減圧症にまつわる不都合な真実~顛末編~ 減圧症になった場合の治療費は誰が負担する!?
減圧症。
ダイバーにとって、知っている人は最も多く、細部まで理解している人は最も少ない言葉では無いでしょうか。
ダイバーなら誰でも罹患する可能性はあり、たとえダイブテーブル(ダイブプラナー)やダイブコンピューターに従って潜っていた場合にも発症する可能性は0ではありません。
減圧症を予防する方法や、万が一の時の対応はこれまでOcean+α内でもお届けしていますが、今回は私がインストラクターとして直面した現実について、お伝えしたいと思います。
一部、インストラクターとしての備えが万全でなかった、というご指摘を頂く箇所もあるかとは思いますが、全て洗いざらいお伝えしていきます。
概要
静岡県沼津市・大瀬崎でのライセンス講習を終えた翌朝、深夜に講習生より減圧症と思われる症状が出ている、という連絡が入っていることに気づきました。
潜水履歴からして減圧症は考えづらいとも思いましたが、念のため病院に行く様指示を出したところ、東京都大田区・荏原病院にて減圧症との診断が出されました。
偶然荏原病院のご近所にお住いの方で、さらに高気圧治療部の先生の手が空いていたため即座にチャンバーに入ることが出来たことが不幸中の幸いでした。
治療当日の再圧治療、後日再度の再圧治療を経て、現在は再圧治療を完了しています。
公益財団法人東京都保健医療公社 荏原病院
〒145-0065 東京都大田区東雪谷四丁目5番10号
TEL:03-5734-8000
http://www.ebara-hp.ota.tokyo.jp/
当日のダイビング
講習生2名にインストラクター1名、アシスタント1名という体制でのダイビングでした。
というのも、新米インストラクターの実戦練習という位置づけだったので、自分は基本的にアシスタント、必要に応じて直接指導に入る、美容室で言うカットモデルの様なスタイルをお願いしたライセンス講習でした。
初日に限定水域講習、及び海洋実習1本、2日目に海洋実習3本というスケジュールです。
スケジュールが過密すぎる、というご指摘は受けて然るべきかもしれません。
初日の海洋実習1本は最大水深4.6m、平均水深2.3m、潜水時間28分で終了。
2日目は以下の通りです。
最大水深4.8m、平均水深2.3m、潜水時間31分。
水面休息1時間30分。
最大水深10.6m、平均水深7.6m、潜水時間26分。
水面休息2時間。
最大水深15.4m、平均水深7.4m、潜水時間37分。
いずれのダイビングでもダイブコンピューターの浮上速度警告は出ていません。
ただし1本目に最も深いダイビングをして、徐々に浅くしていく、という原則には確かに反しています。
その分、というわけではありませんが、最後のダイビングでは5mでの安全停止を5分間行っています。
ダイビング終了後、車で東京に戻りました。
使用した道路は東名高速。
関東に住む減圧症患者で常に指摘される『御殿場越え(454m)』を行っています。
通過したのはダイビング終了後、2時間半~3時間の間でした。
今回の事例について問題点があるとすれば唯一御殿場通過までの水面休息が若干短かった点です。
一方で、現場運営が時間的に押しているとき、帰宅時間が遅い事へのクレームを回避するために、東名高速、場合によっては箱根越えをするケースも散見されます。
では三島駅などで解散すれば良い、といった声も聞こえてきそうですがその電車賃をお客様に負担させるわけにもいかず、かといって毎回ショップが負担していてはショップが潰れてしまうことでしょう。
そんな問題に頭を悩ませる都市型ショップは多いことと思います。
周りがやっているから良い、という論理で自己弁護をするわけではありませんが、今回のケースに関して、あれで発症するなら減圧症は不可避と言えることを痛感しました。
直面した問題
起きてしまったことは仕方ありません。
傷害保険の適用の検討に入ったところで改めて気づいたことがあります。
傷害保険が適用されたとしても治療費を賄うことが出来ないのです。
事前に確認できたことと言えば出来たことですが、通院治療の場合は日額3000円が限度でした。
もちろんあらかじめその旨を説明して同意を取っておく、ということも重要ですが、講習の前から
『減圧症の可能性があって、その場合には治療費はいくらぐらいで、自分で出してね』
『減圧症はどんなに安全に潜ってもなる可能性がある』
なんて話を事細かに説明することも講習生に過度のストレスをかける結果に繋がると考えます。
そして何より、オウンリスクの同意があったとしても、人情として、インストラクター側が治療費を負担してあげたいというものです。
これを実現する方法は無い物か、改めて各指導団体の保険内容等を調査しましたので、次回はその結果をお伝えしたいと思います。
(ライター/細谷 拓)