「スノーケリング安全手帳」と安全潜水の課題 2020 JANUARY VOL.31

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スノーケリング安全手帳と安全潜水の課題

近年、スノーケリング中の事故が数多く報告されるようになっています。少しでも事故を減らすためには、どのような取り組みが必要なのでしょうか?(一財)社会スポーツセンターが発行した「スノーケリング安全手帳」の監修を担当された千足耕一先生に、スノーケリングを安全に楽しむための課題についてご講演していただきました。

※本記事はDAN JAPANが発行する会報誌「Alert Diver Monthly」2020年1月号からの転載です。

Profile 千足耕一先生
千足耕一先生の画像
東京海洋大学学術研究院教授専門分野:海洋スポーツ、海洋性レクリエーション。1989年筑波大学体育専門学群卒、2003年学位取得(博士・医学:東邦大学)。日本海洋人間学会、海に学ぶ体験活動協議会等の理事を務める。著書に「海辺の野外教育」(杏林書院)や、「スキンダイビング・セーフティ」(成山堂)他

CHAPTER01 大学の授業での安全管理と教育

マリンアクティビティの授業では安全が最重要

私は東京海洋大学で、スノーケリング、スキンダイビング、スクーバダイビング、さらにその他のマリンアクティビティについて、学生に授業を通して指導しています。これらの活動ではとにかく安全が最重要です。

1年生のときには、千葉の冨浦や坂田でスノーケリングの授業を行います。海藻が豊かで、スノーケリングにとても適した海です。まず、プールでスノーケリングの基本を練習してから、海へ行きます。現地でも浮力体をしっかりつける、小グループに分けて活動するなど、安全には十分配慮しながら活動しています。道具類も使いやすいものを持っていくようにしています。

ほかに、船舶職員を育てる学部の授業では遠泳も行っており、隊列泳で2時間泳ぐことを目標としています。昨今は臨海学校を行わない学校も増えていて、海で泳ぐことに慣れていない学生も多いので、まずはプールでしっかり練習して、少しずつ泳ぐ時間を長くしていきます。また、最近は華奢な学生が多く、長時間海に入っていると低体温になってしまうことがあるので、十分に気をつけています。ほかには、海に放り出されたときの対処法を学ぶシー・サバイバルのトレーニングなども行っています。

沖縄・渡嘉敷島での夏のマリンスポーツ実習

私がメインで行っているのが、夏のマリンスポーツ実習です。これは、沖縄・渡嘉敷島の国立沖縄青少年交流の家でキャンプをしながら、シーカヤックを漕いで無人浜に渡り、スノーケリングやスキンダイビングをするという内容です。とてもきれいな海での実習ということで、学生にとってはインパクトが大きい授業の1つであるようです。

この実習も安全がベースになっています。シーカヤックに乗る前には、乗り降りが一番危険であることをまず教えます。沖で転覆したときには、自分で、またはグループでリカバリーできないと先に進めなかったり、危険が及んだりするので、リカバリーの方法を教えて、それから次のステップに進んでいくようにしています。

この授業は2年生が受講しますが、1年生はスノーケリング、2年生になったらスキンダイビングというように、経験を積みながら潜る練習をしていきます。コンビニもない、トイレもないという環境での実習は不便を感じるかもしれませんが、学生にとってはとてもいい経験になっていると思います。

自分の身は自分で守る意識を持ってもらうことが大事

渡嘉敷島での実習は無人浜で活動するので、万が一何か起きたらすぐに連絡が取れるような体制を作っています。また、実習へ行く前には学生たちに「安全」についての資料を渡して、自覚を持って活動に臨んでもらうようにしています。この資料の冒頭部分の抜粋を紹介します(下図)。

安全についての意識

❶絶対の100%な安全はありません。
どんなに安全だと思っていても、何が起こるかわかりません。我々教員がしっかり安全管理すること、そして学生に安全について教育することが大事です。また、それに加えて学生に「自分自身の健康管理をきちんとしてほしい」と話しています。

❷危険回避能力向上の努力をしましょう。
何が“危険”なのかを知り(知識の獲得)(情報収集)、技能(スキルの向上)や危険への対処方法を獲得することで、対策が考えられるようになります。またスキンダイビングやスノーケリングなどのスキルを、なるべく向上させておいたほうが安全です。

❸自然や海の状況に耳を傾けて、感受性を高めて、控えめに行動しましょう。
若い学生たちはダイナミックで、広範囲に行きたがったり、深く潜りたがったりします。なるべく自然の状況を感じて、無理な行動はしないようにと話しています。

❹危険を共有し、いざという時には協力して、迅速に行動できるようにしましょう。
実習中はグループで情報を共有し協力することは欠かせません。

「管理」と「教育」の実践で安全への意識が高まる

実習を行うにあたっては、「安全管理」と「安全教育」が欠かせません。「安全管理」とは、時間の管理・エリアの制限・グループに分けた活動・適正人数比・浮力体の使用・用具の制限・舟艇や陸上からの監視と支援・実施と中止(基準と判断)など、指導者側がすべきことです。「安全教育」とは、先ほど述べたような、危険を周知・認識する、健康チェックをする、気象情報を調べる・入水・退水申告などです。これらを通して、学生の主体性を高め、自己決定の機会を設けることで、より安全に実習に臨むことができるようになります。また、実習の後に、その日の活動を振り返ることで、「自分の命は自分で守る」という意識が育ってくると思います。
 

