問題ないダイビングのはずなのに、なぜ!? 減圧症体験談

サイパンウェブマガジン(撮影:高砂淳二)

今回は、第2話で登場していただいた洋子さんに、減圧症に罹患された時の状況を語っていただきます。

どうしても「自分には関係がない」と思われがちになる方が多いかと思いますが、このような体験談を読む事によって、減圧症を身近に感じていただけるのではないかと思います。

他人事にしてはいけない減圧症
※洋子さんの罹患体験談

2014年1月に減圧症に罹患し、ダイビングに無事復帰した洋子です。
ご縁があってオーシャナに体験談を記載させていただくことになりました。

罹患してからは、ネットサーフで見つけることのできた数少ない体験談が、減圧症の治療や回復をするにあたって非常に参考になりました。
何より常に不安のある中、「復帰するぞ」という思いの後押しとなりました。

拙い文章ですが、包み隠さずお話することで、私が他の体験談から得たことのように、この体験談が何か皆さんのプラスになれば幸いです。

減圧症に罹患した日の様子と
ダイビングデータ

さて、減圧症に罹患したダイビング当日についてお話します。

体のコンディションは文句なしでした。
風邪もひいておらず、前日の飲酒等もなく、睡眠も6時間程度はとれていました。
朝食もしっかりとっていました。

お正月休み中なので仕事の疲れなども一切ありません。
一つ言うなれば、ドライスーツでのダイビング中にトイレに行きたくなるのが心配なのと、周りに気を遣い、水分を控えてしまったのは良くなかったと思います。

また、はじめてお世話になるダイブショップだったので、少々緊張しながらの伊豆海洋公園での初ダイビングとなりました。

当日のダイブログデータは以下の通りです。1日2本のダイビングをしました。

1本目

洋子さん1本目

潜水時間50分、平均水深13.3m、最大水深22.0m、浮上速度違反無、安全停止有(3m~5mの移動による、5minくらい)、減圧潜水無

2本目

洋子さん2本目

潜水時間42分、平均水深15.1m、最大水深30.4m、
浮上速度違反有、安全停止有(3m~5mの移動による、5minくらい)、減圧潜水無

1本目のダイビングは特に問題なく、昼食休憩をとった後、2本目のダイビングを開始しました。

2本目で砂地を移動して行ったのですが、いつも通りフィンキックをしているのに進まず、皆が遠くなり、不安にかられながら見失わないよう必死に追いかけました。

途中、ガイドがスピードを落としてくれたのでようやく追いつきます。

連載イメージ(提供:今村)

その後はしばらく問題なく潜っていたものの、初めて減圧潜水間近となり、驚いてしまって浮上速度違反をしました。

2本目のエグジット後、いつも以上にかなり疲れてはいましたが、支障の出るような疲れではなく、いつも通りに器材を洗い、着替えを済ませたころには疲れはすっかり消えていました。

ダイビング終了から発症、そして病院に行くまで

ログ付けで盛り上がったため、エグジットから6時間ほど経過したころに帰りの電車に乗りました。

すると、気のせいかと思う程度に手がぴりぴりとしました。
2本目のダイビング中およびエグジット後に疲労があったことも気になり、
「減圧症」という言葉が脳裏をよぎりますが、しばらくするとぴりぴり感が消えました。

気温の低い1月です。
私はもともと冷え性で、冬に寒いところから暖かいところへ入ると手がしびれる体質なので、
しびれも弱いし、考え過ぎかもしれないと思いました。

しかし、駅弁を買って、食事しているとまたぴりぴりと、今度は気のせいではないくらいにしびれました。
(偶然かもしれませんが、かなり強めにアルコールで煮込んだ付け合わせを食べてからです。)

自宅に到着するまでも、しびれが出ては消え、減圧症に罹患したかもしれないと意識するようになりました。

翌日、起床したころは、しびれがあったものの前日の夜に比べたらかなり弱く、再度「気のせい」や「寒さのせい」と思うような状態でした。

しびれが弱くならなければ減圧症を強く疑ったのですが、しびれは弱くなったので、「やっぱり減圧症じゃないのかも」とまた考えが変わります。

しかし、夜、ベッドに腰掛けていると、突然これまで経験したことのないような目眩と息苦しさに襲われました。

座っていられず、横になったことまでは記憶にありますが、気付いた時には布団も被らずに上半身だけを横にした状態でした。

目眩から2~3時間ほど経過していたので、もしかしたら気を失っていたのかもしれません。

目眩が起こった時は救急車を呼ばないといけないのではないかと考えましたが、気が付いた時はぐったりと疲労していたものの、あれだけ強烈だった目眩も息苦しさも消えており、狐につままれたような気分でした。

