日本のダイブテーブルが来年に大改訂?新しい減圧表の検討案とは

ダイブコンピューターによるダイビングが主流の、われらリクリエーションダイバーにとっては、日本独自のダイブテーブル、減圧表が改訂といっても、やや遠い話のように聞こえます。

しかし、法律を厳密に解釈すれば、レジャーといえども、高気圧作業安全規則(略称高圧則)という法律で定めている減圧表とそのシステムにしたがって、潜水作業、つまりダイビングをしなければいけないことになっております。

やどかり仙人コラム

この法律で認めている減圧表による潜水作業は、呼吸ガスは空気だけということになっております。
ということは、外国のダイブテーブルをもとに作られているダイブコンピューターでダイビングすることは、法律違反・浮上スピードもこの減圧表に指示スピード以外はアウト。

さらにはナイトロックス、トライミックスといった空気以外の呼吸ガスも違法、また減圧時に酸素を使って、窒素の排出を早めようなんて、テクニックも法律違反なのであります。

あくまでも業務という用語を潜水という行為と同じと解釈すれば、ほとんどのリクリエーションダイバーのダイビング活動はアウトローなのであります。

この法律の定める減圧表が決められたのが、昭和36年(1961年)。すでに50年以上の昔。

その後の50年間で、ダイビングの技術や理論なども大きな変化を遂げたにもかかわらず、基本的には、そのまま。
結果的に、誰も使わない減圧表が、日本の法律の建前のために、私たちリクリエーションダイバーの上に君臨していることになります。

しかも、この減圧表がどのような実験や検証を経て制定されたのかが、つまり理論的根拠がよく分からないという不思議なダイブテーブルとも言われております。

パラオ(撮影:越智隆治)

さすがに21世紀に入り、あまりに現状にそぐわない高圧則を改訂しようと、厚生労働省の労働基準局が昨年以来、潜水作業業界、潜函作業業界、医学の専門家などのえらい先生方が集めて検討会が続けられてきました。

狭く小さな業界ではありますが年間何百万ダイブもするわれらがレジャーダイビング業界だって、この検討会に参加してもよさそうでありますが、完全に蚊帳の外であります。

もう1つ注意しなければいけないのは、この減圧表というのは、必ずしもダイビングだけでなく、えらく長時間の作業をする潜水工事から、潜函工事、はては深くて長いテックダイビングまで、まったく性格の異なる高圧へのさらされ方を、一まとめにくくって減圧表を作ろうというのですから、簡単には意見がまとまるはずはないのです。

見方を変えれば、急激に深いところまでいって、短時間で水面に戻ってくる特異なプロファイルは、やや異端的であり、しかもナイトロックスだの酸素減圧なんて面倒くさいことをいうスクーバダイビングなどは、やや例外的な存在ともいえます。

それでもやっとこの6月に、新しい高圧則の検討案が提出されました。
たぶん来年の春ごろには、厚生労働省の省令として施行されるだろうと言われております。

もともとこの法律は、高圧下で働く人の健康を守るための労働基準の規則であります。

労働基準の法律にレジャーダイバーが縛られる?

私たちレジャーダイバーにはあまり関係がなさそうに見えますが、厳密に言えば、この法律からすれば違法なレジャーダイビングの慣習が認知されることになりそうです。
いわば合法化されることになりそうです。

どんなことがレジャーダイバーと関係するかというと、

  • 1.空気ダイビングは深度40mまで。それより深いダイブは、混合ガスを使用する。またそれよい浅くても、混合ガスを使用してもよい。
  • 2.減圧ダイブでは、サイレントバブルの排出に酸素減圧が望ましい。
  • 3.海外で利用されている減圧表についても高圧則に合うものは利用可能になる。

これだけ列挙しても、すぐにはぴんと来ないかもしれませんが、

1.は、空気以外のダイビングもしてもよいですよ。
つまり40mより浅くてもナイトロックスを使ってもよいし、40mを越えたらトライミックスのような混合ガスの使用を考えなさい。

2.はこれまでタブーだった、減圧時の酸素呼吸やナイトロックスを窒素排出、つまり加速減圧に使ってもよい。

3.は 高圧則の減圧表よりコンサバティブであれば、世界どこのダイブテーブル、つまりダイブコンピューターを使ってもよい。

ということであります。と解釈できます。

では高圧則が定める減圧表がなにかが気にかかります。
これがガチガチのコンサバダイブテーブルであっては、えらく窮屈なことになります。

また、偉い先生方の中には、日本独自の減圧表にこだわる向きにあったように聞いておりますが、世界中どこにでも出かけていくダイバーにとっては、できるだけ融通の利くポピュラーでインターナショナルなダイブテーブルであってほしいところです。

>どうも改訂減圧表はZHL-16になりそうだ

検討案を見ると、どこにも、なぜかZHL-16とはどこにも書いていないのですが、明らかにその減圧表の計算式は、ZHL-16そのものなのでありますな。

ZHL-16というとなじみのない方もおられるかも知れませんが、スイスのチューリッヒ大学のアルバート・ビュールマン博士が1980年代の半ばに開発した、もっとも多くのダイブコンピューターが採用している減圧モデルであります。
アメリカ海軍のU.S.NAVYとともに、いわばレジャーダイバーの定番的ダイブテーブルであります。

実際にどのようなスタイルでこのZHL-16が登場するのかは分かりせんが、今までよりはレジャーダイバーにもなじみやすいダイブテーブルになるはずです。

しかも多くのダイブコンピューターが採用している減圧計算式は大体がこのビュールマンのZHL-16に近いので、ダイブコンピューターは高圧則の条件をクリアーしているといえそうです。

レジャーダイバーからすれば、現状を追認しただけともいえますが、それでも大幅な規制緩和でもあります。

この高圧則の改訂の大きなポイントは、「これまでこの法律で決めたこと以外のダイビングのやり方はダメ」という“ねばならぬ”スタイルから、「この枠組みを守ればOK」という大変融通性に富んでいるところが、特長のようであります。

この数年で、レジャーダイビングはこれまでの40mより浅い無減圧ダイビングという枠組みから、テックダイビングの領域に大きく踏み出しています。
たぶん来年になるこの高圧則の改訂が、それを後押しすることになるはずです。

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PROFILE
1964年にダイビングを始め、インストラクター制度の導入に務めるなど、PADIナンバー“伝説の2桁”を誇るダイビング界の生き字引。
インストラクターをやめ、マスコミを定年退職した今は、ギターとB級グルメが楽しみの日々。
つねづね自由に住居を脱ぎかえるヤドカリの地味・自由さにあこがれる。
ダイコンよりテーブル、マンタよりホンダワラの中のメバルが好き。
本名の唐沢嘉昭で、ダイビングマニュアルをはじめ、ダイビング関連の訳書多数。
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