2026年は午年! “馬”にちなんだ名をもつ海の生き物18
早いもので令和7年もそろそろ終わり。来年は令和8年、干支は午(馬)。というわけで、今回は馬、または馬と関係がある名をもつ海洋生物を一挙に紹介いたします。
馬と日本人~その過去と現在
日本在来馬は8品種
日本人に馴染み深い馬ですが、日本にはもともと馬はいなかったそうです。最初の馬は4世紀末頃、朝鮮半島経由でモンゴルから伝来したといわれています。
その後、馬は農耕の手伝いや物資輸送、交通手段として、日本人の生活になくてはならない存在でした。江戸時代までは馬の名産地が日本各地にありましたが、近代化とともに馬が活躍する場は激減していきました。現在残っている日本の在来馬は8品種のみで、いずれも人の手による保護が必要な状況だそうです。
信仰や神事に登場する馬

お寺や神社に奉納する絵馬。なぜ絵「馬」か?
古来、馬は神様や貴人が乗る高貴な生き物と考えられてきました。そのため、神への祈願に神馬として「生きた馬」を奉納する祭事があったようです。やがて本物の馬ではなく、馬をかたどった焼き物や木彫りの馬が奉納されるようになり、さらに馬の形をした板、板に馬の絵を描いたものへと変化し、今に残る絵馬に繋がっているそうです。
最近はデザインもいろいろで、必ずしも馬の絵ではないケースも多くなりましたが、「絵馬」という名が消えることはないでしょう。
「馬」と名がつく海洋生物
ここからが本題。馬にちなんだ海洋生物を紹介していきましょう。まずはズバリ「馬」、または“Horse”と付く生き物たちです。
①オオウミウマ

20cmにもなるオオウミウマは、タツノオトシゴの仲間の中で最大級の種類。太く長い吻をもち、体色は黄や茶、黒などいろいろ。インド-西太平洋に分布し、伊豆半島などでも見られる。クロウミウマという種類もいる
②シーホース(タツノオトシゴの仲間)

英語圏ではタツノオトシゴの仲間のことをSea horseという。画像は“ピグミーシーホース”と総称される指先サイズのタツノオトシゴで、暖海のやや深場で見られるヤギ類の上で暮らす。標準和名はコダマタツ
③パイプホース(タツノイトコなど)

ヨウジウオ(Pipefish)のような細長い体に、タツノオトシゴのようにものに巻き付けられる尾をもつ魚を、英語圏ではPipehorseという。日本には南日本でも見られるタツノイトコ、熱帯性のタツノハトコなどがいる。なお、ヨウジウオは尾でものにつかまることはできない
④シーロビン(ホウボウ)

ホウボウのことを英語圏ではSearobinと呼ぶことがある。ロビンはコマドリ(駒鳥)で、英名はホウボウの大きな胸ビレが鳥の翼に見えること、和名は鳴き声が馬(駒)のいななきに聞こえることが由来といわれている。ホウボウは浮袋でグーグーという音を出す。
馬の「一部」が名前につくケース
馬といえば、細長い馬面、長い首になびくタテガミが特徴的ですね。「タテガミ」とつく魚を探したところ、「後頭部」のあたりに皮弁をもつイソギンポ科のタテガミカエルウオ属とタテガミギンポ属がありました。同じタテガミでも皮弁の「生え方」が異なり、前者は後頭部を横断する皮弁で、後者は正中線上に皮弁が並びます。イメージとして、タテガミカエルウオ属はライオン、タテガミギンポ属は馬といったところでしょうか。まぁ、どちらもそんなにフサフサではないようですが。
さて、ここからは馬面に関する名前がついた生き物を紹介していきましょう。
⑤ウマヅラアジ

頭部から吻(口元)にかけて急傾斜しており、馬面に見えることから和名がついた。写真は幼魚なので四角い体形だが、成長につれて体が長く伸びヒレは短くなる。インド-西太平洋の暖海に分布する
⑥ウマヅラハギ

こちらも顔が長いことから和名が付いた。北海道から九州の内湾環境でよく見られ、大きさ20~30cm。カワハギの仲間で、上品な白身。刺身や汁物、煮物、揚げ物、焼き物などで食される。肝も美味
⑦ホースヘッド・タイルフィッシュ(アマダイの仲間)

水深30~100mというやや深い砂泥地に生息するアマダイの仲間は、英語圏ではHorsehead tilefishと呼ばれている。細長い体が馬の頭に見えるのだろうか。漢字は「甘鯛」で、関西方面ではグジと呼ばれる高級食材
⑧ホースアイ・ジャック(ギンガメアジの仲間)

