津波警報発令! そのときダイバーはどう行動すべきか? 〜ダイビング中の津波・公開検証会〜
昨日2012年5月17日(木)、西伊豆の井田海岸で、
「津波が起きた時にダイバーは?公開検証会」が開催された。
■主催:駿河遠州スポーツダイバーズ協議会
■共催:静岡県ダイバーズ協議会
■協力:井田ダイビング部会、株式会社ZERO
およそ20名の参加者のほか、東京新聞、読売新聞、
月刊ダイバーとメディアも多数集まった。
実施責任者の駿河遠州スポーツダイバーズ協議会事務局長の我妻亨さんは、
「起きた事故に対する対策ももちろん大事ですが、
それ以上に、トラブルを発生させないことを先に考えることが大事です。
ましてやここ静岡県では東海地震が予測され、
東北地方での教訓もありますから」と検証会の意義を述べる。
※
9時ブリーフィング。
現場統括の「井田ダイビングセンター」の西森猛志さんより、
検討会の目的やスケジュール、注意点などが伝えられる。
(検討会の目的)
■避難が必要な津波が発生した時の非難行動の確認
■助かる方法を見つけるのではなく、まずはデータ収集
■水中津波警報機の実用性の検討
■それぞれの対応の検証
■ディスカッション形式による避難行動の検討
水中警報装置を開発したZEROのブース
震災後、各地の海から「水中で津波を知る手段はないか?」という声を多く聞いていたゼロは、
水中スピーカーのノウハウを生かして、水中警報装置を開発。
「海とダイバーの距離感を再び近づけるために」と各地で積極的に
今回のようにモニターできる機会を作っている。
ゼロの皆さん。
午前中は水中警報装置の音の伝達範囲の確認や緊急避難行動の確認。
音の伝達範囲の確認のため、5m、10m、15mの3グループに分かれる。
グループごとにいざ海へ!
陸上からの電波を受信するため、水面のブイを設置装置。
陸上から受け取った警報信号は、水中につるされたスピーカーを通じて、
警報音として水中のダイバーに鳴り響くシステム。
半径500m、静かな海では1000mまで音が確認されるという。
ダイバーは各水深に待機。警報音の確認をする。
10時。水中に警報音が鳴り響く。
音は東日本大震災後、陸上の地震速報音として広く認知されるようになった、
あの「ピロポロン!ピロポロン!」の警報音。
■この音です
http://www.youtube.com/watch?v=X8g3m2FCQrY
いろいろな音が検討されたが、
水中でも陸上と変わらず聞こえ、広く認知されていることから
やはりこの警報音が最適とされ、採用されたとのこと。
音が聞こえやすいように耳の部分を薄くしたゼロのフード。
警報音が聞こえたダイバーたちは一斉にエグジットへ。
水面を泳いで陸上まで急ぐ。
1本目はここで終了。グループごとに主に音についての確認や
陸上まで避難行動の時間や手順などについてディスカッション。
※
休憩を挟んで、今度は主に警報音を聞いてから避難所までの行動についての検証。
警報音が鳴ると、ダイバーたちは一斉に避難行動開始。
まずは急いで陸上へ。
ビーチから防波堤を越え、高台へ急ぐ。
同時に水門も閉められる。
避難場所となる広場までとにかく走る。
避難場所に到着したときは、みな汗だく。
警報が鳴ってから、エグジットし、広場まで走っていくのは、
陸上から避難する以上の大変さがある。
※
お昼をはさんで、午後は検証を踏まえたうえでフリーディスカッション。
■音の検証
ダイビング後、「すごく聞こえた!」との声が相次いだように、
警報装置の音はすべての水深で問題なく聞こえるという検証結果。
自分自身、30mまで行ってみたが、「よく聞こえる」という印象。
ただ、警報装置から200m離れたダイバーからは「聞こえるには聞こえたが、注意が必要かも」
との声も。透明度や海況によっても聞こえ方は異なるようだ。
その他の音も試されたが、やはりピロポロン!音が一番聞こえるとの声が多かった。
しかし、「関西の人にとってはそこまで一般的な音ではない」
「この音が水中で聞こえたら焦るかも」なんて声も。
また、水中で会話できる「ダイブトーク」は、