私はかなりの低血圧なので体調が悪いと目眩や立ちくらみが起こりますが、あの時の目眩は尋常ではなかったです。

目眩と息苦しさを経験し、また、筋肉痛にしては強い痛みも出てきたことで、はっきりと減圧症を意識し、病院へ行くことを決意しました。

しかし目眩の起きた日は病院が年末年始の休み中で、開くのは3日後でした。

その間も、痛みが出ては消えを繰り返しましたが、なぜだかしびれは認識しなくなり、目眩は収まったものの、動悸や息切れ、疲労感などが続きました。
そして、視界がぼやけていることに気付きました。

ようやく年始の診療が開始した月曜日、減圧症治療で有名な病院に電話をすると、診察まで2週間ほど待つように言われました。

別の病院に電話したところ、どうにか減圧症罹患の疑われるダイビングから1週間以内のスケジュールで診てくれるとのことだったので、チャンバー治療を優先に考えこちらの病院で治療することにしました。

減圧症の場合、1日でも早い治療が早い回復に繋がるので、病院の評判や知名度よりも早期治療を優先することは大切な選択肢だと思います。

治療の日を迎えるまでたった数日だったのですが、それまでの症状が強くなり、新しい症状も出るようになりました。

強くなったのは痛みです。

歩く振動で毎回肩と首が痛み、唾を飲み込むだけでも激痛が走ります。
痛みで仕事にならないので、痛み止めを多目に飲んでこらえようとしますが、薬が少しでも切れると激痛が走り、次の薬が効くまでトイレにこもる始末でした。

膝が笑うので階段を降りるのは転ばないように手すりを持ちながらです。

就寝時も薬が切れた時に痛みが復活して目を覚ましてしまい、再度服薬して痛みが消えるまでは寝られませんでした。

また、特に右手の力が入らず、ノートPCを持つことや引き出しを開けること、椅子をひくことができなくなり、同僚の力を借りるシーンも多くなりました。

手の感覚が異常なため、いつも通りにキーボードを打っているつもりでも、うまく打てなかったり、キーを押せているのか分からなかったりしました。
スマートフォンも同様に、画面にしっかり触れていても触れていないような感覚でした。
ペットボトルの蓋を開けられなかったり、うどんを箸でつかめなかったりなんてこともありました。

しかし不思議なことに、やはりしびれはほとんど感じなくなっていました。

治療の日、ログブックとダイブコンピュータ、ダイビング当日以降のしびれ、痛み等のメモを持って診察に臨みました。

多くの治療体験談で「ルレットをまわしてしびれや麻痺のチェック」「ログブックでプロファイルの危険性を確認」「時系列で症状の確認」という診察だったというコメントを読んでいたのでそれをイメージして行きました。

しかし、先生からは、「プロファイル(最大深度と潜水時間)は問題ない。浮上速度違反がちょっとまずかったかもしれないけど、そんなに影響があるとも思えない。潜った後のしびれと痛みからすると減圧症だね」とシンプルな見解と、チャンバー治療をするように告げられただけでした。

減圧症であることは十分に認識していたので、治療についてはすぐにしていただきたかったのですが、「問題がないダイビングでどうして減圧症に罹患するんでしょうか?(問題があるはずです)」と腑に落ちませんでした。

以上、洋子さんに、ダイビング終了後から病院で診察を受けるまでの状況を語っていただきました。

減圧症に罹患したことがないダイバーにとっては、非常に興味深い話だと思います。

次回は、洋子さんが減圧症に罹患されたダイビングのシミュレーター分析結果から、どうして罹患されたかを考察してみたいと思います。

★今村さんが書いたダイバー必読の減圧症予防法テキスト

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PROFILE
某電気系メーカーから、TUSAブランドでお馴染みの株式会社タバタに転職してからダイビングを始めた。友人や知人が相次いで減圧症に罹患して苦しむ様子を目の当たりにして、ダイブコンピュータと減圧症の相関関係を独自の方法で調査・研究し始める。TUSAホームページ上に著述した「減圧症の予防法を知ろう!」が評価され、日本高気圧環境・潜水医学会の「小田原セミナー」や日本水中科学協会の「マンスリーセミナー」など、講演を多数行う。12本のバーグラフで体内窒素量を表示するIQ-850ダイブコンピュータの基本機能や、ソーラー充電式ダイブコンピュータIQ1203. 1204のM値警告機能を考案する等、独自の安全機能を搭載した。現在は株式会社タバタを退職して講演活動などを行っている。夢はフルドットを活かしたより安全なダイブコンピュータを開発すること。
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