画像はカリブ海でよく見られるギンガメアジの仲間で、Horse eye jackと呼ばれている。大きさ60~70cmほどになり、尾ビレが黄色いことが特徴。クリクリした大きな目は、ギンガメアジの仲間に共通する
意外と人気の「馬蹄」由来
馬蹄は馬のひづめを守るために装着するもののことで、特に金属製の馬蹄を蹄鉄と呼びます。馬のひづめの形に合わせたU字型は、その凹部分に幸運を溜めるとされラッキーアイテムとして知られています。
なお、英語圏では蹄鉄のことをホースシュー(Horseshoe/馬のくつ)といいます。

蹄鉄が装着された馬のひづめ

蹄鉄はU字型をしている
⑨ホースシュー・ホークフィッシュ(メガネゴンベ)

目の周囲の模様から和名ではメガネゴンベ。英語圏では一般にArc-eye hawkfish(弧状の目のゴンベ)だが、U字模様からHorseshoe hawkfishと呼ばれることも。インド-西太平洋に分布し、沖縄などで普通
⑩ホースシュー・レザージャケット(カワハギの仲間)

オーストラリア南部に生息する、派手な模様のカワハギの仲間。大きさ30~40cmとなり、活発に泳ぎ回る大型魚。体側にある細いU字模様が英名の由来で、なんとなく馬に蹴られた痕のようにも見える
⑪ホースシュー・クラブ(カブトガニ)

和名はカブトガニで、英名と同じく体形が由来。日本人は兜を、英語圏の人は蹄鉄を連想したのだろう。
なお、カブトガニは名前に「カニ」とあり、節足動物であるところは同じだがエビ・カニ類(十脚類)とはかなり縁遠い。剣尾類というグループに分類され、強いていえばサソリやクモなどに近い。約2億年前に地球上に現れ、現代に至るまでほとんど姿が変わっていないことから「生きている化石」の異名あり。広い干潟や砂浜がある穏やかな浅海に生息し、世界に4種。日本も瀬戸内海や北九州に分布している
これも馬にちなんだ名前です
⑫バフンウニ

バフンは漢字で「馬糞」。ひどい名前だが、バフンウニは食べると美味なことが知られている。東北から九州にかけての日本沿岸で普通に見られ、大きさは2~4cmほど。東北から北海道にかけては、サイズがバフンウニの倍にもなるというエゾバフンウニが生息
⑬マテガイ

細長い二枚貝の仲間。一般に「馬刀貝」の字が充てられ、中国の馬刀(マータオ)という刀剣に形が似ていることが由来とされる(諸説あり)。日本各地の干潟に複数種が生息しており、干潮時にマテガイが潜入した跡に塩を入れ、飛び出してきたところを採る。
⑭クラカケチョウチョウウオ

「鞍掛」とは鞍をかけておく台や腰掛けのこと。クラカケチョウチョウウオの場合、目の周囲の黒い模様がだらりと下げられた鞍に見えたのかも。西部太平洋の熱帯域に生息し、英名のひとつにパンダ・バタフライフィッシュがある。
「クラカケ」は日本の魚類界では人気のネーミングのようで、他にもクラカケウツボやクラカケエビス、クラカケザメにクラカケトラギス、クラカケベラ、クラカケモンガラなど10種以上もいる
馬の「親戚」の名をもつ魚
⑮ゼブラウツボ

独特の模様からゼブラ(Zebra/シマウマ)の名がついた。インド-太平洋の暖海に生息し、日本でも八丈島や沖縄でまれに見られる。また、ゼブラアナゴというガーデンイールの仲間やゼブラハゼという魚もいる。
⑯ユニコーン・フィッシュ(テングハギの仲間)

テングハギの仲間の中には角状の突起をもつ種類がいるため、英語圏ではひたいに長い角をもつ馬に似た伝説の一角獣(Unicorn)にたとえられている。画像はインド-太平洋の暖海で見られるツマリテングハギ。
おいしい「お馬」さんたち
今回紹介した中には、食べて美味しい種類がけっこうありました。例えば、ホウボウにウマヅラハギ、アマダイ、バフンウニにマテガイ。ウマヅラアジやホースアイジャックも、もちろん食用となります。
というわけで、最後に馬関連の名をもつ美味な2種を紹介して締めとさせていただきます。
⑰ケガニ

高級食材代表、ケガニ。和名にも「毛」と入っているが、英語圏ではホースヘア・クラブ(Horsehair crab)と特定の動物に限定している。馬の毛に似た剛毛が生えていることが由来。
⑱バテイラ

庶民の代表は、漢字で「馬蹄螺」と書く巻貝。北海道から九州まで各地の磯で普通に見られ、塩茹でや味噌汁などにして美味。よく似た種類が多く、総称して「しったか(尻高)」として販売されている
古くから人と関わりの深い馬。日本にも英語圏の国にも、馬にちなんだ名前がたくさんあるものですね。2026年のダイビングでは、何種類くらい「馬の名をもつ海の生き物」と会えるでしょう。楽しみです!


