沖縄・恩納村で障がい者がダイビングに挑戦!想像よりもハードルは高くなかった。モニターツアーレポ

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オーシャナのCEO・河本雄太が理事を務め、鹿児島県大島郡瀬戸内町にある障がい者と健常者が共に安心・安全に楽しめるマリンスポーツ総合施設「ゼログラヴィティ」を運営する一般社団法人・ゼログラヴィティ(以下、ゼログラヴィティ)が、全国のマリンアクティビティ施設へとユニバーサルデザイン導入の支援を今年の7月から全国各地で行っている。

第三弾となる今回は、国内でも有数のビーチリゾートとして知られる沖縄県恩納村にあるダイビングショップ「ピンクマーリンクラブ」にて、スキューバダイビング(以下、ダイビング)のモニターツアーが行われた。「障がい者がどのようにダイビングをするのか?」、「ダイビングをしてみてどうだったか?」など、紹介していきたい。

ゼログラビティが導入しようとする“ユニバーサルデザイン”とは

障がいの有無、国籍、年齢にかかわらず、誰にとっても海での遊びや学びが日常となるデザイン。SDGs達成の原則にもある「誰一人取り残さない(leave no one behind)」という世界を実現するため、障がい者向けのプログラムを作成したり、マリンアクティビティスタッフへの研修、設備導入などを実施している。

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ユニバーサルデザインのモニターツアー実施に至った背景

今回、なぜ「ピンクマーリンクラブ」にユニバーサルデザインのモニターツアーを実施することになったのだろうか。それは、ピンクマーリンクラブが恩納村に位置していること、そしてコンドミニアムとダイビングサービスが一体型となった施設で、施設から港まで徒歩移動できる好立地であることが理由に挙げられる。

まず恩納村は、村南部にある青の洞窟で有名な真栄田岬をはじめ、美しいサンゴ礁の生息地であることから、マリンアクティビティを楽しむ多くの観光客が訪れ、海岸沿いには多くの大型リゾートホテルが建ち並ぶなど日本屈指のビーチリゾート地として知られている。その観光客数は年間300万人近くにのぼる。

一方、恩納村でマリンアクティビティを楽しむ障がい者のイメージはあまりないのが実情だ。実際に恩納村の海で26年間潜り続けており、恩納村マリンレジャー協会(※)の会長でもある、ピンクマーリンクラブ代表 内原靖夫氏(以下、内原氏)も過去に障がい者をダイビングに受け入れたことは1、2回だという。つまり、日本屈指のビーチリゾート地でさえも障がい者がマリンアクティビティを楽むことは当たり前になっていないのが現状だ。そこには、受け入れ側のダイビングショップの意識や設備、参加する側の障がい者や家族の意識などさまざまな要因がある。
※恩納村で事業を営む事業者の方のため、地域と共存共栄を目指し、恩納村を訪れる観光客に安心してマリンスポーツに参加していただけるよう、事業者のサポートをおこなう一般社団法人。マリンアクティビティにおける安全対策、海の環境保護、恩納村への誘客活動などを実施。

そんな恩納村の中で、モニターツアーを行うことになったのがピンクマーリンクラブ。ここは、前述した通り、代表である内原氏が恩納村マリンレジャー協会の会長であることもあり、恩納村のマリンアクティビティ業界でも先駆けた取り組みを行いやすい。さらに、施設においてはマリンアクティビティ用の更衣室やシャワー、ブリーフィングエリアがあるダイビングサービスと、宿泊施設が一体となっているため、すぐに部屋に戻れるとても快適な条件で障がい者にとって使いやすいという特徴があるのだ。

これらの背景がある中で、今回、恩納村において初のダイビングでのモニターツアーが実施されることとなった。

モニターツアーの様子

ここから、モニターツアーの様子をお届けしていこう。参加者は下半身に運動障害があり、普段から車いすを利用する木戸俊介氏(以下、木戸氏)。木戸氏は、長崎県壱岐市にあるイルカと友達になれる唯一無二の施設「壱岐イルカパーク&リゾート」でのデモンストレーションイベントにも参加した、マリンアクティビティが大好きな方だ。

当日朝、まずはブリーフィングを行う。障がい者の受け入れを経験したことがないピンクマーリンクラブのダイビングガイドへも「障がい者とコミュニケーションを取ることが、お互いの不安を解消することに繋がります」などと木戸氏から話があった。

ブリーフィングにはピンクマーリンクラブのスタッフや介助者らも参加し、当日の流れを確認

ブリーフィングにはピンクマーリンクラブのスタッフや介助者らも参加し、当日の流れを確認

ブリーフィング後は、早速海に向かう。恩納村ではボートでダイビングポイントまで向かう「ボートダイビング」とビーチからエントリーする「ビーチダイビング」、両方楽しむことができる。ピンクマーリンクラブは港の目の前に位置することから、ほとんどのダイビングをボートダイビングで行っているため、この日もボートダイビングに挑戦することにした。

