猪木免許証への道


失くした財布に入っていた運転免許証を再交付してもらうため、
埼玉県・鴻巣の運転免許センターへ。

ただマイナスを埋めるための何の生産性もない1日。憂鬱だ。

再交付には、申請書に証明写真を貼って出さねばならないので、
センター内にある写真機で撮影。


おすまししてパチリ。

ここでふと思う。

「ひょっとして、これって免許証に載る写真?
ってことは変顔を免許証にできるかも!」

通常、免許証を発行してもらう際は写真を撮る係の人がいて、
変顔をするとたしなめられる。
しかし、再交付の場合は自分で写真が選べるのかもしれない。
途端に楽しくなって気分はウキウキ。

よし、変顔免許証にチャレンジだ。

ただの憂鬱な1日が、
自分と国家への挑戦というエキサイティングな1日に。これぞ人生。

さて、どんな変顔にしよう?

いろいろ考えたが、僕らの世代、結局、猪木に落ち着く。
免許証の顔が猪木だったら何だか素敵

再度600円を払って、猪木顔で写真を再撮影。パチリ。

何か違う……。

①あり得ないほどしゃくれたアゴ
②「来い、このヤロー」の首の角度
③闘魂風の眉間と眉。

猪木顔のポイントを頭で整理し、再再撮影。パチリ。

猪木だ。こりゃ猪木だよ。これが免許証になったら何だか楽しい。

しかし、証明写真に1800円もかけて3回も撮影している僕は、
タイミング悪く何度も目をつぶっちゃった人だと思われたに違いない。

早速、猪木顔の写真を貼った申請書を持って窓口へ。

申請書の写真と顔が違ってはいけないので、もちろん猪木顔で
そういう顔の人になりきらねばならないのだ。勝負だ、このヤロー。


よろひくおねがいしまふ(よろしくお願いします)」

喋りづれぇ。猪木、喋りづれぇ。

手続きや紛失に関してあれこれ質問されるが、
しゃくれた偽猪木は何を話しているかよくわからない。

おじさん:どの辺で落としたとかわかりませんか?

偽猪木 :ほんふへふまの駅しゅうへんへす(本鵠沼の駅周辺です)

おじさん:あ、ああ。はいはい。では、書類はこれでいいです。

対応してくれた窓口のマジメそうなおじさんは、
猪木顔で睨みつける僕に少しビビッている様子で、
一刻も早く関わるのをやめたそうだ。

しかし、ここで、おじさんの口から衝撃のひと言。

おじさん:では、身分を証明するものを提示してください。

!!!!!!!!!!!

しまった。すっかり忘れていたが、僕の持ってきた証明証はパスポート。

そして、パスポートの証明写真はこれだ。

顔、変わっとるやないか〜い。

焦りまくって脂汗。泣きたい気分。
なんで、平穏な免許センターでこんなに窮地に追い込まれているのだろう……。

もう後にはひけない。やりきるしか道はない。
迷わず行けよ、行けばわかるさ。

しかし、パスポートを作ったのはほんの2ヶ月前。
2ヵ月の間に何があったら、

これが


こうなってしまうのだろうか?

ふざけている以外、考えられない。
しかし、僕はこういう顔の人でなければいけないのだ。

頭をフル回転させて設定を考える。

よし、喧嘩してアゴが外れ、首を痛め、最近頭痛が激しいことにしよう。

無理は承知だ。
しかし、この2ヶ月の変貌はどうやっても無理があるのだから仕方ない。

パスポートを見たおじさんは、
「え?」って顔をしてパスポートと僕の顔を何度も見比べる。

おじさん:ご本人様ですよね?

 

偽猪木 :ふぉーれふ(そうです)

おじさん:…………

嫌な沈黙が続く……。

おじさん:か、確認できました

と、通った!

この2ヶ月でアゴがしゃくれまくってしまったが、通った!!!

ホッと胸を撫で下ろし待合席に向かおうとすると、
「あ、あの……」と背後からオジサンに呼び止められる。

ギクリ。

おじさん:パスポートのコピー取らせていただいてよろしいですか?

疑われている。確実に疑われている。
しかし、普段疑われるのはいい気分ではないが、
このケースではおじさんは正しい。
「どうふぉ(どうぞ)」と少し眉間のシワを緩め
パスポートを手渡すジェントルな偽猪木。

これで猪木免許ができる。ワクワク。

しかし、ここで衝撃の事実が発覚。
自分で撮った証明写真はあくまで申請用。
免許証はやっぱり係の人に撮影してもらうことになっているとのこと。

今までの苦労は何だったのか……。

しかし、ショックを受けている場合ではない。
撮影する係の人も申請書を見るので、
今さら普通の顔に戻るわけにはいかないのだ。

こうなったら、やっぱりそういう顔の人になりきって、
もう一度、申請書と同じ顔をして撮影に挑もう。
もう、今さら猪木免許は後には引けない。

撮影の順番が来た。やはり猪木顔で撮影室へ。
「よろひくおねがいしまふ(よろしくお願いします)」

げっ。今度はめちゃくちゃ怖そうなオッサンだ。
僕の顔を見るなり睨みつけてくる。

しかし、覚悟を決めて椅子に座る。そして、写真機を睨みつける。

来い、このヤロー!

オッサン:はい、首、真っ直ぐにして

偽猪木 :ふぇ?(え?)

オッサン:だから、首を真っ直ぐにして

偽猪木 :ふぁい……(はい)

まあ、仕方ない。これでもかろうじて猪木だ。

オッサン:口、閉じて!

偽猪木 :ふぁい……(はい)

オッサン:もっと閉じられないの? 歯、見せないで

偽猪木 :これふぇ、せいひっぱいれふ(これで精一杯です)

オッサン:写真を撮る瞬間だけでもがんばって閉じてくれないかな

偽猪木 :ふぁい……(はい)

そんなこんなで、できた免許証がこれ。

これでは、猪木ではなく、ただの
しかめ面の少ししゃくれたおっさんだ。
中途半端にもほどがある。これなら、おすまし免許証の方がいい。

ということで、少ししゃくれたしかめ面のおっさん写真を撮るために、
汗だくでヘトヘトになりながら帰路についたのでした……。

 

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PROFILE
法政大学アクアダイビング時にダイビングインストラクター資格を取得。
卒業後は、ダイビング誌の編集者として世界の海を行脚。
潜ったダイビングポイントは500を超え、夢は誰よりもいろんな海を潜ること。
ダイビング入門誌副編集長を経て、「ocean+α」を立ち上げ初代編集長に。

現在、フリーランスとして、ダイバーがより安全に楽しく潜るため、新しい選択肢を提供するため、
そして、ダイビング業界で働く人が幸せになれる環境を作るために、深海に潜伏して活動中。

〇詳細プロフィール/コンタクト
https://divingman.co.jp/profile/
〇NPOプロジェクトセーフダイブ
http://safedive.or.jp/
〇問い合わせ・連絡先
teraniku@gmail.com

■著書:「スキルアップ寺子屋」、「スキルアップ寺子屋NEO」
■DVD:「絶対☆ダイビングスキル10」、「奥義☆ダイビングスキル20」
■安全ダイビング提言集
http://safedive.or.jp/journal
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