うっかり食べ放題

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古巣に行くと、はるか後輩が雑誌に掲載する値段を間違えて
気の毒なほど落ち込んでいた。

赤字のミスは一度は通る道だが、
値段や電話番号の間違いは恐ろしい。

値段をひとケタ少なくして掲載してしまい、
そんな値段であるはずないとわかりながらも「この雑誌にそう書いてある!」と
メーカーや雑誌社にクレームして少しでも引き出そうとする輩は実際にいる。

間違えた電話番号先が893で、謝りに行ったら軟禁、なんてことも。

うっかり八兵衛やウッカリカサゴもびっくりの自分であるからして、
当然、似たようなことをやらかしたことがある。
ダイビング

入社1年目。
ガイドブックのアフターダイビングのページを任されたテラ青年。

ひとまずパンフレットから情報を引用し、
刷り上ったゲラを元に内容が合っているか確認の電話をかける。

やる気だけは一人前だったテラ青年は、
鼻息荒く赤ペン片手に電話をかけまくる。

「今はそのFAX番号使ってないよ〜」、
「オススメのメニューはアジ丼にしてほしい」などなど、
先方の要望や訂正を「なるほど!」と元気よく聞きながら赤字をカキカキ。

そして、運命のお店へ電話。

テラ:土曜の夜はマグロが食べ放題でよろしいでしょうか?

相手:いや、もうそれやっていないからとっておいて。

テラ:なるほど! かしこまりました。

電話を切って、まさに赤字を入れようとしたその瞬間、内線。

1年目ということもあり内線にも緊張。
その上、怖い先輩からあれこれ質問され、
冷や汗かきながらたどたどしく返答。

要領を得なかったようで、先輩のいる別フロアに呼び出され、
あれこれ報告したり注意されたり。

えーそうです。ご想像どおり、自分の席に戻ったときには、
赤字のことなどすっかり頭から抜けてしまい……。

上司に「テラ、アフターダイビングのページ、
全部、電話チェックしたんだろうな?」と言われ、
「はい! もちろんっス」とドヤ顔。残念な子です……。

もちろんガイドを見たお店の社長から当然過ぎるクレーム。

クレームを受けた営業部の担当が、
「テラ、お前ちゃんと確認したのか?」と聞いてくるので、
「全部、読み上げて確認してるっス」と自信満々のテラ青年。
「たぶん、電話に出たスタッフが間違ったのに、
社長に聞かれてウソついているんじゃないスかねー」。

さらに、「こういう言った言わないの問題って本当イヤだよな〜」とまさかの逆ギレ。

タイムマシーンがあるなら、
「言っているし、聞いていないのが問題」ということを
ひっぱたきながらよ〜く教えてあげたい。

ついには、「こういうことが起こらないように、
編集部としてもやっぱり文書で確認するのが確実だと思うんですよね。
あ、でも、こういうことで作業が増えて効率が下がってもいけないですし、
その辺りを編集部で話し合った方がいいと思います」と
まさかの建設的風提案。

タイムマシーンがあるなら、
「聞いたことをね、赤いペンでね、紙に書くだけなんだよ〜、ベロベロバー」と
頭をナデナデしながら教えてあげたい。

本人は後ろめたさがまったくないので言葉には根拠レスだが力はある。
テラ青年の言い分を聞いた営業部の担当は、謝りつつも、
「担当の者が御社スタッフに電話で確認しているとのことですが……」と。
あー書いていて恐ろしい。

先方の社長は「俺が実際に話して指摘したんだよ! 
そいつと電話かわれ!!」と怒り心頭。

営業部から内線があり、
「テラ、先方の社長さん。お前と話したって言っているんだけど……。
とりあえず電話かわってくんない?」

「いいっスよ!」

強気で電話に出るテラ青年。

「お前が担当か!」と怒気のこもった社長の第一声。

皆さん、絶句って知ってますか?
ヤホーで調べると、
マスクを取ったときに「うっ」って胸が詰まったようになる
ダイビングリフレックスみたいな感じって書いてあります。
あ、あと、心臓をキュッとつかまれた感じ。

社長の第一声で絶句するテラ青年。
「俺、この人と話したことある……」と心の中でつぶやくのがやっと。

みるみる青ざめていくテラ青年を見て、
編集部の先輩たちが「あちゃ〜」の顔。

社長の声を聞いてすべてを思い出すが、ときすでに遅し。

社長:俺はお前に、食べ放題はもうやってないって言ったよな!

テラ:はひ、いひまひふぁ〜(訳:はい、言いました)

社長:じゃあ、何で聞いてないって言うんだ!

テラ:あふぇあふぇはらほろひれはれ★△◎■×◇☆

社長の怒りは正当すぎるほど正当。
もう、あとは平謝りするしかないが、なかなか怒りは収まらず、
「お前が毎週土曜日に店先に立って、
『食べ放題はやっていません』って言え!」と言われ、
テラ青年は思わず「はい……」。
このときのテラ青年は「すいません」と「はい」しか言葉を持っておらず、
社長が「俺の話、聞いてないだろ!」と言っていても
たぶん「はい」と言っていたと思う。

結局、電話では怒りは収まらず、
そして、毎週土曜日に店先に立つわけにも行かず、
当時、副編集長だったゴット姉さんと営業部の上の方の人と
3人で直接謝りに行き、尻をぬぐいをしてもらったのでした。

初取材で車を大破させたばかりだったので、
テラ青年の凹みっぷりはものすごったが、何とか今まで元気にやっている。

はるか後輩よ、挽回すれば大丈夫!

……あれ? でも、挽回した思い出はないなぁ(笑)
 

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writer
PROFILE
法政大学アクアダイビング時にダイビングインストラクター資格を取得。
卒業後は、ダイビング誌の編集者として世界の海を行脚。
潜ったダイビングポイントは500を超え、夢は誰よりもいろんな海を潜ること。
ダイビング入門誌副編集長を経て、「ocean+α」を立ち上げ初代編集長に。

現在、フリーランスとして、ダイバーがより安全に楽しく潜るため、新しい選択肢を提供するため、
そして、ダイビング業界で働く人が幸せになれる環境を作るために、深海に潜伏して活動中。

〇詳細プロフィール/コンタクト
https://divingman.co.jp/profile/
〇NPOプロジェクトセーフダイブ
http://safedive.or.jp/
〇問い合わせ・連絡先
teraniku@gmail.com

■著書:「スキルアップ寺子屋」、「スキルアップ寺子屋NEO」
■DVD:「絶対☆ダイビングスキル10」、「奥義☆ダイビングスキル20」
■安全ダイビング提言集
http://safedive.or.jp/journal
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