原始の自然溢れる屋久島。豊かな森が育む魚種豊富な海。

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屋久島のダイビングエリア「一湊」の湾内

10月の初旬、屋久島へと撮影に行って来た。屋久島と言えば、1993年に世界遺産に登録された鹿児島県の離島。その森の中はジブリ映画「もののけ姫」の作中に描かれている原始の森のモデルとも言われ、樹齢1000年を超える巨木である屋久杉が有名だ。今回は屋久島の森から続く豊かな海をご紹介したいと思う。

美しい山に囲まれた島

島の外周から内側を見ると、聳えたつ山々の強い力を感じる。山に入らずとも屋久島の固有種のニホンザル「ヤクザル」が道路の近くでのんびりとしている光景は微笑ましく、身近に自然を感じられる島である。

西部の方面では数多くのヤクザルに出会える

山の中に足を踏みいれれば、手つかずの大自然が残り、緑の世界がただひたすら広がる。降水量が多い島でも知られ、森に降った雨は時間をかけて川へと落ちていく。そして大きな川へと流れていく。

雨が多い屋久島のコケはイキイキとしている

各所の沢は美しく、降った雨は大きな川へと流れていく

何か所もある川は透明度も比較的に高く綺麗である。水辺の生き物にとっても楽園のような場所。そんな綺麗な水が川から流れてくるからこそ、屋久島の海は豊かなのだと感じさせられた。

独特な地形と数えきれない生物が生きる海

私は10年以上前に屋久島に住んでいたことがある。その当時はそこまで各地の海を見に行っていたわけではなかったが、初めて屋久島の海中に入った瞬間「こんなに凄いところなのか」と感動させられたのを今でも覚えている。感じたイメージは力強いような濃い青の海。さらに数えきれない魚種に圧倒され目移りしてしまった。

一昨年、そして今年と撮影する機会があり、やはり「魚の種類が多いな」と再認識されられる。なぜ魚種が多いのかと言えば、温帯域と亜熱帯域の間の位置に存在するのも理由の一つ。さらに海底下の花崗岩が隆起して誕生した島であり、沖にでれば水深がとれ、潮当たりが良い場所が多く、バリエーション豊富な環境が存在しているのも理由だと思われる。

花崗岩が隆起してできた独特な地形

島の周りのほとんどでダイビングは可能だが、北側に位置する一湊(いっそう)集落という場所をメインのポイントで使うことが多い。中でも「お宮下」という矢筈嶽神社の下のポイントは屋久島を代表するポイントの一つ。ここでは南方種のヨスジフエダイやロクセンフエダイと、本州でも良く見られるカゴカキダイが一緒に泳いでいるのである。屋久島以外の日本のダイビングポイントでは、このコラボレーションを見ることは稀であろう。

温帯と亜熱帯のコラボレーション

一昨年撮影したハナゴンべ幼魚。沢山の小さな魚も隠れている。

魚の種類がとにかく多く、見飽きることがない屋久島の海。しかし魚だけが凄いわけではなく、実はウミガメも多い。今年は例年に比べると少なめのようだが、それでも屋久島の至る所でアオウミガメに高確率で出会うことができる。さらにアカウミガメに関しては、日本一の頭数が産卵に上陸することでも知られている。5月、6月のシーズン中には産卵にくるアカウミガメに海の中で出会える可能性も。

アオウミガメ

ほかにも一湊の湾内は見どころが多く、ひたすら広がる砂地には戦時中の飛行機がポツンと沈んでいる。ポイント名は「ゼロ戦」。名前はゼロ戦だが戦闘機ではなく、「疾風」という偵察機とのこと。

砂地にポツンと戦時中の飛行機の残骸

この朽ち果てた偵察機は今は漁礁となり、テンジクダイなどの小さな小魚や大型のアザハタなど沢山の生き物が棲みついている。アザハタや回遊魚が周りの小魚を捕食したり、隠れているエビが魚をクリーニングする光景が見られる。夕方の時間帯はフタイロハナゴイやケラマハナダイが生態行動を行い、ただじっくり観察しているだけでも面白い場所である。

夕方はフタイロハナゴイの雄が鰭を広げ雌に猛アピール!

回遊魚などが熱い「永田」

次にご紹介したいのが島の北西に位置する永田エリア。こちらの各ポイントは一湊に比べると流れの影響をより受けやすく、場所によっては上級者向けのポイントもある。その分、透明度は良く、キビナゴやツムブリといった回遊魚系も多い。手つかずの地形にも魅了される。

撮影時は、タカサゴやウメイロモドキなどが流れるように泳いでいる光景が目に止まることが多かった。キンギョハナダイを撮影中に、偶然タカサゴが寄ってくることもあり、青い海に水色のタカサゴ、オレンジのキンギョハナダイと海中の色合いが一瞬で美しく染まった。

タカサゴとキンギョハナダイの群れ

ここまでの写真や話では、群れや地形が凄いワイドなポイントのイメージになりそうだが、実はマクロ派のダイバーも楽しめる。ハナダイ系はベニハナダイやスミレナガダイの幼魚や若魚などが泳ぎ回り、深場にはアケボノハゼなどもいるようである。かなり浅い場所にはユニークな顔のシシマイギンポも見られた。

群れるスミレナガハナダイ。ハナダイ好きにはたまらない。

見た瞬間、思わず笑ってしまいそうなユニークな顔のシシマイギンポ

時間を忘れるタイドプール

この屋久島、もう一つ面白いのは東部に位置する春田浜のタイドプール。溶岩で作られた自然のプールには小さな生き物たちが沢山隠れている。時期によっては婚姻色のロウソクギンポなども多い。タンクを背負わない分、時間を忘れて撮影することができるのも楽しみの一つでもある。

時間を忘れて楽しめるタイドプールには可愛いロウソクギンポ。

水の島とも捉えることができる美しい自然があふれる屋久島。今回紹介したのはほんの一部でまだまだ伝えきれない面白い場所が沢山である。そちらも、また機会があれば紹介したいと思う。

撮影協力
屋久島ダイビングリゾート DIVE ANCHOR
屋久島ダイビング 潜り屋

堀口和重さん
プロフィール

horiguchi_profile

伊豆の大瀬崎にある大瀬館マリンサービスにチーフインストラクターガイドとして勤務後、2018年4月にプロのカメラマンに転向。
現在は伊豆を拠点に水中撮影から漁風景や海産物の加工まで海に関わる物の撮影を行っている。
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PROFILE
日本を拠点に活動している⽔中カメラマン。カメラマンになる以前はダイビングガイドをしながら数々のフォトコンテストで⼊賞。現在はダイビング・アウトドア・アクアリストなどに関連する雑誌やウェブサイト、新聞などに記事や写真を掲載、水中生物の図鑑や教書にも写真提供している。2019年に日本政府観光局(JNTO)主催の“「⽇本の海」⽔中フォトコンテスト 2019”にて審査委員、2020年には“第28回 大瀬崎カレンダーフォトコンテスト”の特別審査員も務める。近年は訪⽇ダイビングツーリズム促進を⽬的として“NPO 法⼈ Japan Diving Experience”としての活動も⾏っている。
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