季節来遊魚の真相やいかに!?
前回の“マクロ生物”の話の流れでひとつ。
季節来遊魚
本州で潜る人ならお馴染みの言葉だろう。
簡単に説明するなら、
黒潮に乗ってやってくる南方系の魚たち。
水温が上がる夏〜秋ごろに目に付くようになり、
「こんなところに、こんな生物が!」というドラマ
の主役。フィッシュウオッチングには欠かせない存在だ。
例えるなら、毎年秋になると渋谷でブッシュマンに
出くわすようなもの。
違う気がする。
で、この季節来遊魚なる言葉。
その誕生の瞬間にいた。
ダイビングを10年以上やっている人はご存知だろうが、
ひと昔前は“死滅回遊魚”だった。
これは学術用語。
南方から流れてきた魚は日本の水温に耐えられず、
冬を越せずに死んでしまう、という意味が含まれている。
いわゆる“無効分散”ってやつで、
いくら伊豆でレアな生物を見つけても、
死滅回遊魚では伊豆が生息域として認められない。
その辺があいまいな魚がいるが、
それはまた今度。
確か6〜7年くらい前だったと思うが、
『マリンダイビング』の編集会議で、
「死滅回遊魚って言葉はイメージが悪い。夢がない」
という話があがった。
誌面上で“死滅”という文字が常に出てくる
のもいかがなもんかということだ。
しかし、そんな勝手に学術用語を変えちゃっていいもの
かという意見も当然あり、喧々諤々。
結果、季節来遊魚。
ネーミングだけ考えれば圧倒的にこっちがいい。
冬に死んじゃうってより、
夏過ぎにやって来るって方が夢がある。
ただ、無効分散な感じはしない。
定着するのかな……と思っていたが、
雑誌の威力は大きい。
最初は取材先で横暴だとお叱りを受けたり、
学者からはもちろん嫌な顔をされたりしたが、
次第にそんなこともなくなり、
今では特に若いガイドさんに取材すると、
「今年の季節来遊魚はですね……」と自ら
使い始めたりして、何だか不思議な感じがする。
ただ、今でも多少の罪悪感のようなものが
僕の中にはあって、雑誌で季節来遊魚を説明するときは、
必ず「死滅回遊魚ともいって、なぜなら……」と注釈を
いれる。
まあ、“マンタ(オニイトマキエイ)”のようなもんだ。
取材先でも、ガイドさんによって言葉を使い分けている。
やはり中には「専門誌がそうやって混乱させるようなことはよろしくない」というガイドさんもいるし、
僕も共感する部分はあるので。
季節来遊魚と死滅回遊魚。
皆さんはどちらを使っているのでしょう?