約60年の歴史を持つPADIが考える持続可能なダイビングとは。PADI Worldwide CEO兼社長にインタビュー

世界最大級のダイビング教育機関「PADI」。その日本支部であるPADIジャパンは、今年で設立40周年を迎えた。今年1月には、日本各地から集まったPADI 登録店同士の交流、PADI からの情報アップデートと表彰、そして PADI ジャパン設立40周年記念も兼ねたパーティーとして「PADI Japan Fes ソーシャルナイト」が開催された。そこには本社アメリカよりPADI Worldwide CEO兼社長のドリュー・リチャードソン氏(以下、ドリュー氏)の姿もあり、PADI設立当初から現在に至るまでの歴史、そして「人類と海のバランスが取れた共存・共栄を目指す」というビジョンについてのスピーチも披露された。

今回、そこで語られた“人類と海のバランス”という部分について掘り下げるべく、ocean+α編集部はドリュー・リチャードソン氏にインタビューを敢行。ダイビングやダイバーが海洋環境に与える影響について、そしてダイビングやダイバーに期待することなど、ダイバーと海の共存についてPADIの考えを伺ってみた。

「人類と海のバランスが取れた共存・共栄を目指す」ために

編集部(以下、——)

2019年、PADIのブランドメッセージ(ブランドタグライン)を “The Way The World Learns To Dive “から “Seek Adventure. Save the Ocean”となりました。なぜ「Save the Ocean」=海洋環境保護が重要視されるようになったのでしょうか?

ドリュー氏

57年以上にわたり、安全を最優先に考える責任感の強いダイビングインストラクターと、彼らと一緒にスキルを身に付け自信に満ちているダイバーを育成してきた結果として、世界最大かつ最も多様性のあるダイビング教育機関となれたことに感謝しています。

私たちは、多くの先進国や発展途上国において、ダイビング環境の基盤作りを推し進めるとともに、海の神秘を探求するという機会やダイビングツーリズムの発展に寄与してまいりました。とはいえ、ダイバーがただ水中世界を楽しむという存在だけにとどまっていいわけではありません。海が大きな問題に直面していることは明らかであり、ダイバーとなった私たち一人ひとりがこれらの問題に大きく貢献できる自然界の親善大使であると思っています。PADIダイビングインストラクターは、世界180カ国において、多くのダイバーを育成しており、そのダイバーが自分が潜る海を大切にして、海に恩返しをしたいと思うのはとても自然な流れです。PADIでは、「ダイバーがやらなければ、誰がやるのか?」というシンプルな問いかけに基づき、様々な行動を起こしています。

——

PADIの創設者であるジョン・クローニン氏は、PADIは海洋環境を保護する責任があることを常に認識していたとのことですが、57年前と現在では、海洋環境保護に対するPADIの意識や認識はどのように変化しているのでしょうか。また、その変化に伴う取り組みなどは成功していますか?

ドリュー氏

はい、着実に成功していると思います。ただし、今後もさらにできることがたくさんあると考えています。

PADIは当初、スクーバダイビングを始めたい人々、続けたい人々にトレーニングとダイバー認定を受ける機会を提供することに重点を置いていました。ダイバーの安全が第一であることに変わりはなく、ダイバーが安全なダイビングの方法を学べるカリキュラムを開発し、進化させることが、PADIという組織の基盤となっています。

1960年代の初頭には、環境問題や海に対する認識や注目度はあまり高くありませんでした。しかし、汚染、乱獲、気候変動などの環境問題への意識が急速に高まるにつれ、PADIは海洋保護と持続可能性の提唱に積極的な役割を果たすようになりました。PADIがトレーニングプログラムに環境に関する要素を取り入れているのは、これからの海の未来のためにそれが欠かせないからです。海の未来は、私たちの今後の世界の未来でもあるのです。

私たちは、教育・提唱・行動を通して、海洋保護・保全に取り組むPADI AWARE財団の設立をはじめ、海洋環境保護を推進するさまざまなプログラムやイニシアチブを展開しています。その他にも、プラスチックによる海洋汚染問題、サンゴ礁の保全、海洋生物多様性と保護、気候変動など、重要な問題にも取り組んでいます。

また、PADIは、様々な団体やステークホルダーと協力し、その活動の効果を増幅させることにより、ダイビングコミュニティや多くの人々の意識を高めてきています。PADIのコースでは、ダイバー一人ひとりが市民科学者になることができ、そのコースで学んだ内容と手順を基に大規模で有益なデータ収集活動に協力をしています。例えば、PADI AWARE Dive Against Debris®では、大規模な世界中の海洋ゴミの調査実施とデータ報告・収集活動を行っており、研究者がどのようなゴミがどこから来ているのかを特定することができるようになっています。

PADIが取り組んでいる海洋環境保護・保全を推進する活動はとても重要であり、ダイバーや一般の人々の海洋保護・保全に対する認識や教育を高めることに大きく貢献しています。たとえば私は先日、エコノミスト・インパクトが主催する「第10回世界海洋サミット」にPADIとダイビング業界の代表として招待され出席してきました。

