【第6話 屋久島スピンオフ】 ガイド・前田さん×水中写真家・卓哉さん×オーシャナ・河本が語る、ワールドクラスな屋久島の海の理由

卓哉さん(左)、前田さん(中央)、河本(右)(撮影/坪根雄大)

「ニッポンの海と文化」第6話で、水中写真家・中村卓哉さん、オーシャナCEOの河本雄太とオーシャナカメラマンの坪根雄大が潜ったのは、鹿児島県の世界自然遺産に登録されている離島、屋久島の海。そして取材チームをアテンドしてくれたのは、屋久島の海を知り尽くした「エバーブルー屋久島」の前田豊さん。

「ニッポンの海と文化」第6話 鹿児島県・屋久島 本編では卓哉さんの撮りおろし水中写真で、屋久島が世界に誇る海の魅力を紹介した。そしてダイビング取材の後、「エバーブルー屋久島」のオーナー前田さんと卓哉さん、河本で今回の撮影を振り返りながら、屋久島の海が唯一無二の理由 、そしてその楽しみ方などについて語り合った。

森が豊かな場所はサンゴも豊か。ワールドクラスの屋久島の海

――卓哉さん、今回が初の屋久島でのダイビングだったのは意外でした。潜られてみて、いかがでしたか?

卓哉さん

20年くらい前に屋久島を訪れた時は、縄文杉まで歩いたりしたことはあったんですが、ダイビングはしていなくて。今回はヤクスギランドを見学したり、名所の滝を何カ所も回ったり、西部林道に行ったり、少し山を登って上から海を俯瞰で見たりと、屋久島の陸も見た後で海に入ったので、山と海の繋がりがよくわかりました。

横河渓谷に行ったら、ヨシノボリやオオウナギがいると看板に書いてありました。それらの生物は海で生まれて何ヶ月かしてから川に戻ってくる生き物なので、川も海もいい状態だから生息しているんだなと思いました。

一方海では、キャベツコーラルの周りにハナゴイやウメイロモドキなどが群れていて、自分がよく撮影に行っているパプアニューギニアの海に似ているな、海外の海っぽいなとも感じました。パプアニューギニアでは、豊かな森が人によって守られているため、川から栄養豊富な水が海へと流れていきます。そして、そこには生き生きとしたサンゴが広がっています。これは屋久島も同様だと感じました。

千尋の滝の展望台から見える屋久島の海(撮影/中村卓哉)

宿泊したコテージの近くにあり、立ち寄った横河渓谷(撮影/中村卓哉)

キャベツコーラルとウメイロモドキ(撮影/中村卓哉)

(撮影/中村卓哉)

河本

たしかに屋久島の海は海外っぽい感じがしますね。

卓哉さん

透明度も今回は高くないと前田さんは言っていましたが、自分にとっては「これで高くないの!? それなら高い時はどれくらい遠くまで見えるんだろう」と思うほど。なので、「ニッポンの海と文化」で日本の海をいろいろと取材しましたが、その中でもちょっと違うというか、すべてのスケールがワールドクラスな場所でした。

前田豊さん(以下、前田さん)

本当ですか!? 嬉しいな。

卓哉さん

お世辞じゃなくて本当にそう思いました。感動しました。

3日間の撮影を終え安堵。そしてダイビングの思い出について語る卓哉さんと前田さん(撮影/坪根雄大)

卓哉さん

あとは、ダイビングポイントが近いことに驚きました。「一湊」は港から15分以内のエリアにいくつかのポイントがあるんですが、サンゴの群生もあれば、アザハタがすむゼロ戦もある。次に潜った「永田」は潮の流れが強く、ダイナミックでまったく違う雰囲気でした。すぐ近くなのに、あんなに違う海があるのはすごいなと思いました。「永田」は黒潮の流れを自分の肌で感じられるので、ある程度の経験本数がある方はぜひ一度は潜ってみた方がいいと思います。

河本

「永田」は、流れがすごかったですよね。

卓哉さん

今回は河本さんを被写体として、海でも山でも自然に包まれているような、森が主役で人間がポツンといるような、自然の大きさがわかるような写真が撮りたいと思っていたんです。

そこで思ったのは、やっぱり人間がどうあがいても太刀打ちできない世界があるんだなって。「あれが見たい」「これが見たい」とリクエストするダイバーの方もいるけれど、広大な自然の中では何が出るかわからないのが当たり前。餌付けをしてあそこにこれがいるよってわかってしまうと、水族館のようになってしまいます。屋久島の海は自然がそのまま残っているので、いろんな可能性があると感じました。「きっとここにとんでもないものが出るんだろうな」とか。

「永田」ではワイドな屋久島の海の魅力を、肌で感じることができる(撮影/中村卓哉)

