ダイビングって危ないの? 〜死亡率10万人に16.4人〜

〜やどかり千人の炬燵話〜

ダイビングは危ないスポーツといわれて久しいのでありますが、
ではどれぐらい危ないのかは、意外ときちんとした説明がございません。

オートバイの事故リスクと同じぐらいといったイギリスの政府機関の研究もあるようですが、
そういわれても、どうもぴんときません。
ヤドカリ爺も若かりしころはバイクにも乗りましたが、
ダイビングよりもバイクのほうが怖いなーと感じておりました。
自分のやっている、ダイビングがどれほど危ないのか、怖いもの見たさとも申します。
そんなわけで、ダイビングの事故率のお話です。

手元に300ページものプロシーディングがございます。
講演録といいましょうか議事録といいましょうか、会議の記録であります。
具体的には、昨年の4月にアメリカのノースカカロライナ州ダーハムで
DANアメリカが音頭をとって開催された、リクリエーショナル・ダイビング・ファタリティー・ワークショップ、
つまりリクリエーション・ダイビングの死亡事故研修会の記録であります。

世界各国の専門家、学者さん、指導団体などのお歴々がそれぞれに統計資料をもちよって、
ダイビングの死亡事故の原因は何か、統計的に死亡率はどれぐらいか、
つまるところリクリエーションダイビングは安全なのか、危険なリクリエーションなのかを、
延々と3日間、討論をなさったわけであります。それをポツリポツリの拾い読みです。

日本的な発想からすれば、ダイビングのリスクがゼロでない以上、
そのリスクをテーマに業界が集まって討論などすれば寝た子を起こすようなもの、
日本ではまずこのような会議はありません。
結果、一向にダイビング人口すらわからず、
したがってどの程度のリスクもわからないままであります。
そこをDANが音頭をとって、死亡事故の会議をするところが、
アメリカ的な健康さを感じるのであります。

しかしながら、このワークショップでも、ダイビングのリスクを検討するには、
その土台となるダイビング人口数、ダイビング回数、ダイバーの性別、年齢構成といった
基礎資料がないことには、どうにもなりません。
もちろんダイビングの指導団体は認定数、各国のスポーツ器材の業界は器材の販売数、
政府機関がレジャーの統計といったところから、それぞれにイバー人口を推定しているのですが、どれもダイビングの総人口の実態を推定できるものはなく、
世界中には結果的にてんでばらばらのダイビングのリスクの統計があるわけですな。
そこでこの会議でダイバー人口のある程度根拠ある統計を討議したわけであります。

そしてその世界各国が提出したダイビングの10万人あたりの死亡率は、
オーストラリアの3.57人からフィンランドの62人、果ては限りなくゼロ人まで、
まるでまさにてんでんばらばらでありました。

ちなみに日本からの資料はIkeda I&Ashida Hさんの8.8〜33.8人でありました。
話がそれますが、仮に日本のダイバー人口、これもまるで推定ですが、
よく言われる30万人とすると、毎年約25〜100人が
ダイビングで事故死するという怖-い、ことになります。
しかしながら、この10年間の事故者の実数は、これよりだいぶ少ないようです。

ただダイビングがどれだけの人が事故死するかを比べただけでは、
ダイビングのリスクはわかりません。
実際に推定ダイバー人口が1年にどれだけダイビングをするのか、
アクティブのダイバー人口がわからないことには、えらく具体性の欠けた統計になってしまいます。

そこで注目されたのがDANアメリカの統計でした。

注目された理由は、これらの組織の具体的な会員数、保険の加入者数と、
保険の請求件数を具体的に把握しているところです。
特に加入者の死亡事故率は具体性があります。

2000〜2006年の保険加入者数約113万人、死亡事故者187人、
そのほかのデータから算出された、死亡事故率は、10万人に16.4人ということでありました。
海を隔てた英国のダイバー組織BSACの統計も非常によく似た、14.4人としています。

これをアメリカ・カナダのダイバー人口、これも推定ですが、300万人に当てはめると、
年間約490人もの死亡事故者数が推定されるわけですが、
同じDANアメリカの毎年の事故リポートでは、
この10年間ほどは年間の死亡事故者数は100人前後で推移しています
(もちろんDANがすべての事故を把握しているわけではないので、
実数はもう少し多いかもしれません)。

やや乱暴ですがアメリカのダイバー人口を300万人、年間の死亡事故者を100人とすると、
10万人につき3.3人ということになります。
同じ組織DANの統計でも、 こんなに大きな差が出てしまうのですな。

DANの死亡事故率が、これほど高率になったのは、ダイバー保険に加入するようなダイバーは、
ダイビング活動にアグレシッブで、ダイビング回数が多いということも考えられます。
事故と保険という視点から分析するとどうしても、リスクも高くなるということかもしれません。

ダイブ数と死亡事故の関係はというと、やはりDANアメリカは、
10万ダイブあたり0.7人と推定しております。
ちなみに日本からの資料では1.0〜2.2人とされております。
そのまま受け取ると、日本はアメリカより事故率が高いということになっちまいますが、
DANアメリカのメンバー1人あたりのダイブ数を25回と
えらく活発に活動するとして計算されておるようなので、そのままには比較できません。
こちらの計算でも、実際の死亡事故者の5倍にもなってしまいます。

といったわけで、統計がすぐに実態を表すのは難しいということであります。
ダイビング事故が限りなくゼロに近いのは理想でありますが、

10万人に16.4人。10万ダイブにつき0.7人。

この数字が、みなさんの想像より多いのか、少ないのか、それぞれに違いましょうが、
頭のどこかに置いておかれたらと、ヤドカリ爺は思うのであります。

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PROFILE
1964年にダイビングを始め、インストラクター制度の導入に務めるなど、PADIナンバー“伝説の2桁”を誇るダイビング界の生き字引。
インストラクターをやめ、マスコミを定年退職した今は、ギターとB級グルメが楽しみの日々。
つねづね自由に住居を脱ぎかえるヤドカリの地味・自由さにあこがれる。
ダイコンよりテーブル、マンタよりホンダワラの中のメバルが好き。
本名の唐沢嘉昭で、ダイビングマニュアルをはじめ、ダイビング関連の訳書多数。