未知の深海4,000mで発見された4,000体の生きものたち

水深40mでも十分に“深い”と感じるダイバーにとって、水深4,000mは想像すら及ばない世界だ。その深海で、4,000体を超える生物が発見され、しかも88%が新種だったという。今回の発見は、深海採鉱の影響を調べる調査の過程で明らかになったものだ。人類がまだほとんど知らない「深海のリアル」が、少しだけ姿を現した。

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新種発見のきっかけは、深海採鉱の実態調査

調査が行われたのは、メキシコとハワイの間に広がるクラリオン・クリッパートン断裂帯。水深は約4,000m。太陽光も届かず、ダイバーはおろかROVでも簡単には到達できない深海域だ。欧州の海洋生物学者チームは、深海採鉱企業「The Metals Company」と協力し、5年にわたる調査を実施。

この調査の出発点は、深海採鉱技術が海洋環境にどのような影響を与えるのかを評価すること。 深海採鉱とは、水深数千mの海底から、リチウム、コバルト、ニッケルといった重要鉱物を採取する技術だ。これらは太陽光パネルや風力発電設備、電気自動車など、再生可能エネルギーを支える中核的な資源でもある。

一方で、これらの鉱物は希少性が高く、常に供給不足の状態が続いている。そのため各国や企業、投資家など多くの利害関係者が、これまでほとんど調査されてこなかった深海域に新たな資源の可能性を求め始めている。

しかし問題は、その代償がどれほど大きいのか、まだ誰にも分かっていないという点だ。深海採鉱が生態系に与える影響については、十分なデータが揃っておらず、評価は途上にある。こうした状況を踏まえ、国際水域での人間活動を監督する国際海底機構(ISA)は、これまで商業目的の深海採鉱を一件も承認していない。

深海採鉱の調査での予想外の発見

調査の過程で、発見されたのが4,350個体の深海生物だ。その種は約800、そのうち88%が新種だった。具体的には、剛毛を持つゴカイ、骨のような姿のウミグモ、小さなカタツムリ、ムール貝の仲間など。

調査中に発見されたウミグモ(写真:University of Gothenburg)

調査中に発見されたウミグモ(写真:University of Gothenburg)

深海採鉱が削る“生きものの層”

一方で、深海採鉱の影響もはっきりと示された。採鉱車両の走行後、生物の個体数は37%減少、種の多様性は32%減少した。原因は、車両が海底を通過する際に約5cmの堆積物を削り取ること。このわずかな層こそ、多くの深海生物が暮らす場所だった。

今回の研究は、深海採鉱の是非を即断するものではない。ただひとつ確かなのは、人類はまだ深海をほとんど理解していないという事実だ。ダイバーが日常的に潜る海のさらにその下に、名前すら与えられていない生命が無数に存在している。その現実を知ること自体が、海と向き合う第一歩なのかもしれない。

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