エンリッチド・エアとナイトロックスについて知っておきたい基礎知識

ナイトロックスを使うダイバーのイメージ画像

ダイビングに親しんでいれば、一度は耳にするであろう「エンリッチド・エア」と「ナイトロックス」。ネーミングから、普通の空気とは‟なにかが違う”ということはわかっていても、内容についてはそこまで理解されていないかもしれない。今回は「エンリッチド・エアとナイトロックスって結局何なのよ?」という声にお応えし、オーシャナ編集部では独自調査を敢行。双方の基本的な情報から、意外と知られていない(?)事柄についても掘り下げてみた。

エンリッチドエアについて

「エンリッチド・エア」とは、‟酸素の割合が多い空気”のこと。通常のタンクに入っている空気は、酸素21%と窒素約79%の混合気体だが、エンリッチド・エアは、酸素を21%より高い割合で混合しているのが特徴。

また、enrich(エンリッチ)という単語には「(人・国・人生・経験・風味などを)豊かにする、富ませる、向上させる」という意味のほか、「(化学の分野で)複数の成分の混合物において特定の成分の量を増やす」という意味をもつ。ここでは後者が使われていそうだ。

さらに正確に言えば、enriched(エンリッチド)はエンリッチの過去分詞系なので、「特定の成分量を増やされた」という意味で使われているのだろう。

引用:https://eibun.fenecilla.com/enrichenriched/

ナイトロックスとは?何が違うのか

ナイトロックス用のタンクの画像

結論からいえば、酸素の割合の定義が違う。

エンリッチド・エアとナイトロックスの特徴

エンリッチド・エア:酸素を21%以上の割合にして窒素と混合している。
ナイトロックス:酸素と窒素の混合気体すべてを指す(酸素の混合比率は関係ない)

エンリッチド・エアの定義は、酸素を21%より高い割合にした窒素との混合気体。ナイトロックスは、酸素と窒素の混合気体すべてを指すため、ナイトロックスの中にはエンリッチド・エアも含まれる。酸素が21%より多くブレンドされているナイトロックスならば、成分的にはエンリッチド・エアと変わらないことになる。

また、使用場面も異なる。エンリッチド・エアは、一般的にはレクリエーショナルダイビングがメイン。一方でナイトロックスは、混合ガスを使い分けたり、ガスの消費量を細かく計算するテクニカルダイビングの世界でも使用されている。

テクニカルダイビングの認定に定評があるダイビング指導団体「SNSI(Scuba and Nitrox Safety International)」では、オープンウォーターダイバーの講習からナイトロックスのスペシャルティを用意している。受講すれば、ケーブ(洞窟)ダイビングやレック(沈船)ダイビングといった特殊な環境下にも対応したエアの知識を身に着けることができる。

テクニカルダイビングにもチャレンジしたいのであれば、心強いスペシャリティであることは間違いないだろう。ダイビングの幅を広げたい方にもよさそうだ。

ちなみにナイトロックスの語源は、窒素の意味をもつ英語、Nitrogen(ナイトロジェン)と酸素の意味をもつ「Oxygen(オキシジェン)」を組み合わせた造語。テクニカルダイビングの指導団体が使用したのが始まりといわれている。

ダイビングへのメリットは?

ナイトロックスを使うダイバーのイメージ画像
レクリエーショナルダイビングにおいて、「エンリッチド・エア」と「ナイトロックス」を利用するメリットは何だろう。いくつか紹介していこう。

減圧症予防に役立つ

減圧症とは、ダイビング時に必要以上の窒素が体に溶け込んだことで、浮上の際に窒素が抜けきらず、体にさまざまな支障をきたす病気のこと。

窒素の割合が低い「エンリッチド・エア」と「ナイトロックス」を利用すれば、同じ条件下でダイビングした場合と比較しても、体内に残留する窒素量を少なくできるので、減圧症のリスクは低くなる。

一日に複数本潜る予定がある人や、ダイビング後すぐに気圧変化が激しい移動(車での山越えなど。飛行機は安全のため搭乗不可)をしなければならない人にとっては有効だ。

また、窒素がたまりやすい傾向がある人(体の循環がよくない障がいをお持ちの人や高齢の人)にも効果的。

ただし、「エンリッチド・エア」や「ナイトロックス」を使用したからといって、無限減圧時間ギリギリで長く深くダイビングをしてしまってはあまり意味がない。

あくまでも、無理のない潜水計画の範囲内で使用することで、安全性が高まるということを覚えておきたい。

カメラのファインダー越しに生き物を見てもボケない(個人差あり?)

