ダイビング中に地震が起きたら?東日本大震災時、水中にいた作業ダイバーの証言
東南海地震の発生が近いと言われていますが、今回はダイビング中の地震に関して書いてみます。
実は幸運にも、関係学会の発表でも、先の東日本大震災のときに作業中のダイバーが亡くなったという報告はありませんでした(レクリエーショナルダイバーについては不明。東北沿岸で3月11日にレクリエーションとして潜水することは、水が澄んでいることはメリットですが、実際当時はどうだったかについては分かりません)。
しかし、近いうちに起きるかも知れない次の大震災のときには、同じように誰も亡くならないという保証はありません。
少なくとも今ダイバー自身ができることは、そのときにパニックになってしまって、自分で自分の首を絞めることにならないような心構えだけは講じておく必要があるということです。
東日本大震災発生時、福島沖と神奈川の水中体験したプロダイバーたちの話
福島県沿岸某火力発電所沖
プロダイバー(作業潜水士・A氏)が、伊豆の群発地震を体験した時の水中感覚は、「“ドン、グアン”という感じがして地震が来たと分かった」
そして東日本大震災時の時の水中感覚は、「“ドン”という爆発音がし、陸上で爆発が起きたと思った」ということです。
そして「音と揺れがほぼ一緒にきた」と語っていました。
神奈川県、某港内
東日本大震災発生時、港内で潜水していたダイバーの体感は、「14時25分頃から、遠くで“グオングオン”という音がした」、やがてその音は、「グオー、グアングアン」と大きくなっていき、そして、「海底全面から細かい泡が吹き出し、周囲がいわゆる“ブアーっとなった”」ということでした。
次に海底から0.5m~1mくらいが濁りだし、ついに海底が見えなくなっていったそうです。
この頑健な体格をしたプロダイバーは、その後に発生した引き波に逆らって上陸したのですが、このときの引きの力は、「一般のダイバーやインストラクターでは対処が困難だろう」と言うほどのものだったようです。
※海底の岩につかまりながら、海底を這いずるようにして引き波に逆らって這い上がっていったということでした。ちなみにこの方は相当の上級者だったので、当時BCを身に着けずに湾内で活動していました。そのため、浮力がマイナスに働く要因と、水が引くときにBCに絡んで引きの力を増すことを避けられたのかもしれません
震災地震を水中で体験した両者の共通項
- 二名のダイバーたちは共に、プロとしての経験が1万本以上あり、共に伊豆群発地震を水中で経験していました。また水中音が地震の発生を意味することを理解していました。
(二名とも作業ダイバーとしての経験も豊富。一名は水中暗渠での爆発事故の経験者) - 東日本大震災の時には、その彼らでさえ、また震源地から遠く離れた神奈川県の港の中でさえ、水中の音だけでは、それが巨大地震の発生を示す音とすぐには気づけなかったほど異質の音でした。
- 彼ら二名は、「一般のインストラクターは、伊豆の群発地震の時でさえ、地震が起きたことに気づかなかった者が多かった。だから今度の大震災の時には、なおさら気づきにくいだろう。判断の遅れが、彼ら自身やお客のダイバーの生死を左右することになる可能性がある」との危惧を語っていました。
海上保安庁・潜水士6名の、水中での地震体験時の感覚
※以下の内容は、過去の体験の記憶をたどって語っていただいたものであり、体験した日時と場所の確認は必ずしもとってはおり ません。
潜水士の感想
- 水中のダイバーは地震を察知したが、艇上の人間は分からなかった。
- 水中音の感じは、低く重い音、「ゴゴゴゴ」「ドドドド」という感じ。
- 水中にいても海底が揺れる感覚を覚えた。
- おそらく水中は水上よりも地震を感じる程度が高いと思われるが、小さな地震の場合、水中で地震を体験していない者は、地震と認識出来ない可能性がある。
一般にダイビング中はいろいろな事に注意が払われており、また自分の呼吸音によって、低い音への反応が鈍くなっている可能性があるとも語られていました。
潜水士の方々の具体的な体験例
- 熱海沖水深25m前後の水深で震度3の地震を体験した潜水士は、最初は船のエンジン音と思ったが、バディに手先信号で確認し、すぐに地震であると認知していました。
- 東日本大震災後に、福島港内水深10mで捜索中だった潜水士7名全員は、震度4の余震を感じ取り、浮上の指示が出なくても自分たちで浮上しました(→自己リスク管理ができるダイバーたちであったということです)。
自然環境への予見の必要性を忘れてはならない
つい先日の、2014年3月14日2時6分頃にも、伊予灘で震度5強の地震がありました。
ダイバーはいつどこで地震に遭遇するかわかりません。
そのとき、自分は何ができるのか、ゲストを抱えていたら、どうやって彼らの安全を図るのか、こういったことを、プロは必ず、一般ダイバーも自らの安全のために、常にダイビング行う場所の地形や海況を踏まえたシミュレーションを行っておくことが必要だと思います。
これから急いで行うべきことは、この貴重な情報を踏まえて、皆さんそれぞれの英知を持ち寄り、そして全国それぞれの場所に合った対応策を立案し、その英知の共有化をしていくことが必要ではないかと思います。
※以上は「スクーバダイビング中の地震と津波に関する報告と一考察」2011年第4回日本旅行医学会東京大会での発表資料より再構成しました。