冬のダイビングで東伊豆や熊野灘がオススメの理由 ~海上で発達する筋状の雲~

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気象予報士くま呑みの“ダイバーのためのお天気講座”

小笠原の旭山遊歩道

数年前の冬、小笠原に潜りに行ったとき、私はとんだ勘違いをしていました。
というのも、頭に「冬の太平洋側は天気がいい」と思い込んでいたので、小笠原はさぞかし天気が良くて暖かいだろうと思っていったのです。

ところが、実際には、おがさわら丸が東京湾を離れて南に進むにつれ、雲が多くなり曇天になっていくのです。
いったい何が起きてしまったのでしょうか??

筋状の雲のできる場所

「日本海には、寒気の噴出しにともなう、筋状の雲がはっきり見えています」なんていう天気予報のきまり文句をよく聞きますが、図1の衛星写真を見てみてください。

衛星写真(提供:大間哲)

図1. 寒気の噴出しに伴う筋状の雲 (2015年2月9日の衛星写真)高知大学気象情報頁より

日本海側では、筋状の雲がはっきり見えていますが、太平洋側でも、海岸から100kmも離れないうちに雲ができているのがわかります。

つまり、東京から南に千キロの小笠原では、冬は晴れるどころか、むしろ日本海と同じ状況になりかねないということなのです。

実際、小笠原に行ってみると、冬は島の北側は荒れることが多く、なかなか潜りにくいそうです。

それはそうですよね。
本州の南岸には、暖流の代表格である黒潮が流れているわけで、海水温が高く、蒸発量も多いのです。

つまり、せっせと暖かな水蒸気を供給してくれているので、上空との温度差も大きくなりますから、雲を発生しやすいのです。

図1を見ると、(その時の風の強さなどにもよりますが)大体海岸から100km前後くらいから雲が発生していることがわかります。
それは、日本海も太平洋も同じことが言えます。

つまり、冬に太平洋側がよく晴れるといっても、海岸から100km以内ということになるのです。

筋状の雲ができる理由

しかし、みなさん、考えてみると不思議ではありませんか?

筋状の雲ってどうしてできるのでしょう?

別に、巨人が大きな竹箒で海の上を掃いているわけでもあるまいし、筋になるなんておかしな話です。

もし、海岸から100kmで雲が発生するなら、そこから先はべったり曇りでもおかしくないはずです。

実は、それには理由があるのです。
そもそも、もし風が吹いていない状況で暖かい海の上に冷たい空気があったら、どうなるでしょうか。

そこでは、ある場所が暖められて上昇気流ができますが、昇った空気は上空で冷やされて今度は下降してくるようになります。

これは、ちょうど、味噌汁の中にできる対流の状況に似ています(図2)。
このような対流を、ベナール対流といいます。

味噌汁に見るベナール対流(提供:大間哲)

図2.味噌汁に見るベナール対流 大阪教育大学のページより

さて、このベナール対流が起きている状況で、一方から風が吹くと、どうなるでしょうか?
ベナール対流を真横から見ると、図3.のようになります。

ベナール対流を真横から見た様子(提供:大間哲)

図3.下から水を温めたときのベナール対流を真横から見た様子 Wikipediaより

この、互いに向きの違う渦がそのまま風に吹かれると、図4.のようにロール状に螺旋をまいていきます。
これを、ロール状対流といいます。

ロール状対流の図(提供:大間哲)

図4.ロール状対流の図 『一般気象学』(東京大学出版会 小倉義光著)より引用

この螺旋のうち、上昇流があるところに雲ができ、下降流があるところは雲が消えるので、上空から見ると綺麗に縞模様にならんで見える、筋状の雲ができ上がるのです。

筋状の雲が集まるところは……

筋状の雲とひとくちに言っても、いろいろ均一ではありません。

例えば、太平洋側の筋状の雲を見てみましょう。
日本の脊梁山脈が低いところは、太平洋側でも陸地の近くから筋状の雲が再度発達しています。

図1で見ると、津軽海峡や関門海峡といった海の部分、兵庫県のように日本海と太平洋が近いところ、そして、福井―岐阜―愛知といった高い山脈がないところです。

特に、岐阜のあたりは、太平洋側に近くてもよく雪が降るために、新幹線のダイヤが乱れがちなことでも有名ですね。

ということは、もし、どうしても冬に潜りたいのであれば、やはり高い脊梁山脈があって北西側をふさいでくれている地域の方が、天気が良いということがわかります。

そういう意味では、一般論として南東に向いた海岸地域、つまり、東伊豆や熊野灘などは、
天気がよく透明度もよくて冬の海の魅力を感じるには絶好のポイントでしょう。

また、日本海側の筋状の雲も、よく見ると完全に平行ではないことがわかります。

図1をもう一度みてください。
朝鮮半島の付け根のあたりから、日本の福井県あたりに向けて、筋状の雲がななめにぶつかるようになって、筋が乱れているのがわかりますでしょうか。

これは、朝鮮半島北部にそびえる高い山々(白頭山など)の影響で、寒気の流れが強制的に二分され、それが日本海上空でまたぶつかっているためにできる線です。
この線を、日本海寒帯気団収束帯と呼びます。

空気の流れがぶつかっているところでは、空気は上空に逃げるしかありませんから、強制的に上昇気流になります。
そうすると、そこには雲が発生しやすくなるので、その線が日本の脊梁山脈にぶつかると、そこは大雪になることがあります。

前述のように、福井県から伊勢湾に抜けるあたりは、脊梁山脈が低いので、そこにこの収束帯がぶつかって、同時に強い寒気がくると、名古屋あたりが大雪になってしまいます。

そういうわけですから、特に伊豆諸島の三宅島以南や、中部地方の方が南紀あたりに潜りに行く計画を立てる場合は、筋状の雲の動きにも注意してください。

西高東低の冬型が強くなって、筋状の雲が延び始めたら、収束帯がどこに当たりそうかを見極めると、ある程度天気の先読みができるはずです。

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PROFILE
日本気象予報士会会員。
国際基督教大学(ICU) 理学科物理卒。
1995 年 よりダイビングを始める。
外見が「熊」なダイバーなので、魚の名前に因んで「くま呑み」を名乗る。

中学の理科の授業で、先生が教卓で雲を作る実験をしてくれたのを見て以来、気象学、天文学、地学に興味を持つ。
ダイビングを始めてからも海と空を眺めるのが好きで、2002年、気象予報士を取得。

ダイビングのスタイルは、「地形派」。
ドロップオフやカバーン、アーチや地層の割れ目などを眺めるのが好き。
特に、頭上のアーチなどをくぐった先で、水面からの光が見える瞬間に萌えてしまう。

ダイビング以外の趣味は、オーガナイズド(組織)・キャンプ、合唱、キャリア
・カウンセリング。
現在は、国際基督教大学にて学生や子ども向けの組織キャンプのディレクターも
努める。
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