施設から徒歩数分。漁港が見えてきた。

ここ、恩納村の漁港は、陸と桟橋の間は階段がなく、スロープで繋いである。すでにユニバーサルデザインであると言える。

車いすでもスイスイ桟橋へ行ける

車いすでもスイスイ桟橋へ行ける

車いすからボートへの移動。ここでは陸とボートの高低差で、人手が多く必要かと思われたが、恩納村漁港の桟橋は潮位に合わせて上下する仕様になっており、木戸氏自らの腕の力だけで車いすからボートへの移動ができた。「陸からボートへの移動が最大の難関だと思っていたから、ここを簡単にクリアできたのは嬉しいですね」と木戸氏。

桟橋とボートの高低差が少ないので、車いすでもボートに乗り込みやすい

桟橋とボートの高低差が少ないので、車いすでもボートに乗り込みやすい

お尻をボートのヘリにつけて乗り込む

お尻をボートのヘリにつけて乗り込む

ボートではビーチに適した水陸両用車いす「HIPPOcampe」に乗り、スタンバイ。このHIPPOcampeは腐食しにくくした中空洞のアルミニウムの骨組みと、耐水性に優れたシート、そして二重構造の特殊なタイヤでできており、ボートはもちろん、砂浜での走行もできる優れもの。

船を走らせること、数分。ダイビングポイントに到着したら、HIPPOcampeからボートのヘリに移動する。器材はボートで身につけエントリーするのが一般的だが、身体に障がいがある場合は水中のほうが、陸よりも重みを感じずに楽に身につけることができる。

ダイビングポイントに到着。 エントリー前の木戸氏の様子

ダイビングポイントに到着。 エントリー前の木戸氏の様子

木戸氏は水に慣れているせいか、ダイナミックに船のヘリからエントリー(船から海に降りる、はしごを使ってエントリーも可)

木戸氏は水に慣れているせいか、ダイナミックに船のヘリからエントリー(船から海に降りる、はしごを使ってエントリーも可)

木戸氏はレギュレーターを咥え、呼吸をしながら、ダイビングガイドが器材を丁寧に装着させる

木戸氏はレギュレーターを咥え、呼吸をしながら、ダイビングガイドが器材を丁寧に装着させる

水中では、バディが木戸氏のタンクを支えながらバランスを保ちながら、ガイドに付いていく。

手で持っている水中スクーターで、自分の行きたい方向に進むこともできる。

水中スクーターを操縦し、自由に泳ぎ回る

水中スクーターを操縦し、自由に泳ぎ回る

イソギンチャクの影にはクマノミも

イソギンチャクの影にはクマノミも

30分ほど水中散策を楽しみ、浮上。エグジットもエントリー時と同じように、水中で器材を脱いでから。

ガイドが声をかけながら、水面で木戸氏の器材を脱がせていく

ガイドが声をかけながら、水面で木戸氏の器材を脱がせていく

エグジットは、はしごを使って、ガイドにサポートしてもらいながら。ガイドは、障がい者とコミュニーケーションをとりながら、一番あがりやすい方法を探る。木戸氏の場合は腕力があるので、ガイドに腰と足を支えてもらい、最後は自力で自分の体をボートのヘリに持ち上げるスタイルでエグジットした。今回はモニターツアーということで、腕力が弱い参加者だった場合も想定し、いくつかのパターンでエグジットをシュミレーションした。

ガイドに腰と足を支えてもらい、最後は腕力を使って自力でエグジット

ガイドに腰と足を支えてもらい、最後は腕力を使って自力でエグジット

腕力が弱い場合は、ガイドが上半身ごと持ち上げて、ボートにいる仲間に引き上げを手伝ってもらう

腕力が弱い場合は、ガイドが上半身ごと持ち上げて、ボートにいる仲間に引き上げを手伝ってもらう

左からバディの河本氏と木戸氏

左からバディの河本氏と木戸氏

木戸氏は「スクーターはバランスを取るのが難しくて、少し手こずりました。恩納村で初めてということもあり、正直、今回は段取り感もあったので、今後はどんどんスムーズにしていきたいですね!でもやっぱり水中景観はとても綺麗でした!」とボートに上がった第一声。

ダイビングを終え、港に戻る。桟橋に到着したら、ボートに乗り込んだ時と同じように、まずはボートのヘリにお尻を付け、陸にいる介助者に車いすを押さえてもらいながら、乗り換える。

