ジンベエザメには目が四つ!? 世界最大の魚の生態と魅力を徹底紹介

悠々と泳ぐジンベイザメ

大きな体で大海を悠々と泳ぐジンベエザメは、実に穏やかで愛嬌のあるジェントルジャイアント。この記事では、ジンベエザメの生態、そしてその不思議や魅力に迫ります。

ジンベエザメとは? – 基本的な特徴

ジンベエザメは世界最大の魚類

最大の魅力であり特徴は、なんと言ってもその巨体! ジンベエザメは世界最大のサメであり魚類なのです。信頼のおける最大記録としては全長13.7m(2001年、正確な計測では12.1mであったと修正報告あり)。信憑性に欠けるものの、20m前後という報告もあるようです。
しかし上には上がいるもので、地球史上最大のサメはメガロドン。2300万年前から360万年ほど前に生息したホホジロザメの仲間です。絶滅種ではありますが最大15mに達し、その鋭い歯は15cm以上もありました。

ジンベエザメを撮るダイバー

モルディブなどのダイビングポイントでは、ジンベエザメと接近遭遇できる

名前の由来

ジンベエザメの背中は、グレーの地色に淡い白斑が散在しています。この模様が、甚兵衛という庶民が着る羽織を連想させることから和名が付けられました。英語圏では「クジラのように大きなサメ」であることから Whale shark と呼ばれています。

ドローンからの空撮。巨大なジンベエザメに餌を与える漁師たち

これほど大きくても、3~4m程度のサイズではまだまだ子どもというから驚きだ

分布域と生息地

世界中の熱帯から亜熱帯海域に広く分布しており、しばしば温帯海域でも見られます。日本では青森県や日本海からも記録があり、房総半島あたりでも、しばしば定置網にジンベエザメが入り込むことも。ジンベエザメがよく目撃されるのは外洋の表層域です。背中側が暗色(グレー)で腹部が白というジンベエザメの体色は、水深の浅いところで暮らす魚類によく見られる配色パターン。空や水面から見ると海の色に溶け込み、深場から見上げると明るい海面に紛れるというカムフラージュなのです。

熱帯の青い海に浮かぶ大型のジンベエザメ

お腹は白く、模様はない

寿命は100歳前後?

ジンベエザメの寿命はよくわかっていませんが、「美ら海水族館」では30年近く飼育されて、まだまだ元気な個体(ジンタ/オス)がいることなどから、かなり長寿なサメと推測されます。2018年には「ジンベエザメの寿命は130年」という報告がありました。ノバ・サウスイースタン大学の研究チームがモルディブで44尾のジンベエザメの体長を水中で計測し、それを数学的モデルに組み込んで年齢を予測した結果だそうです。

また2020年には、サメの骨格に含まれる希少な放射性同位体「炭素14」を年代測定するという手法により、あるジンベエザメの死骸が50歳であることが判明。この研究チームのチーフ、オーストラリア海洋科学研究所のM・ミーカンは「ジンベエザメの寿命は100年ほどあるのではないか」と見解を述べています。

ジンベエザメの驚くべき生態

主食はプランクトン

その巨体に似合わず、ジンベエザメの主食はカイアシ類といった小型甲殻類や魚類の仔魚などの動物性プランクトン。魚卵やサンゴの卵といった微小な有機物も食べています。その大きな口にはメジロザメの仲間のような鋭い歯はなく、小さな歯が密生しているだけ。ジンベエザメの学名はRhincodon typus(リンコドン・タイパス)ですが、Rhincodon とは「ヤスリのような歯」を意味します。

摂餌スタイルは「吸引濾過」という独特の方法。閉じた口を突然大きく開けることで、陰圧になっていた口内に急速に海水を取り込み、仔魚やプランクトンなどを濾し取って食べるのです。このとき立ち泳ぎになっていることが、自然界でも水族館でも観察されています。また、表層で口を大きく開け、泳ぎながらプランクトンを捕食するというスタイルもしばしば見られます。

