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前線からダイバーが得られる教訓とは?「隠れた」前線の話(後編)閲覧無制限

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徒然コラム

恩納村の海と青空(撮影:越智隆治)

前編からの続きです。
衛星でも見えない、「隠れた」前線の話(前編) | オーシャナ

日本の天気図では見慣れない前線

その他にも、前回までにお話した「原則」からはずれていて、天気図に描かれなかったり、雲が発生しない前線があります。

一つは、小さくて天気図にあまり描かれない前線です。

典型的なのは、寒冷前線などのところに積乱雲ができると、そこから降る雨によって作られる下降気流(ダウンバースト)が、地上で広がってできる小規模の別の寒冷前線です。
これをガストフロントと呼びます。

ガストフロント

図2.ガストフロントの模式図(ガストフロント – Wikipediaより

図2.では、左側の積乱雲の本体から降る雨で起きた下降気流によって右側に新たに小規模の寒冷前線ができている様子を示しています。

私達も、夕立の前に急に冷たくて強い風が吹いてくるのを経験したことがあるかもしれませんが、それがガストフロントです。

ガストフロントの雲

図3.ガストフロントの雲(ガストフロント – Wikipediaより

ガストフロントは、小規模で前線として日本の天気図に描かれることはほとんどありません。
しかし、そこでは突風が吹くこともありえるので注意が必要です。

また、このガストフロントが前線本体の積乱雲の原因で作られると、前線本体の進行方向の先に、積乱雲が改めて線上に並ぶように発達することがあります。
これをスコールラインと呼びます。
これも、日本の天気図には描かれることがほとんどありません。

実際には、このスコールラインでも、寒冷前線本体と同じような荒れた天気になることがあります。
アメリカの天気図では、スコールラインも解析して表示しています(図4)。

これも、前に書いたように、欧米では日本より前線に注目しているからなのでしょう。

アメリカ(NOAA.NWS)の天気図

図4.アメリカ(NOAA.NWS)の天気図(前線 (気象) – Wikipediaより)

ついでに図4.を見ると、ドライラインという見慣れないものも解析されています。
これも、日本の天気図ではほとんど見られない形の前線で、温度差がほとんどなく、湿度の差がある空気の塊の境目にできるものです。

海中でも、サーモクラインの他に、汽水域などでケモクラインを見ることがありますが、普通の前線がサーモクラインであれば、このドライラインはケモクラインに相当する、空気の組成が違うためにできる前線と言えると思います。

日本は海洋国で砂漠などがないので、極端に湿度が違う空気が押し寄せてくるといったことがないために、ドライラインはほとんど見られません。

雨雲が発生しない寒冷前線

ところで、寒冷前線といえば、寒気が暖かい空気の下に潜りこむので、積乱雲が発生して、風雨が強くなって雨が降ると説明されることが多いです。
実際、この連載でも、以前にそのように説明しています。

しかし、中には例外的に雨雲が発生しない寒冷前線があるのです。

アナフロント型寒冷前線

図5.アナフロント型寒冷前線

カタフロント型寒冷前線

図6.カタフロント型寒冷前線

図5と図6を見てください。

図5は、普通説明される型の寒冷前線です。
「アナフロント型寒冷前線」といいます。

いわゆる典型的なもので、寒気が暖気を激しく押し上げ、積乱雲が発生し、にわか雨や雷雨が起きて、風雨が強く荒れるタイプのものです。

これに対して、図6は暖気の動きの方が寒気の動きより速い場合に起きるケースで、「カタフロント型寒冷前線」といいます。

逃げていく暖気のほうが速いので、寒気が来ても暖気は押し上げられず、むしろ、寒気の上の前線面を滑り降りるような形になります。
この場合は、上昇気流ができないので雲が発生せず、雨はあまり降りません。

しかし、急に気温が下がり、場合によると急に強い風が吹くことがあります。
この場合は、前述のように衛星写真にも写りませんし、雲が見えないので突風にいきなり見舞われることになりかねません。
このように雨を伴わない寒冷前線もあるのです。

実際、今年の関東の木枯らし一番は、10月27日(月)の夜から翌28日(火)の未明にかけて通過した寒冷前線によるものでしたが、東京では宵の口から急に風が強くなり、気温ががくんと下がったものの、全く雨は降らず、月曜も火曜もずっと晴れたままでした。
ただ、夜じゅう非常に強い風が吹き荒れていたのです。

このように、前線は、天気図上に現れているもの以外にも本当に様々な種類があります。

日本の解析方法では前線として描かないものや、雨雲を伴わないから衛星写真には全く写らないもの、そして、小さい局地的な前線で天気図には表現しないものまで多種多様です。

日本の解析法では前線として描かないものでも、現実に欧米では天気図に記載して注意を促しているものもあります。
また、天気図に表れない「小さな前線」といっても、一時的には、非常に激しい天気の変化を引き起こすこともあります。

実際、ほんの数分であても、大風が吹き激しい雹や竜巻などに巻き込まれれば、私達は大きな被害にあってしまいます。

特に、エントリーやエキジットの時、波打ち際にいたり、船に上がりかけていて船もスクリューを回せない時などは、激しい気象現象を前にして、我々は非常に弱い存在になります。
一瞬で大怪我や命にかかわる大事故に繋がるような事故になることもあるわけです。

つまり、単純に天気図を見て、「前線が来るのはまだ先だ」と思ったり、あるいは、衛星写真を見て「雲が発生していないから」という理由だけで、海が荒れないとは限らないということなのです。

ですから、そのような単純な判断で、「せっかく潜りに来たんだから、今のうちに1本」とあせって潜るのは、危険を伴う場合もありえると考えてください。

日本最大の海難事故も、毎日のようにその海で船を走らせていてその海の気象も地形も知り尽くしていたはずのその海のエキスパートであり、自身の天候判断には絶対の自信があった船長の、台風と前線の読み違いで発生しました。

私達ダイバーは、一般には、そこの海のエキスパートではありません。
ですから、天気図や衛星写真だけから勝手な判断をせず、地元のサービスの方の意見を聴いたり、複数の情報をよく調べるようにしたいものです。

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