河本

屋久島の海や前田さんのショップで出会ったダイバーの方たちの会話を聞いていると、それをすごく感じました。「この前はマンタが出た、その前はジンベエザメが出たこともある」とか、いつでも会えるわけではないけれど、通っていると出会えるかもしれないドキドキ感がありますよね。

前田さん

そうですね。おかわりでもう一回泳いだらこれが見られたかもしれないとか、そういうことが多いんです。

卓哉さん

いきなり1発目で大物が見られるなんて、なかなかないですよね(笑)。

河本

僕、どこで潜っても海況があまり良くなくて、ハズレで「シーン」ってなることが結構あるんですよ(笑) 。でも、結構流れもある中で、あれだけの撮れ高があったのはすごいです。

ダイバーたちのエアが横に流れていて、潮の流れがいかに速いかがわかる(撮影/中村卓哉)

前田さん

ほんとにあの流れの中で撮影をする卓哉さんのプロ根性は、すごいなと思いました。

河本

僕はあんなに流れている海を潜るのが久々すぎて、潜った瞬間「やばい!」ってなって、「皆さん平気なの⁉」と心の中で思っていました(笑)。

卓哉さん

僕も意外とそんなことはなくて、実は結構守りに入っていましたよ。本当はもうちょっと行ったらギンガメアジの群れも撮れましたけれど、そこまで行ったらみんなに迷惑をかけるなと思って。でも、撮れなかったっていうのもリアルだし、それはそれでいいと思っています。ただ、河本さんごめんなさい。まだ僕はこの後別の撮影があるので、数日間ここで潜れますので(笑)。

撮影時の様子を再現して説明する卓哉さん(撮影/坪根雄大)

河本

うわー、いいなー! 今回、卓哉さんに撮影をお願いしましたが、実は以前に前田さんと食事した時に、「屋久島の海を一回ちゃんと誰かに撮ってほしいですよね。どんなカメラマンがいいですか?」と聞いたことがあるんです。そうしたら「卓哉さん」と即答だったので、その場で卓哉さんに連絡して今回の撮影が決まったという経緯がありました。

卓哉さん

ありがとうございます。嬉しいですね。

前田さん

まさか本当に卓哉さんが撮影しに来ていただけるとは思っていなくて、この撮影が決まった時、「マジか!」ってなっていました(笑)。

卓哉さん

実は、20年前に屋久島へ来た時、海に潜らなかったことをずっと後悔していたんです。だから、今回撮影の依頼があった時は「是非、是非!」って感じでした。

だからやめられない! 何度潜っても読めない生き物との出会いは毎日新鮮

河本

前田さんにとって、屋久島の海の魅力はなんですか?

前田さん

一言で言うのであれば「ワクワク感」。毎日出港する度に「今日は何に会えるかな?」ってワクワクしています。同じルートで潜っても、昨日いなかった生き物が今日はいるとか、ある生き物を狙って進んでいたら横から別の大物が出てきて「おー!」ってなったり、そういう出会いが多いんです。でも、実は最初の屋久島の海の印象はめちゃくちゃ悪かったんです。

河本

え、そうだったんですか⁉

前田さん

はい。初めて屋久島の海に潜った時、大雨・洪水・波浪警報、高波、高潮で。そんな中で出港したので、もちろん船はぐわんぐわん揺れて、そんな中、隣の船が座礁してしまったんです…。。

卓哉さん

そんな中で、よく船を出しましたね(笑)。

前田さん

そしたら自分が乗っている船も座礁しそうになり…。お客さんに「すぐBCを背負って、エントリーして」と言って海に入りました。そうしたら、水面から1mぐらいまでは雨水で真っ茶色なんですが、その下はブルーの世界が広がっていたんです。上は大荒れだけど、水中は静寂っていう世界にやられちゃいました。

そして、同じエリアなのに生態が違うことも驚きました。一湊というダイビングエリアに「タンク下」と「お宮下」というダイビングポイントがあるんですが、近いのにまるで全然違う海を感じられるんです。

わかりやすく説明すると、手をピースにした時のV字の内側を一湊湾として見た時、左の指側に「タンク下」、右の指側に「お宮下」というポイントがあるイメージです。左側の「タンク下」には、日本最大級のオオハナガタサンゴとレタスのような形のウスサザナミサンゴが群生していて、「お宮下」では見られない光景です。沖の方に行くと岩場になっていてサンゴの群生はないですが、岩場を覆うようにサンゴがあり、ジョーフィッシュなどの生物に出会えます。

一方、右側の「お宮下」はサンゴの群生地帯はなく、岩を覆うようなサンゴが点在しています。水深20〜23mのところにあるサンゴの根に魚が集まっていて、ロクセンフエダイ、アカヒメジ、ハナゴンベなどがみられます。このように、同じ湾でも潮通しの違いによって生態系の違いを見ることができるんです。

