長男なのに……(注:下ネタです)
今日はどこに潜りにいったの?などと聞かれもしたが、
5時起きしたのは治療のため。保険証が実家にあることを思い出し、
始発で埼玉の実家に行くハメになったのだ。
何の治療かというと、“長男ですが痔なんです”のギャグで御馴染みの痔。
そう、以前の日記で何度か書いているように、
ワタクシ長男ですが痔なんです。ペコちゃんみたいになっている。
ライターの職業病である上に、普段から酷使しているので仕方ない。
酷使ってのは激辛好きってことね。念のため。
ちょっと辛くなってきたので、
ここは薬局ではなくきちんと病院に行こうと決意し地元の肛門科へ。
なんか入るのが恥ずかしい。恥ずかしいが入る。
待合室でも「冴えねーなー……」と脱力感。
肛門っていうのはなんでこんなに情けなさが漂うのだろう。
ほんの少し中の大腸だったら、何だか誇らしいのに。
「ちょっと大腸のポリプで病院にね」なら
「テラさんったら、働き過ぎなんだわ」と恋のひとつでも生まれるのに、
「ちょっと肛門のイボ痔で病院にね」だと
「だっはっはっは」と大笑いされて終わりだろう。
情けないので待合室でおもしろいことを考えることにする。
というか、肛門科に来るということは、
ネタに昇華させて笑い飛ばしてもらうしか救いようがないのである。
しかし、肛門というテーマはベタ過ぎて取り扱いが難しい。
事実、まず頭に浮かんだのがきっと誰もが思い浮かぶであろう、
水戸の肛門科。これではいけない。
いけないが、浮かんでしまったので、とりあえず携帯で調べてみると、
結構、水戸にも肛門科がある。だからなんだ。
大しておもしろくないことに気がつきもっと情けなくなる。
でも、肛門科の待合室で、真顔で検索エンジンに“水戸”と“肛門”って打っている感じは俯瞰ではちょっとおもしろいかも。ふふ。
もうちょっとだけ広げてみようと、頭の中で、水戸の肛門科で、
「このもんどころがぁ、目に入らぬかぁ〜!」と尻の穴を医師に向かっておっぴろげる様子を思い浮かべてみる。
どうしよう、すごくつまらない……。
おもしろいことが思いつかない自分にがっかり。仮にもライターだろう?
あ! “痔ろうだもん”と“ジローラモ”は似ているかも。
う〜ん、イマイチ! ジ、ジ、ジ、ジ。う〜ん、何だろう?
アルプスの少女・ハイ痔。東京都知痔。明日、ホールで!
ダメだ……。
おもしくさえならない。情けない。おもしろくなければ、残されるのは、
ズキズキするアスホールと痔の治療に訪れた情けない三十路男という事実だけだ……。
あ! 俺、三十路だ! 俺、三十痔だぁ〜〜〜〜〜!
ほんのちょっとだけおもしろい。
と、待合室で現実を受け入れられずに格闘していると、
自分の番が回ってきた。なんだか、緊張。
診察してくれたのは料理家・服部氏似の無愛想な初老の医師。
なぜ穏やかな昼下がりに、初老の男子に一番恥ずかしいところを見られなければならないのだろう。いや、服部氏も本意ではないだろうが。
照れても仕方ない。
お尻の部分だけパッカリ開く間抜けなズボンからお尻をペロンと差し出す。
お尻を出しながら、
頭の中で「このいんのうがぁ、目に入らぬか〜〜〜!」と言ってみる。
くっくっくっくっく。やばい。おもしろい。顔がニヤケる。
服部氏も尻を出しながらニヤケる三十痔は、さぞ不気味だったに違いない。
さて、診察。服部氏が言う。
「何かおかしいね……」
ちょっと、ちょっとちょっと!
服部氏、おかしいとは何ごとかね?
ワタクシ、極度のビビリなんだからやめておくれよ。
不安になり聞き返す。
「どんな感じでしょうか?」
「傷の跡があり、そこから雑菌が入って炎症を起こして、うんちゃらかんちゃらだが、
何か心当たりはある?」
ちょ、ちょ、傷だなんて、俺はどノーマルだし、
そんな変な趣味はないし、何を言い出すんだ服部氏!