CHAPTER02 「スノーケリング安全手帳」とは

スノーケリングとスキンダイビングの違い

マリンアクティビティの中でも人気となっているスノーケリング。では、一般的に、スノーケリングとはどのような活動のことなのでしょうか? スキンダイビングとの違いは? このようなことがわからない方も多いと思います。日本水中科学協会の代表理事・須賀次郎氏、フリーダイビング選手・岡本美鈴氏、東京海洋大学准教授・藤本浩一氏と私の共著「スキンダイビング・セーフティ」という本の中で、スノーケリング、スキンダイビング、フリーダイビングの安全のための定義を紹介しています。

この定義によると、スノーケリングは「浮力体(スノーケリングベストなど)、マスク、スノーケル、フィンを装着し、水面での活動を主とする」となっています。一方、スキンダイビングは、「時間はおよそ1分を超えない範囲で、なおかつ息苦しさを感じない。深さは10mを超えない範囲。原則として2人1組で活動して交互に潜水を行う。水面待機者は潜水者を見ているようにする」と定義されています。

これらの違いを踏まえて、スノーケリングを安全に活動するためにはどのようなことが必要なのか、議論を深めていければと思っています。

海に持っていきやすい小冊子「スノーケリング安全手帳」

私はまず、安全手帳を作成することを考えました。

私の友人で、スキーなどのスノースポーツの安全管理を専門にしている中央大学の布目靖則教授が、実は10年くらい前に、スノースポーツの安全手帳を作っていました。そして「こういうものがあると、非常にいい教材になるよ」と教えていただきました。そこで私もそれにならって、スノーケリングならどんな内容、情報を掲載すべきかを考え、この案をもとに作っていただいたのが「スノーケリング安全手帳」です。持ち歩きやすい蛇腹折り型の小冊子で、22ページの情報により構成されています。

初心者のためのスノーケリング安全手帳の表紙画像

この小冊子を作るにあたって、いろいろな資料を参考にさせていただきました。特に「沖縄マリンレジャーセイフティービューロー(OMSB)」の「シュノーケリング安全マニュアル(2006年)」は、カラーページで構成されていて、危険な生物などもわかりやすく、とてもいいなと思いました。「スノーケリング安全手帳」では、入水前のチェック項目として、13項目を掲載しています。セルフチェックをきちんとすることは、とても大事です。なお、この小冊子を作るにあたり、Oakキャピタル株式会社、株式会社キヌガワ、株式会社タバタ、日本アクアラング株式会社、HEAD Japan 株式会社に多大なるご協力をいただきました。この場を借りて、御礼申し上げます。今、沖縄にはたくさんの外国人観光客が訪れていて、マリンスポーツの事故がいつ起きてもおかしくないほど人が増えています。今後、中国、台湾、欧米などから来た外国人の方にも活用してもらえるように、中国語や英語に翻訳したバージョンも作っていけたらと思っています。必要な方は、社会スポーツセンターまでお問い合わせください。

安全にスノーケリングを楽しむための10箇条

この小冊子を作るにあたって、事故やヒヤリハット事例を集め、これに対応したスノーケラーが実践すべき10箇条をまとめてみました。

❶単独行動はダメ
スノーケリング中は、バディ(仲間)やグループで活動するようにしましょう。何かトラブルが発生したとき、バディが近くにいれば心強いものです。事故の多くは、単独行動しているときに起こります。単独行動は避けましょう。

❷健康状態をチェック
スノーケリング中のトラブルの原因の1つは体調不良です。無理せず、体調不良の際は活動を中止するようにしましょう。

❸服装を整え、浮力を備える
4点セット(マスク、スノーケル、フィン、ウエットスーツまたは、ライフジャケットなどの浮力体)を着用しましょう。肌の露出を少なくし、水面で浮いていられる服装をすることが欠かせません。

❹スノーケルの使い方を身につける
スノーケルクリアができないために水を飲んで、溺水してしまう事例が増えています

❺体温低下に注意する
寒さを感じる前に休憩するようにしましょう。

❻危険な生物について知る
注意したい危険な生物について知っておきましょう。海中の生き物に、むやみに触らない、万が一のために応急処置を学ぶようにしましょう。

❼慌てず落ち着いた行動を
落ち着いて行動することはとても大事です。また技量や健康状態に見合った控えめな行動をするように心がけましょう。

❽ガイドやインストラクターと一緒に行動
自信がないときは、教えてもらうことが大事です。スノーケリング講習会などに参加して、基本的な知識と技術を身につけましょう。

❾安全な水域での活動
波や流れ、水温、透明度などに注意するようにしましょう。海況が悪いときは、絶対海に入らないようにしましょう。

➓天気予報の確認
天気の急変はよくあることです。事前に予報を確認して、天候の変化にも注意するようにしましょう。

スノーケリングの事故を防ぐ今後の課題

中高年スクーバダイバーの事故の増加は、1つの大きな課題だと思います。村田幸雄氏(国際潜水教育科学研究所)が書かれたものからの引用になりますが、事故の原因として、呼吸能力や運動能力の低下、生活習慣病のリスクなどが指摘されています。スノーケリングでも同様なので、中高年の方は健康管理をしっかりすることが大事です。

また、健康状態に嘘を書かない・いきなり水に入らない・のんびり行動をする・潜水本数を制限して、水面休憩は2時間以上とる、といったことも必要になってきます。

今後、多くの方が安全にスノーケリングを楽しんでいただけるように、さらにさまざまな議論を深めていきたいと思っています。

レスキュー対応フローチャート

「スノーケリング安全手帳」には「水辺のレスキュー対応フローチャート」を掲載していますが、こちらは日本赤十字社と日本ライフセービング協会の教本を参考にさせていただき、自分なりに作り直してみました。溺れた人を発見したときに、どのような救助方法の選択があるのかを掲載しました。

水辺のレスキュー対応フローチャートの画像

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Alert Diver表紙の画像

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