立ち泳ぎするジンベエザメ

エサを食べる時は立ち泳ぎをする

1000m以上も潜り、季節によって大集結

水面直下を泳ぐというイメージのジンベエザメが、表層と深場を行ったり来たりするという行動が世界各地の海から報告されています。たいてい数百m以浅ですが、しばしば1000mを超えることもあり、最大1300mに達することも。摂餌のためという説が有力で、そのほかにも体温調節や長距離移動の際の体力温存説など諸説あるようです。

また、ジンベエザメは大海を広く回遊しています。1994年に報告されたオーストラリア東部の研究では、9月頃にニューギニア南東部を出発し、グレートバリアリーフ沿いに南下、1月にゴールドコースト、3~4月にニューサウスウェールズ沖に到達するというルートが想定されています。

回遊ルートは解明されていないものの、毎年ある時期だけ同じ海域にやってくることも知られています。多くは餌を求めての行動で、例えばカリブ海のユカタン海峡では夏場の1ヶ月、カツオ類の産卵時期に合わせて数百尾ものジンベエザメが集結。西オーストラリアのニンガルーリーフでは3~4月、サンゴの産卵時期によく見られるようになります。

こんなにデカいの!世界最大の魚・ジンベエザメと泳げる5つの海

ガラパゴス諸島の最北端にあるダーウィン島では、7~12月にかけて滅多に見ることのできない全長10mにもなる大型のジンベエザメ が回遊してきます。成熟したメスも見られることから、繁殖に関係しているのではないかと研究者や水族館関係者から注目を集めています。

スーパーマザー!

1954年に卵殻が採集されていたことから、長い間ジンベエザメは卵生と考えられていました。ところが1995年7月15日、台湾で大きなメス(全長10.6m、体重16t)が捕獲されたことで、卵生説は完全否定されました。このメスは妊娠しており、子宮内から出産直前と思われる307尾の子ザメ(60cm前後)のほか、子ザメがまだ入ったままの卵殻、空の卵殻が発見されたのです。

これにより、ジンベエザメは胎内で卵を孵し、300尾以上もの子ザメを出産することがわかりました。それまで子ザメの数が最も多かったヨシキリザメの135尾という記録をはるかに上回る新記録を樹立し、体の大きさに加えて多産な種としてもサメ界の頂点に立ったのです。

ちなみに、このとき発見された胎児のうち15尾は生きており、1尾が大分マリーンパレス水族館「うみたまご」で3年間も飼育されました。名前は「ジジ」。全長70cm・体重0.8kgだったジジは、3年後には3.7m・350kgまで成長しました。たった3年で長さ5倍、体重は430倍! 驚異的な成長スピードですね。

ジンベエザメの不思議

「世界最大」の共通点

ジンベエザメが世界最大のサメなら、オニイトマキエイ(マンタの仲間)は世界最大のエイ、シロナガスクジラは世界最大のクジラであり哺乳類です。その共通点は動物プランクトン(魚卵や仔魚、小魚等も含む)を常食とすること。ちょっと意外な気もしますが、これらは海の中に無尽蔵に存在するうえ、自力で移動する能力はほとんどなく、季節や場所によっては大量発生します。魚を追いかけ回して捕食するより、大きな口で一網打尽にするほうが巨体を維持するのに効率的なのでしょう。
ちなみに、ジンベエザメに次いで巨大なサメであるウバザメ(最大12m)も、全長6m以上となる深海のメガマウスザメもプランクトン食性です。

パッド沖の水面直下を泳ぐバスキング・シャーク

口を大きく開け、泳ぎながらプランクトンを捕食するウバザメ

他のサメとの違い

ジンベエザメと他のサメ類との大きな違いの一つは食性です。ほとんどのサメの仲間は他の魚類や海底の貝類、甲殻類などを捕食するハンターで、イタチザメやホホジロザメといった大型種はアシカやアザラシなど海の哺乳類もメニューのひとつ。一方、ジンベエザメはプランクトン食性。この相違は、口の位置にも繋がります。

多くのサメ類では口は頭の下というか腹側に位置していますが、ジンベエザメでは前端にあります。幅広い口は大きく丸く広げることが可能で、海水ごとプランクトンを吸引するのに都合がよい。メジロザメの仲間のような、大きくて鋭い歯は必要ないのでありません。

捕食のために口を大きくあけるジンベエザメ

頭部前端にある口は幅が1mほどもあり、大きく広げることができる

また、鰓孔(さいこう)(5対のエラ孔)の大きさも他のサメ類と比べてかなり大きい。大きな口から一気に吸引した大量の海水を排出する際、よく発達した鰓耙(さいは)(ブラシ状の器官)でプランクトンを濾し取っているのです。

ジンベエザメとネムリブカ

左はジンベエザメ、右はネムリブカ。ジンベエザメの鰓孔は一般のサメ類と比べかなり長い(大きい)ことがわかる

ジンベエザメの子ども!?