心当たりなんかあるはず……
ある!
どうしよう。心当たりあるよ。
しかし、ここは心当たりないことにしようか……。
いや、嘘をついても仕方ない。正直に告白せねば。
「え〜とですね……。そういえば、毛を抜いたりなんかして……」
数日前のことだ。
尻毛、いや正確にはもっとピンポイントにモン毛(肛門毛の略)を抜いた。
いや、なんとなく一本抜いたら止まらなくなり、
ブチブチときれいになるまで抜いてしまい……。
いや、ホンの出来心なんです。本当にすいません。もうしませんから〜。
服部氏は冷静に言う。
「毛を抜いた後の毛穴は炎症を起こしやすいんです」
そういえば、無理矢理抜いたからちょっと血も出た。
雑菌の宝庫なわけだし、そりゃ炎症起こす。
あぁ、何たることだ! すげぇ恥ずかしい。恥ずかしいよ〜。
赤面する俺に服部氏は冷静にひと言。
「どうして、そんなことしたの?」
どうして? どうしてですと?
何と哲学的な問いだろう。むぅ。さて、どうしてだろう?
う〜ん、強いていえば
気に食わなかったから
しかし、そんな抽象的なことは言えないし、
もう無駄毛が気になる年齢でもない。本当になぜだろう?
突き詰めて考える必要がある。
“魔が差した?”。やはり、抽象的でちょっと違う気がする。
まず問題なのは、なぜ俺はモン毛を抜くという行為に抵抗を感じなかったのだろうか?
それは、よく考えたらこれが初めてではないからだ。
確か、初めてのときはツルツル全盛期の高校時代。思春期だ。
今でこそ、オダジョーやら浅野忠信やらヒゲも天パもカッチョイイことになっているが、
当時は保坂やら栄作やらが全盛でツルツルサラサラ時代。
曲がった毛や無駄毛に市民権はなかったように思う。
そんな時代背景の中、思春期で自意識過剰な自分は
無駄毛が許せなかったわけだが、幸いヒゲも青くないし、胸毛もない。
と、安心していたところに、ある日偶然、尻毛を見つけてしまい、
さらにその奥のモン毛に辿り着き、衝撃を受けたのだった。
思春期の俺にその事実が受け入れられるだろうか?
いや受け入れらない(まだ続く反語ブーム)。
そこで、泣きながら(嘘)モン毛をむしり取った記憶があるが、
さすがに今はそんなもの気にはしない。
気にはしないが、その当時の経験が癖になり、
何となく抜き始めると止らなくなってしまったというわけだ。
4年に1度くらい何となくそんなことになる。
となると、今回の件は思春期の名残りというわだが、
その思春期に影響を与えたツルツルサラサラというトレンドがいけなかったというわけだ。
でもって、景気がいいと文化は近未来思考になり、
シャープというかツルツル志向になるという説があるわけで、実際、
あの時代は泥臭さが消え、もみ上げがアイビーだったり、
テクノが流行ったり、何となくシャープな感じだったりしたわけだ。
その当時というのはバブル全盛にほかならず、
となると、服部氏の「どうして、そんなことしたの?」の
問いに対して俺が言うべき返答は、
「バブル経済の残した傷跡です」
ということなのだ。俺の痔はバブル経済のせいなのだ。
そんなわけはない。
そんなわけあっても、そんなこと言えるはずもなく、
結局は、「何となく……えへへ」とだらしなく笑うしかなかったわけで、
軟膏のような塗り薬をもらい、
「もうそんなことをしないように」と注意されて帰ってきたのだった。
自虐ネタはそろそろ卒業して書くべきことを書かなくてはいけないのだが、
しかし、これはもうネタにするしかない。
それはおもしろいからではなく、
三十路男子は人生と闘わなければならないはずであって、
「もうモン毛は抜いちゃいけません」とたしなめられる三十痔であっていいはずは決してなく、一人で抱え込むにあまりにも重い十字架だ。
せめて笑い飛ばしてもらえれば、
十字架は“たいして重くない”と思える気がするので、
引いたり、同情の目を向けたりせずに、
ぜひ生暖かい目で見守っていただければこれ幸いです。