冬に大気が不安定な日本の空

気象予報士くま呑みの“ダイバーのためのお天気講座”

空撮(雲)

ダイビングに行く時でも、街中にいるときでも、「今日は大気の状態が不安定です」と言われると、「なんだか、天気が悪くなるのだろうな」って思いますね?

その「不安定」というのは、なんらかの事情で上昇を始めた空気が、止まらずにさらに上昇を続けてしまう状況を言うということは、前回お話しました。

安定した大気と、不安定な大気

図1 安定した大気と、不安定な大気

左側の大気は上空もある程度暖かい場合で、上昇して冷えた空気よりも周囲が暖かなので上昇は止まります。

ところが、右側の大気は、上空が冷たく、上昇してある程度冷えた空気が、まだ周囲より暖かい場合、さらに上昇を続けてしまう状況です。

つまり、ここまでで言うと、上空との温度差が少ないと「安定した大気」、温度差が多いと「不安定な大気」となるわけです。

これは、よく聞く「上空に冷たい空気が入っているために、大気の状態が不安定で、急な雨や落雷や竜巻などの突風にご注意ください」などという表現とも合っていますね。

上空との温度差が同じでも、
「安定」「不安定」がある

しかし、上空との温度差が同じであっても、天気が崩れることもあれば、そうでないこともあります。
これに大きく影響するのが大気中に含まれる水蒸気です。

空気は、一般的に、ある程度水蒸気を含むことができますが、温度によって含むことができる水蒸気の量は決まっています。
その水蒸気の量を「飽和水蒸気量」といいます。

そして、温度が高いほど、多くの水蒸気を含むことができます。
言い換えるなら、温度が低いほど「水蒸気は飽和しやすい」ということです。

ですから、含んでいる水蒸気の量が同じであっても、温度が下がると飽和して、それ以上水蒸気を含めなくなり、水蒸気は凝結して水になってしまいます。

冬に暖かな部屋の中では別にじめじめしているわけでもないのに、冷たい窓には露がついているのは、このせいです。

部屋の中の気温では水蒸気は飽和していませんが、窓の近くで冷やされると飽和して、水滴になり窓に着くのです。

さらに、水は、水蒸気になる(=蒸発する)ときに大きなエネルギーを必要とします。
水1gを1度温度を上げるのに必要な熱量は1calですが、100℃の水1gを蒸発させるのに必要な熱量は539calにもなります。

つまり、水を1度温度を上げるのに必要な熱量の500倍以上の熱量が必要なのです。
このエネルギーが、逆に水が凝結するときには放出されます。
ですから、水蒸気が水になると、周囲の空気をものすごく暖めることになります。

水蒸気を多く含まない空気が上昇した場合と、多く含む空気が上昇した場合

図2 水蒸気を多く含まない空気が上昇した場合と、多く含む空気が上昇した場合

図2を見てください。
図の左側の水蒸気をあまり多く含まない空気では、前回説明したように、空気は上昇して断熱膨張していくと、100m上昇するごとに約1度温度が下がります。

ところが、水蒸気を多く含んでいる空気だと、上昇していくと水蒸気が凝結して水滴になるため、熱が放出されて暖められてしまいます。

結局、水蒸気を多く含む空気の場合には、100m上昇すると約0.5度程度しか温度が下がらないのです。

そうすると、図2の右側のように、水蒸気を多く含んでいる空気は、上昇しても冷えにくいために、地上と上空の温度差が同じであってもより不安定になりやすいということがわかると思います。

ここまでのところをまとめると、「地上と上空の温度差が大きければ大きいほど」また「空気中に含まれる水蒸気の量が多ければ多いほど」大気の状態が不安定になりやすいというわけです。

夏、「南から暖かく湿った空気が入ってきているために、大気の状態が不安定になりやすく……」といったことをよく聞くのは、このことです。
実際、じめじめして暑い夏の日には、夕立になりやすいというのはこのことを示しています。

冬で不安定な大気とは?

では、不安定な大気とは、夏の独壇場なのでしょうか?

ちょっと考えると、夕立は夏が多いような気がしますが、本当は、もっと不安定な状況があるのです。

例えば、夏の東京で、地上の気温は35℃程度。
上空5000mでは0℃だったとしましょう。
気温の差は35度ですね。

ところが、冬の上空5000mには-40℃や-50℃といった強烈な寒気が入ってきます。
それに対して、日本海には対馬海流という暖流が流れており、真冬でも暖かくて東北の方までいっても10℃程度はあり、60度もの気温差になることがありえます。

これは、夏の気温差どころではありません。

しかも、暖流からは大漁の水蒸気が大気の中に供給されますから、「上空が極端に冷たい状態で、地上にはそこそこ暖かでかつ湿った空気が入っている」という大変に不安定な状態になるのです。

最近、カナダのランキングメディアTheRichestが、地球上で年間降雪量の多い都市TOP10を発表したところ、日本の4都市がランクインし、しかも上位3位独占したということで話題になっていますが、海と日本の気候の関係を理解している人なら驚くに値しないでしょう。

というのも、日本は次に挙げるような稀有な条件がそろっていて、冬に日本海側で大気が不安定になりやすく、冬の降水量が半端なく多いのですから。

  • シベリアという大陸の東南に位置し、冷たい北西季節風が吹いてくる。
  • 日本海には、対馬海流という暖流が流れており、季節風との温度差が大きい。
  • さらに、その季節風は、暖流から豊富な水蒸気を供給された「湿った風」である。
  • 日本は火山国で、高い脊梁山脈があり、季節風は強制的に上昇気流になり、雲を発生させやすい。

そんなわけで、冬の日本海側は、大気が不安定になりやすく、世界的に見ても積雪が多いというわけなのです。

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PROFILE
日本気象予報士会会員。
国際基督教大学(ICU) 理学科物理卒。
1995 年 よりダイビングを始める。
外見が「熊」なダイバーなので、魚の名前に因んで「くま呑み」を名乗る。

中学の理科の授業で、先生が教卓で雲を作る実験をしてくれたのを見て以来、気象学、天文学、地学に興味を持つ。
ダイビングを始めてからも海と空を眺めるのが好きで、2002年、気象予報士を取得。

ダイビングのスタイルは、「地形派」。
ドロップオフやカバーン、アーチや地層の割れ目などを眺めるのが好き。
特に、頭上のアーチなどをくぐった先で、水面からの光が見える瞬間に萌えてしまう。

ダイビング以外の趣味は、オーガナイズド(組織)・キャンプ、合唱、キャリア
・カウンセリング。
現在は、国際基督教大学にて学生や子ども向けの組織キャンプのディレクターも
努める。
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