インド-西太平洋のサンゴ礁で見られるトラフザメは、一見するとジンベエザメにそっくりです。ずんぐりとした体形、丸っこい頭部、体側に見られる隆起線、尾ビレ上葉が長く伸びていること等々。「実はジンベエザメの子どもなんだ」と言えば、信じてしまう人もいるかも?実際、ジンベエザメとトラフザメは近縁種で、分子系統学的にも「ジンベエザメ科とトラフザメ科、コモリザメ科は共通の祖先から分化してきた」とされています。また、最近はこの3グループをジンベエザメ科としてひとつにまとめることもあります。

水中のサンゴの上に美しく斑点が入ったゼブラ(レオパード)・シャーク

トラフザメの大きさは2m程度、底生の小動物を食べる肉食性

ジンベエザメには目が4つ?

ジンベエザメの眼の後ろには小さな孔が開いています。これは噴水孔という軟骨魚類(エイ・サメ)に特有の器官で、呼吸を助けるためのもの。海底で生活をする種類ではよく発達しており、エイ類などでは眼より大きいくらいです。
遊泳性のジンベエザメでは痕跡程度ですが、本来の眼が小さいのでちょうど同じくらいのサイズ。ほら、まるで四つ目に見えませんか。

ジンベエザメの小さな眼

横から見ると、目が2つ並んであるように見える

ジンベエザメと日本人

豊漁の象徴~恵比寿鮫

体が大きいことからクジラブカ(鹿児島など)、背中の模様がジワ~と海面に溶け込むことからミズ(ミジ)サバ(沖縄)など、ジンベエザメは日本各地でいろいろな名前で呼ばれています。その中でも有名なのは、漁業の神様といわれる恵比寿様に由来するエビスザメやエベスザメ。ジンベエザメは古くから豊漁の象徴であり、幸運な魚として崇められてきたのです。

というのも、カツオやマグロなどの群れは流木など大きなものについて泳ぐ習性があり、しばしばジンベエザメにも付き従います。黒潮に乗って高知沖や伊豆沖にカツオが回遊してくる4~9月、しばしばジンベエザメも日本沿岸を北上してくることがあります。魚群探知機がない時代、この巨大ザメはカツオの大群を発見するうえで良い指標となったのでしょう。

ジンベエザメと会える水族館

自然の海の中で、偶然ジンベエザメと遭遇する可能性はゼロに近い。しかし、近年はシーズンとエリアさえ選べばかなり高確率で見られるようになってきました。研究者や現地ダイビングガイドの調査や努力の賜でしょう。とはいえ、海外なのでそう気軽に行かれません。
でも、日本にはジンベエザメを常時展示している水族館があります。沖縄の「美ら海水族館」と大阪の「海遊館」で、どちらも飼育技術に定評があります。特に「美ら海水族館」は世界で初めてジンベエザメの飼育に成功したことで知られ、現在も最長飼育記録を更新中(2023年11月現在)。そのほか「いおワールドかごしま水族館」、「のとじま水族館」などでもジンベエザメが見られます。

ジンベエザメの組写真

世界最大のサメ・魚類であるジンベエザメの生態や生物学的な特徴を詳しく紹介してきましたが、いかがだったでしょうか?ジンベエザメについては、まだまだ未知の部分も多いため、今後さらに研究が進み、生態が解明されていくことを期待したいと思います。

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PROFILE
東京水産大学(現東京海洋大学)在学中、「水産生物研究会」でスキンダイビングにはまり、卒論のサンプルであるヤドカリ採集のためスキューバダイビングも始める。『マリンダイビング』『マリンフォト』編集部に約9年所属した後フリーライターとなり、現在も細々と仕事継続中。最近はダイビングより弓に夢中。すみません。
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