「エンリッチド・エア」と「ナイトロックス」は酸素濃度が高いため、何らかの細胞組織が覚醒するのか、カメラのファインダー越しにマクロ生物をみてもボケないという。これは、個人差はあるかもしれないが老眼や疲れ目の人は試してみる価値あり!?

疲れにくい(個人差あり?)

こちらもカメラの話と一緒で個人差があるようだが、「エンリッチドエア」と「ナイトロックス」を使用した人からよく聞かれる話。人の感覚は意外と侮れないので、何かしらの効果はあるのかもしれない。

デメリットはあるの?

ナイトロックスを使うダイバーのイメージ画像
デメリットになりそうな事項もいくつかご紹介。

空気よりも値段が高め&事前予約が必要な場合もあり

「エンリッチド・エア」と「ナイトロックス」を製造するコンプレッサーの設備が限られた場所にしかなく、設備自体にかかる費用も高額なため、各地のダイビングショップが手に入れるためには、輸送コストと減価償却のための費用が含まれ、空気よりも値段が高い場合が多い。現地ダイビングサービス付近に設備がない場合も考えられるので、事前に使用したい旨を相談しておくのがよい。

「エンリッチド・エア」または「ナイトロックス」専用のダイビング器材が必要な場合がある

ダイビング器材メーカーによっては、仕様書に‟エンリッチド・エア(またはナイトロックス)不可”の旨が書かれている場合もある。使用する際は、器材メーカーの仕様書にそって使用しよう。

酸素中毒予防のため、深度の限界が空気を使用した時よりも浅くなる

「エンリッチド・エア」と「ナイトロックス」は空気に比べて窒素の割合が低いため、同じ深度と時間を潜った場合は、減圧症になりにくいメリットがある一方で、酸素の割合が高くなったことで、酸素中毒が生じる可能性がでてくる。

ダイビングにおける酸素中毒とは、ある深度を超えて酸素を吸うと引き起こされる。症状には、けいれんや視野狭窄、めまい、意識喪失などがあり、最悪の場合は溺死につながることも。

結局、減圧症と酸素中毒の両方にかからないように配慮したダイビングが必要になるということか…。

「エンリッチド・エア」と「ナイトロックス」はどんな時に使えばいいの?

ナイトロックスを使うダイバーのイメージ画像

以上の観点から、「エンリッチド・エア」と「ナイトロックス」を使う場面について考察してみたのでご参考あれ。

「エンリッチド・エア」および「ナイトロックス」を使う場面

・日に複数本のダイビングを楽しみたい時
・連日、複数本のダイビングを楽しみたい時
・ダイビング後に高度差のある移動(車での山越えなど、飛行機は安全のため搭乗不可)
・体の循環がよくない時やその人
・老眼や疲れ目が進んでいるフォトダイバー

「エンリッチド・エア」や「ナイトロックス」を使うには

ダイバーが受けるチェックリストのイメージ画像

いよいよ「エンリッチド・エア」と「ナイトロックス」を使う段階になって、さてどうするかだが、どちらも然るべきコースを受講し、認定されないと使用できないことになっているので注意が必要だ。

まず、「エンリッチド・エア」を使用するには、PADIの「エンリッチド・エア・ダイバー・スペシャルティ・コース」を受講する必要がある。

受講資格は、PADIオープン・ウォーター・ダイバー 以上またはPADIジュニア・オープン・ウォーター・ダイバー以上で、12歳以上。

次に、「ナイトロックス」を使用したい場合だが、SNSI公認スクールにて「レクリエーショナルナイトロックス・ダイバーコース」を受講する必要がある。

受講資格は、SNSIオープンウォーターダイバー認定または承認された指導団体から同等の認定を受けている状態で、年齢は16歳以上。

自分のダイビングスタイルに応じて、「エンリッチド・エア」もしくは「ナイトロックス」という選択肢を選べるようにしておくのがいいかもしれない。

PADI公認ダイビングスクール:https://www.padi.co.jp/scuba-diving/dive-shop-locator/
SNSI公認ダイビングスクール:www.scubasnsi.com

参考:
エンリッチド・エア・ダイバー・スペシャルティ・コース
もっと知りたいエンリッチド・エア

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