA JAPAN
1975年にカリフォルニア大学アーバイン校(UCI)で創設。障がいを持つ人々にスキューバダイビング教育を行うスポーツダイビング指導団体として、現在は世界30カ国以上に支部や拠点を持つ世界最大の障がい者団体。海外でも認められた障がい者専用のCカ―ドを発行できるのは、日本国内ではHSA JAPAN のインストラクターのみ。

HSA JAPAN:https://hsajapan.net/

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PROFILE
アウトドアレジャー予約サイトの取材ライター出身。いままでに取材した日本全国のアウトドアカンパニーは130社ほど。ネットワークを活かした記事作りが得意!?かもしれない。一番好きなアクティビティはダイビング!とは言い切れないかもしれない。
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