卓哉さん

一つの湾で違う海を楽しめるというのは、それだけ自然が豊かで、恵まれた地形であることを意味していますよね。

ロクセンフエダイとアカヒメジが群生する「お宮下」(撮影/中村卓哉)

「タンク下」に群生するオオハナガタサンゴ()とウスサザナミサンゴ()海水温の上昇によるサンゴの白化が心配だ(撮影/中村卓哉)

前田さん

一湊湾の堤防の横から川が流れているんですが、それが要因だと思います。山から直に水が流れ込んでいるから、栄養分が豊富なんですね。前に鹿児島でずっと「枕崎」というダイビングエリアを潜っていたんですが、屋久島のほうが明らかに魚のサイズが大きい。これはすごいなと。

屋久島のダイビングスポットの成り立ちを説明する前田さん(撮影/坪根雄大)

世界自然遺産である屋久島の海をもっと知ってほしい

屋久島の地形は海の中でもダイナミック。前を泳ぐダイバーが小さく見えるほど大きな花崗岩(撮影/中村卓哉)

卓哉さん

河本さんは屋久島の海を潜って、どんなことを感じましたか?

河本

やっぱり「水の素晴らしさ」ですね。海はもちろん、川も、滝も。水がキーワードだと思います。

あと、国立公園になっているヤクスギランドや白谷雲水峡などに行って屋久島の世界自然遺産の場所を体験している気になっているけれど、同じく国立公園のエリアに入っている海の中を知らないという人は多いと思うんですよ。屋久島の本当の良さを知るには、海の中も是非見てほしい。それって、ディズニーランドに行ったのに「スプラッシュマウンテンやビックサンダーマウンテンに乗っていません」というのと、同じようなことだと思うんです。

しかしこれは観光客だけでなくて、屋久島に住んでいる方も知らない方がいらっしゃいました。屋久島のお店の方に屋久島の水中写真を見せたら、初めて見たようで「めっちゃきれいですね」って言われていました。ところで、屋久島のダイビングショップは島内出身者と島外出身者の比率はどうですか?

屋久島の観光を客観的に見て感じたことを話す河本(撮影/坪根雄大)

前田さん

海のガイドだけだと、島内出身者は、18ショップある中で1ショップだけですね。

河本

島外の方が多いんですよね。屋久島の小・中学校では、屋久島の自然をガイドする仕事があることを紹介する授業があります。これは、授業を受けた子どもたちが次の世代の担い手になることを目的にしています。ネイチャーガイドの仕事をされている方には、屋久島の魅力を感じて移住してきたIターンの方が多いですが、地元の方が“地元出身”というアドバンテージを使って盛り上げていけたら、ストーリーもあってより良いと思いました。そういう意味で、地元の高校生にガイドの仕事の魅力を感じてもらえるように、アルバイトを経験してもらうことを提案しました。「この仕事につきたい」と思ってもらえることを増やしていかないと本当の意味での活性化にならないと感じています。

前田さん

そうですね。屋久島の学校の授業に取り入れられているのは知っていましたが、次の世代に継承していくための取り組み、方法をもっと考えていけたらいいなと思います。

黒潮の流れ、山から流れる水の栄養など、いろんな要素が絡み合って存在している屋久島の海について語り合い、日本人として世界に誇れる海であることが改めてわかった。「エバーブルー屋久島」の前田さん、ありがとうございました。

海の色に負けない存在感を放つ、屋久島の生物たち(撮影/中村卓哉)

鹿児島県・屋久島で潜るならこのダイビングショップ
エバーブルー屋久島
日本のみならず世界中から訪れるゲストに、スピリチュアルな癒しの島の魅力を伝えるべく、2008年春から『アクティブに癒す』をコンセプトに、屋久島で海や山のアクティビティーを提供している。ダイビングでは主にファンダイビング・体験ダイビング・シュノーケリング・講習がメイン。ファンダイビングで案内するポイントは、島の全域を網羅し、ゲストの日程や希望に合わせてご提案。さらに早朝ダイブやナイトダイブも可能で、たっぷりと島の海を体感できる。ホスピタリティ精神と同時に周りをも笑顔にする豪快な笑い声を持ち合わせる代表の前田豊氏をはじめ、島を愛するスタッフたちが、島での体験を通して、私たちゲストを心から笑顔してくれる。

住所:鹿児島県熊毛郡屋久島町宮之浦2351-47

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PROFILE
奄美在住。高校生の時にブラジル留学を経験。泳ぐのが苦手で海とは縁がない人生だと思っていたが、オーシャナとの出会いを通じてOWD(BSAC)を取得。オーシャナを通じ、環境問題や海のことについて勉強中。
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