「何を喋っているか注意しないとわからず、緊急時には役に立たないかも」との声が多く聞かれた。
ちなみに、今回参加の、ろう者でインストラクターの西村美和子さんによると、
ピロポロン!音は3mの中層だと「体感できた」とのこと。
■時間の検証
各グループから浮上まで、岸まで、避難所までの時間が発表される。
・5m班 :浮上まで1分14秒、浮上から岸まで2分25秒、水中から避難所までトータルで6〜9分
・10m班:浮上まで1分58秒、岸まで2分54秒、水中から避難所までトータル6〜7分
・15m班:浮上まで2〜3分、水中から避難所までトータル8〜9分
井田における、およその行動時間の把握、実際に避難した実感を通じて、
「思ったより大変だった」「初動が遅い」「もっと時間短縮できる」など多くの意見が飛び交った。
■避難方法の検証
避難方法については、「器材は水面で捨てるべき」「避難経路をわかりやすく表示しておくべき」
などの意見のほか、「陸へ行くべきか、沖へ行くべきか」というテーマにも焦点があてられ、
どちらがいいと思う?の問いに、参加者は沖11人、陸14人という答え。
あらためて、答えのない津波避難の難しさを実感させらるテーマとなった。
※
フリーディスカッションの後は、当時、南三陸町のダイビングショップ
「グラントスカルピン」のスタッフだった金子剣一郎さん(現「潜水本舗 海族」代表)より、
震災、津波の生々しい様子が語られた。
皆、食い入るように耳を傾け、
「自然の前兆はあったのか?(まったく根拠のないことだが、例年に比べてダンゴウオが少なかった、との答)」
「何が一番助かったか?(やはり食料。備蓄の重要性、との答え)」
「ボランティアが来て迷惑なことは?(迷惑なことは一切ない、との答え)」といった質問も相次いだが、
我妻さんの「伊豆も孤立するおそれのある場所。得るべきことがある」との言葉も印象的だった。
※
検証会を通じて、みなの共通意見は、特に3.11の津波を想定すると、
「必ず助かり避難方法の正解はない」ということ。
逆に言えば、検証会では「絶対の正解などない」ということを実感できただけでも意義があるのかもしれない。
我々にできることは、「その海で、最善と思われる方法を決め、忠実に迷いなく行動すること」。
そして、「最善と思われる方法の根拠を積み上げる努力をすること」しかない。
そういう意味では、根拠の積み上げとなるデータ収集や体験ができる
こうした検証会はとても貴重なものといえる。
また、「判断の早さが助かる可能性を広げると思います。
普段から、シミュレーションしておくことが大事で、そういう場としてやって良かった」と西森さんは言う。
今後は、今回の検証会で得た自分たちの行動データをもとに、
あちら側の事情、つまり地震や津波の科学的なデータという視点を入れての検証が重要だろう。
例えば、東海地震では地震から5分以内で津波が到達するというデータもあったりするが、
「では、5分以内にできることはどこまでか?」といった検証ややたらに避難にしていても仕方ないので
「マグニチュードと震源の深さによる基準を作っては?」など、
これらはただの例に過ぎないが、こちら側(ダイバー)とあちら側(地震や津波)の事情を
あわせて考えると、より根拠あるガイドラインが作れるはずだ。
新聞記者が「もし避難して何も起こらなかったときの責任問題はどうするのか?」といった
いかにも大マスコミらしい意見を言っていたが、そうした視点を検討してみるのもありだろう。
いずれにせよ、最善の方法とは、各エリアによって事情が異なるので、
各エリアでの検証が必要。
この日も大瀬崎や雲見などほかのエリアからも視察を兼ねた参加があり、
今後、こうした動きが波及することを願いたい。
最後に、別の角度からこの検証会を考えたとき、
安全活動に真剣に取り組むエリアは、津波だけでなく、一時が万事、
レスキュー体制もしっかりと考えられている。
ダイバーとしては、こうしたエリアとして真剣に安全体制を考える海を応援することが、
ひいては自分たちの安全を守ることになるのだろう。