このサミットには、学術界、海洋科学界、政府、観光業界、テクノロジー業界、エネルギー業界、金融業界、起業者、銀行業界、NGO、経済界など、世界のトップレベルの専門家や関係者が1500人以上集まり、海の将来について多くの議論を展開しました。こうした場に私たちが呼ばれるということは、世界的な問題に対して、ダイバーが解決策の重要な役割を担っているという認識が高まっていることを示しています。

しかしながら、海洋環境が直面する課題は複雑かつ継続的に発生しているため、取り組まなければいけない課題は山積みです。海洋保護・保全の成功は長期的な視点で初めて評価されるものであるため、海洋生態系に対する脅威に対処し、長期的でその持続可能性を確実にしていくために、私たちのこのような継続的な取り組みが必要になるのです。

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近年、観光が環境破壊につながるオーバーツーリズムが問題視されています。観光のコンテンツのひとつであるダイビングが環境に与える影響についてお聞かせください。

ドリュー氏

私たちは、持続可能で再生可能である観光が今後進めるべき道であると信じています。PADIダイビングインストラクターとダイバーは、環境への影響に配慮し、持続可能な観光に向けて私たち全員ができる最適なことを選択するという意識を高めています。私たちは、国際的に広めている海洋保護のための世界最大の水中環境ネットワーク 「Adopt the Blue (アドプト・ザ・ブルー)」 というプログラムを推進しており、大きな盛り上がりを見せています。

——

PADIの「人類と海のバランスが取れた共存・共栄を目指す」というビジョンを実現するために、私たち一般ダイバーができることは何でしょうか。

ドリュー氏

私たち一人ひとりが、個人として、またダイバーとして、変化をもたらすためにできることはたくさんあると思います。例えば、中性浮力を練習してダイビングスキルを向上させることで、サンゴを蹴ってしまうなどの海の生態系に与えてしまうダメージを軽減させることができます。

他にも参考としてPADIの海洋における5つの行動指針をご覧になってください。オーシャントーチベアラー(海洋保護の志を持つ人)になる、Dive Against Debris®、サメの保護、魚の見分け方、水中写真など、AWAREのスペシャルティ・コースの受講を検討する、地元自治体の政策に影響を与えるために、建設的な海洋への良い変化を求める署名活動に参加する、PADI AWARE財団に寄付をする、保護ボランティア活動に参加する等いろいろとできると思います。

他にも、生活の中において、持続可能な方法で捕獲された魚介類を選んだり、日頃使用しているエネルギーの量を減らす等もあります。正しい情報に基づいた買い方をするなど、日頃の生活の中でも取り入れられることがたくさんあります。

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ダイビングは一度きりの体験ではなく、人生を変えるものだと考えています。PADIは、ダイビングを通じて世界にどのような変化をもたらしていきたいですか?

ドリュー氏

私もそう思いますし、すべての人々がダイビングを通じて、その意味と目的を見出すことができることを願っています。ダイビングは、私たちの生活に変化をもたらし、いろいろな場所へ訪れる絶好の機会になると同時に、建設的で意義のある前向きな社会変化に貢献することを可能にすることが出来るアクティビティだと思っています。私たちは、希望を持って行動する志を同じくする人々とパートナーシップを組み、地球上に10億人のオーシャントーチベアラー(海洋保護の志を持つ人)を集めることを目指しています。

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最後に日本の読者へメッセージをお願いします。

ドリュー氏

海とダイビングは、私たち人間に多くのものを与えてくれて、またこの地球での生活を豊かにしてくれました。また同時に多くの人々が共に力を合わせることができる繋がりを与えてくれているのです。たとえ誰であろうと、そしてどこにいようと、私たちにはできることがあります。一人ひとりの地道な努力の積み重ねが、世界中に大きな良い影響を与えることができるのです。ぜひ、PADIのビジョンに共感していただき、多くの人たちに積極的に行動を起こしていただけることを願っています。いつか、水の中でお会いできることを楽しみにしています!

人間は海から多くのものを与えてもらっているが、中でも特にダイバーは癒しや感動などの恩恵を多大に受けている。これからも美しい海でダイビングができるよう、海の持続可能性が危ぶまれている今こそ、ダイバーだからこそできる海への恩返しを実践していきたいと思う。

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PROFILE
0歳~22歳まで水泳に没頭し、日本選手権入賞や国際大会出場。新卒で電子部品メーカー(広報室)に入社。同時にダイビングも始める。次第に海やダイビングに対しての想いが強くなりすぎたため、2021年にオーシャナに転職。ライターとして、全国各地の海へ取材に行く傍ら、フリーダイビングにゼロから挑戦。1年で日本代表となり世界選手権に出場。現在はスキンダイビングインストラクターとしてマリンアクティビティツアーやスキンダイビングレッスンを開催。
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