下船時もボートと桟橋の高低差が少ないために、スムーズにできた

下船時もボートと桟橋の高低差が少ないために、スムーズにできた

漁港の目の前にあるピンクマーリンクラブの施設に戻ってきた。シャワーや更衣室は地下1階にあるが、エレベーターを利用して、何の障害も無しにたどり着ける。また、シャワーが個室になっていないこともあり、車いすのままシャワーを浴びることができ、快適そうな様子が伺えた。

モニターツアーを終えた感想と今後の展望

あっという間だった、ダイビング。最後は、フィードバックを行い、本モニターツアーは終了となる。木戸氏や介助者の立場から、将来的な受け入れに繋げるためのフィードバックを行った。障がい者の方ができる限り快適に施設を使い、ダイビングを行うために、「ボートに追加の脚立を設置するのはどうか?」、「ダイビング前は宿泊施設で着替えられたが、ダイビング後は車いすなども濡れた状態で、宿泊施設に戻ることができないので、ビーチに着替えるための簡易的なテントを設置すると良いかもしれない」など、障がい者の目線からさまざまな意見が行き交った。

障がい者の一人としてダイビングを体験した木戸氏のコメント

「陸で車いすに乗っている状態からボートに移るところが最大の難関だと想定していたのですが、恩納漁港は水位に合わせて上下する桟橋になっているので、かなりスムーズに乗船できました。水中では、水に慣れていなかったり泳ぎが苦手な健常者がスムーズに潜降するのが難しかったり、落ち着いて呼吸するまでに時間がかかるのと同じように、障がい者も基本的に大変なことは同じです。その点に関してはブリーフィングをいつもより多めにすると、ゲストもスタッフもお互い安心してダイビングを楽しめると思います。そして、海遊びが終わって、すぐに宿泊施設に帰れるのは利点ですね。着替えて、車で移動して、そこからシャワーを浴びて・・・という行程が入るよりは、部屋に帰ってシャワー、入浴を済ませてそのままベッドで更衣できることは非常に楽でした」。
ガイドとして参加した代表・内原氏のコメント

「恩納村に来て26年目になりますが、過去に障がい者の方を受け入れたのは1〜2回ほど。宿泊施設は30年前に建ったものなので、ユニバーサルデザインに関しては手をつけられていないのが、正直なところです。ただ、今回のような機会をいただけたことは、多様なゲストを幅広く受け入れるきっかけになると思います。宿泊施設とマリンアクティビティ施設が一体となっていることを強みに、前向きに取り組んでいきたいですね」。

こうして、受け入れ側と参加者側、両者から意見を出し合い、今後に繋がる希望や改善点など多くを発見できるモニターツアーとなった。健常者と障がい者が一緒に恩納村の美しい海を楽しむことができたら、素晴らしい思い出になるに違いない。今後のユニバーサルデザイン化を楽しみにしよう。

ピンクマーリンクラブ
ピンクマーリンクラブ

平成3年に恩納村前兼久にダイバー専用コンドミニアムとダイビングサービスが一体型となった施設としてオープンし、約30年恩納村周辺のポイントをメインのゲレンデとして潜り続けており、初心者から上級者まで対応出来るスタッフが在籍。施設から港まで徒歩移動ができる好立地で、すぐに部屋に戻れるとても快適な条件でリゾートダイビングを楽しむことが可能。

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ゼログラヴィティ

障がい者と健常者が共に安心・安全に楽しめるマリンスポーツ総合施設として、2016年、奄美大島瀬戸内町清水に 「ゼログラヴィティ清水ヴィラ」が設立。宿泊施設をはじめ、自社船、プールなど全てがバリアフリー設計となっており、スノーケリング、スキューバダイビング、カヤック、クルージング、ホエールウォッチングなど、奄美の海で の豊富なマリンアクティビティを誰もが安心して楽しめる設備とサービスが整っている。「旅と海遊びで夢と希望を作り出す」をコンセプトに、日本のダイビング業界におけるユニバーサルデザインの普及を推進しています。

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日本財団の補助事業により実現
本プログラムは、日本財団の補助事業により実現。「バリアフリーマリンレジャー事業」は、 日本財団が推進する「海と日本PROJECT」の取組の一環として行っており、スサミトラベルカウンターFRONT110おけるユニバーサルデザインの導入のための補助として、一施設の工事の実施および機材などが寄贈された。
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PROFILE
0歳~22歳まで水泳に没頭し、日本選手権入賞や国際大会出場。新卒で電子部品メーカー(広報室)に入社。同時にダイビングも始める。次第に海やダイビングに対しての想いが強くなりすぎたため、2021年にオーシャナに転職。ライターとして、全国各地の海へ取材に行く傍ら、フリーダイビングにゼロから挑戦。1年で日本代表となり世界選手権に出場。現在はスキンダイビングインストラクターとしてマリンアクティビティツアーやスキンダイビングレッスンを開催。
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