人気ガイドが人気の理由(わけ) ~全員が楽しめるダイビングと思いやりの可視化~

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いぬたく君がオーシャナのグランドオープン記念パーティーで感じたことを書いていましたが、僕も印象的だったことをご紹介します。

それは、パーティーに先立って潜ったバスツアー。
それぞれが各ダイビングエリアを潜ってから最後にパーティー会場に集結するこのツアー。
僕は八幡野の「ダイビングショップ海好き」で潜っていました。
そのとき、人気ガイドである福ちゃんこと福田航平さんが言ったひと言がことが印象的で頭に残りました。

「潜っている人、それぞれ全員が楽しめるガイドが理想なんだよね~」

当たり前に聞こえる言葉ですが、福ちゃんが殊のほか実感こめて言っていたので頭に残りました。
とはいえ、このときは、何気ないひと言だったので特に会話を広げることもなく、こちらも「全員が楽しめるガイドって何だろな~」とぼんやり思うにとどまりました。

人気ガイドが人気の理由

ダイビングが終わり、各エリアで潜っていた人たちが戻ってきて熱海でパーティー開始。
僕はいろんな人と海の話をしていました。

その時、前から思っていたことをとあるダイバーさんに聞いてみたのです。
前から思っていたこととは、「川奈日和」の人気について。
いや、人気にケチをつけるわけではなく(笑)、いつもゲストがたくさんいて(という僕のイメージ)、僕の周りの素敵だと思うダイバーさんも皆、ヤギ汁さんこと八木かつのりさんのガイドにハマッたというので、具体的に何がそんなに人気なのか知りたくて、八木さんのガイドにハマッたダイバーさんに聞いてみたのです。
すると、答えは……

「う~ん、なんていうか、潜った人が全員楽しめるんですよね~」

鳥肌鳥肌。
同じ日に聞いた、違う人気ガイドの共通キーワード。
ゾクゾクっときました。

そのダイバーさんは、それまで生物にさほど興味もなく、特にガイドの手腕を求めるようなダイビングをしていなかったそうですが、初めてヤギ汁さんと潜ったときに、その誰もが楽しむためのケアに感動したのだそうです。
じっくり撮影したいフォト派のために被写体を用意したら、次は違う人に違う生物をドラマティックに見せて、ちょうどフォト派が満足したころに合流し……何より、自分を、全員を満足させようという気持ちが伝わってきたのだと言っていました。

海やダイビングが大好きなことが溢れ出て伝わってきてしまうラブオーラガイド、自分の好きなことに巻き込んでしまうオラオラ系ガイド、とにかく一緒にいるだけで楽しいキャラクターガイド、チーム分けやハードに力を入れるシステムガイド、いろいろなカラーがあってどれも正解、あるいは正解などないのでしょうが、ひとつのダイビングですべての色を許容し、満足させようという意識は、マスから個人へ、という今の世の中の流れにも合っていると感じました。

一人ひとりの個別のプランを立て、それらがひとつのダイビングに収まるようグループプランを立てる。
人気ガイドから得る、ひとつのヒントかもしれません。

もちろん、あまりにレベルや趣向が違えばグループ潜水自体がひっちゃかめっちゃかになるので、グループプランの枠に無理やり入れることも時には必要で、その見極めも大事でしょう。
また、場合によってはグループ分けしてしまった方がいいのでしょう。

しかし、ここでは、今まで見落とされていた、レベルや趣向が違うダイバーが一緒に潜る効用を考えてみたいと思います。

福ちゃんは「フォト派とカメラが持っていない人が一緒に潜ったり、レベルの違う人が一緒に潜ると、いろんな潜り方を見て知って体験できる」と、多様にあるダイビングの興味の入り口としての効用を感じています。

その他、僕が彼らのゲストの話を聞いて感じたのは、この潜り方は、顧客満足度に大きく関係するのではないかということです。

顧客満足度の高いことで有名なディズニーは、そのホスピタリティは、とどのつまり「相手に対する主体的な思いやりだ」と言っています。
しかし、ガイドという職業は、なかなかこの思いやりが水中では伝わりにくい職業だと思います。
それどころか、思いやりが逆効果になることさえあります。

例えば、ダイビングの最後の浅瀬で浮きそうになってしまったダイバーがいました。
ガイドさんもそれに気がつき、BC排気の指示をして見守っていましたが、ベテランダイバーが彼女に近づき、そっと腰口からエアを抜いてあげ、エグジット後、「あのガイド、対応もしないで」と文句を言っていました。

しかし、ガイドとしては、浮上してしまっても問題ない水深でしたし、何より浮いてしまうことも織り込み済みの上で、排気の操作を経験させようという意図だったわけですが、結局、彼女はエアが排気されたことすら知らないので、また同じことを繰り返すでしょうし、ベテランダイバーはダメなガイドだと言いふらすのでしょう。
そのガイドさんは「仕方ないね」と苦笑いしていました。

思いやりも伝わらなければ意味がないと考えたときに、この“ひとつのグループで趣向の違う全員を満足させる潜り方”というのは、水中でできうる最高の“思いやりの可視化”ではないでしょうか。
つまり、グループの一員に対するぼんやりとしていた思いやりが、個々に対応することによって相対化され、明確に感じられるようになるのです。

先述したヤギ汁さんのゲストが「何気なく浮いていたら、トントンと肩をたたかれ、呼ばれていくと……」と言っていたように、自分のためだけに用意された被写体、スレートの言葉、行動。
「あなたを見ています」という眼差しは、満足度が高くなるのもうなずけます。

反対に、僕がよく聞く不満で最も多いひとつが、「レベルの低い人に合わせて潜らないといけない」というもの。
目に見えて浅く短く設定された水深や潜水時間は、「そこそこ潜っている人は、自分の満足はさておき、初心者に合わせるもんでしょ」の可視化。
反対に、「私のために、なんだか迷惑かけているようですいません……」の可視化です。

“ひとつのグループで趣向の違う全員を満足させる潜り方”。
言うは易しですが、なかなか興味深いテーマです。

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PROFILE
法政大学アクアダイビング時にダイビングインストラクター資格を取得。
卒業後は、ダイビング誌の編集者として世界の海を行脚。
潜ったダイビングポイントは500を超え、夢は誰よりもいろんな海を潜ること。
ダイビング入門誌副編集長を経て、「ocean+α」を立ち上げ初代編集長に。

現在、フリーランスとして、ダイバーがより安全に楽しく潜るため、新しい選択肢を提供するため、
そして、ダイビング業界で働く人が幸せになれる環境を作るために、深海に潜伏して活動中。

〇詳細プロフィール/コンタクト
https://divingman.co.jp/profile/
〇NPOプロジェクトセーフダイブ
http://safedive.or.jp/
〇問い合わせ・連絡先
teraniku@gmail.com

■著書:「スキルアップ寺子屋」、「スキルアップ寺子屋NEO」
■DVD:「絶対☆ダイビングスキル10」、「奥義☆ダイビングスキル20」
■安全ダイビング提言集
http://safedive.or.jp/journal
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