有名無実のバディの責任!? PART2

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前回オーストラリアのグレート・バリア・リーフのダイビングで、
即席のバディ・チームでてこずったオハナシをしたら、
即席のバディ・チームなどありえない、あってはならない、でも現実にいくらでもある、
といった多くのご意見をいただきました。

もちろん気心の知れた、技量の分かる、普段からダイビングを共にしている
パートナーとばかりダイビングができれば、それに一番よいのに決まっております。
バディ・チームだけでなく、ボートツアーを提供する、
ダイビング・オペレーターにだって、ガイドにとってもいいわけです。
そんなことは言われんでもわかっとるわい、と言われる方も多いでしょう。

本来Cカードというのは、少なくとも、ダイビングがそこそこできるという、
認定証(これは上から目線的)であり、ダイバーの自立宣言(下から目線)である、
そのために作られたはずなんですよ。

さらに、バディシステムというのは基本の技術をマスターしているという前提と、
ダイビングを共有するという積極的な意志があって始めてなりたちます。

ちなみに私のグレートバリアリーフのくだんのパートナーは雪国のかたでありました。
スーパーマーケットを数店舗経営なさっている(名刺をいただいたので分かりました)、
多分リッチなとてもおだやかなお年寄りでした。
年に1、2度、 海外ダイビングツアーに参加するのが楽しみだということでありました。

このご老人は グレートバリアリーフの船旅ツアー以前にも、パートナーを悩ましていたのでしょう。たぶん認定証が水戸黄門様の印籠のごとき、ご威光を発してきたためであります。

止まれ。
これではバディシステムがうまくいかないのは、
認定制度、認定証のせいになっちまいます。

現実にそのボートに乗り合わせたのは、スイスからの中年ご夫妻といった、
元々のダイビングパートナーの組や、我ら日本人グループの他には、
シンガポール出張からアメリカへの寄り道のビジネスマン、
休暇でアメリカに戻る空飛ぶお医者さん、フランス語なまりの若いバックパッカー女性など、
どなたも、国籍、年齢、性別、たぶんダイビング体験、ダイビングを始めた環境もそれぞれに違う、
どちらも立派な一人旅のお客さんでありました。それが即製のバディ・チーム組むことになります。

ここでは一人で参加なさるゲストは、それまでのバックグラウンドどうであっても、
立派なバディ候補であり、バディ資格者で、
まるでフランスの外人部隊のように前歴不問がルールのようであります。

昨年の春、ガラパゴスで急に起きたダウンカレントで若いダイバーがなくなりました(詳細は→こちら)。
結局はバディ・パートナーが熟練ダイバーで、その後に遺体を回収したという悲しいケースです。乗り合わせたのが事故専門の弁護士さんで、克明に事故の詳細経過を
インターネットで発表したので、かなりの世界中の話題になりました。

レポートによると、前のツアー客を空港に送り、次のグループを出迎え、
カルフォルニア、テキサスといったところからやってきたゲストたちの、
部屋割りやペアが組まれるシーンが出てきます。

こんなシーンは世界中のツアー・ボートで、いやダイビング・オペレーターの店頭で、
日常茶飯事に行われているわけであります。
さらに言えば、ダイビング・ビジネスはこれで成り立っているのです。

膨大量の書き込みにも、バディの組み合わせをした
ボートクルーの責任を問う声はあり聞かれなかったように記憶します。

事実それで、世界中での年間数千万ダイブの、あるパーセンテージは、
多くの不安要素を含みながら、即製バディで、それぞれの努力の結果実行されているわけです。

バディ・ダイビングというのはかくのごとく、
複雑なファクターが絡み、微妙かつ面倒なシステムであります。

その反面、いくら技量や経験豊富な人がバディでも、自分だけさっさとボートにエクジットするや、
パートナーのエグジットを手伝いもせずに、
まず一服とかカメラのお手入れに没頭みたいなパートナーもよく見かけます。
いかにバディの関係は海の中ばかりでも、なんとなくこの人間関係の希薄さは不安であります。

私のダイビングの師匠(当時はインストラクターなぞおりません)は
水道の工事会社の社長さンでありました。たたき上げの職人さんでした。
減圧理論なんてものは教えてくれなかったのですが、
職人さんだけに、使った道具の後始末と手入れは、口やかましく言われました。

バックルを外したままウエイトベルト放り出しておくと
「おい!!ヤドカリ。外したバックルは踏まれりゃ壊れる。ウエイトベルトが使えなければ、
お前だけでなく、お前の相棒もダイビングができない」ってこっぴどく怒られコトを思い出します。

パートナーのバックル1つの不具合でも、バディは成り立たないってことであります。
エントリー直前、マスクをしたとたん、パートナーのストラップがプッツン。
こんなときに笑って許すのもバディで、そんなことが起きないようにチェックするのもバディ
ということでしょうか。ちょっとクサーイ精神論でごめんさい。

夜中のディスカバリー・チャンネルでアメリカ陸軍の水中部隊や海軍シールズの
凄まじいしごきシーンを放送しておりましたが、単に技術を磨くというより、
全員が同じ能力を持ち、同じ意識を持つということが目的といっておりました。
いわば、誰のバディにもなれるってことが、理想のバディ・システムなんですな。

そして複数のダイバーが同時に行動を共にできるというのがスクーバの特長なわけで、
もともとそこからバディシステムの考え方が生まれてきたわけです。

理想を言えば、 パートナーのマスクの中の表情をみるだけで意思が通じ、
目をつぶってもパートナーの器材が操作できる、なんてところまで行けばよいのでしょうが、
これをやるには軍隊並みのトレーニングが必要でしょう。
しかし、インストラクターのところに、お金を払ってダイビングを習いに来る人たちに、
ただただ精神論を押しつけようたって、そりゃ無理なこと。

意識がバディシステムのベース、しかもただの精神訓話やハードトレーニングが通用しないとなると、
大なり小なりヤドカリ爺のような体験をするかたは出てくるでしょうな。

さらには、その希薄な関係のバディの責任関係なんてことにも話は広がりますが、
そこまで話を広げますと、収拾がつかない事態必定の大テーマになります。

テラ和尚の「スキルアップ寺子屋」の特別コースにでも通っていただく、
あるいは女性はひたすらダイビングの上手な伴侶を見つける、
男子なら気心知れた仲間とチームを作ることぐらいしかヤドカリ爺に思いつきません。

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PROFILE
1964年にダイビングを始め、インストラクター制度の導入に務めるなど、PADIナンバー“伝説の2桁”を誇るダイビング界の生き字引。
インストラクターをやめ、マスコミを定年退職した今は、ギターとB級グルメが楽しみの日々。
つねづね自由に住居を脱ぎかえるヤドカリの地味・自由さにあこがれる。
ダイコンよりテーブル、マンタよりホンダワラの中のメバルが好き。
本名の唐沢嘉昭で、ダイビングマニュアルをはじめ、ダイビング関連の訳書多数。
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