初めて乗る現地ボートとの信頼関係の築き方。2013トンガホエールスイム3日目

トンガホエールスイム(撮影:越智隆治)

3日目、僕は今回初めて乗るDP(ドルフィンパシフィックダイビング)というボート、寺山君は僕が何度も乗ったことがあるWWV(ホエールウォッチババウ)というボートで海に出る。

天気は良いが昨日より南東からの風が強く吹いていたので、ここ最近クジラが出ているという情報は無いのだけど、風を避けてノースベイに行くことにした。

トンガホエールスイムの船(撮影:越智隆治)

ノースベイは東側が高い崖に覆われていて、広い湾口は北西に向いている。
だから、この時期よく吹く南西から西方面の風には強い。

船の形状からして、DPの船はドライエリアが無いので、風を受けると激しく水しぶきを受けるので、捜索し辛くなる。
WWVは南西側に向かったのもあり、いちかばちかで、ノースベイに向かった。

昨日も何隻かのボートがこちらを捜索に来て、クジラがいなかったこともあり、僕ら以外には、トレジャーアイランドという離島のリゾートのゲストを乗せた、小さなアウトリガーボートが一隻来ているだけだった。

しかし、すぐにこちらのスキッパーがブローを発見した。
ゆっくり広い湾口をさらに北へとボートを動かす。
僕もブローを確認していた。
だが、スキッパーは僕が「この辺」と思っていたエリアよりも、さらに北にボートを移動させていく。

(行き過ぎじゃない?)
と思ったが、黙ったまま、皆が前方を探し続ける中、一人、後方を向いて、周囲を見渡していると、500m程後方でブローが2つ上がる。

(やっぱり行き過ぎだ)
そう思いつつ「ブロー!後ろ!」と伝えて、ボートの向きを変えさえた。
しかし、スキッパーもガイドも他のゲストも誰も確認できていないので、皆半信半疑。
自分には確信があったので、とにかく、ボートを進めて、自分がオッケーという位置で止めてと伝える。

その位置に来るまでにもう一度ブローが上がればよかったのだけど、自分がここだと判断した位置に来てもブローは上がらなかった。
こういう時は、少し不安になる。

しかし、その直後、すぐ真横でブローが上がった。
「ビンゴ!」と小声でスキッパーに笑いながら伝えた。

WWVのボートには過去に何回も乗船しているので、自分がトンガのホーエルスイムのガイドとして10年以上海に入っている経験を認めてくれている。
しかし、DPのスタッフと働くのは今回が初めての事。
なので、ガイドをやるに当たって、どれだけの経験と知識、勘があるかを少しずつ認めてもらう必要がある。

2日間で何度も彼等より先にクジラを探し、潜ったクジラの捜索をするうちに、彼等もこちらを信頼して、何をするにしても、確認・相談してくれるようになってきたし、こちらの意見や指示にも、スムーズに従ってくれるようになった。

頭ごなしに「ああしろ、こうしろ」と指示を出すよりも、こうした信頼関係を築くことで目的の生物を見れる確率が上がるのは、どこの海でも同じだ。

ブローは、大人のペアだった。
しかも、潜ってから浮上までにかなり時間がかかる。

一度浮上し、潜行したポイントにボートを寄せてもらい、僕がチェックしてクジラが底で留まって休んでいるかどうかを確認した。

1回目、チェックに入ったが、クジラたちはすぐに離れたところで浮上した。
ボートに戻り、再度潜行した場所に移動してチェック。
最後のフットプリントから、少し離れた地点、水深30m〜40m付近に留まる2頭のクジラを発見した。

トンガホエールスイム(撮影:越智隆治)

腕を上げ、皆を呼ぶ。
クジラたちが休息する地点の水面で、次の浮上を待つ。

一頭は、背中を上にして、水平に。
もう一頭は、顔を上、テールを下にして垂直にして休んでいた。

15分程水面で待つと、水平に休んでいた方が浮上を始めた。
一頭だけが一度浮上し、まだ垂直に休息している1頭の方に潜行して潜って行く。
そのタイミングでもう一頭が浮上を開始し、2頭で移動しながら離れて浮上した。

トンガホエールスイム(撮影:越智隆治)

つまり、最初に確認したときに、その場にクジラがいなかったのは、それと同じように、1頭が先に浮上してもう1頭のところに戻り、次に一緒に浮上して、再度潜行。
そういうパターンを繰り返していたからだ。

そのパターンが分かれば、一度目の浮上は無視して、2度目の浮上の後にチェックをすれば、見つかるはずだ。
少し時間はかかるけど、それで再度のエントリーにトライしようとした。

クジラたちが合流して始まったヒートラン

しかし、少し前に3つのブローがさらに北に上がっているのを確認していたのだけど、その3頭が直後にこのペアと合流してヒートランが始まってしまった。

ゆっくり止まっているのを見るのを諦めて、ヒートランを追跡。
激しく移動する5頭の群れに何度かエントリーしてみるが、先頭のメスがボートの接近を嫌がり、すぐに方向を変えたり、僕らがエントリーすると急潜行するので、撮影できる距離で見れるということは無かった。

あまり見れる感じでもなく、荒れている沖へと移動していくので、追跡を諦めて島影でランチを取り、風の強い南東エリアに向かう。

他のボートも無線で連絡を取るが、まったくクジラが見つからないらしい。
唯一1頭で休んでいるクジラが見れるというので、すでに4〜5隻のボートがそこの順番待ちをしていた。

WWVの寺山君にも携帯で連絡を取ってみたが、シンガーに一度入れただけで、後は見つかっていないという。

結局、午後はまともにクジラに遭遇することなく終了。
ババウに初めてきた人もいるので、クジラが見れなかったときに訪れる、スワローズケーブで泳ぎ、帰路についた。

トンガホエールスイム(撮影:越智隆治)
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PROFILE
慶応大学文学部人間関係学科卒業。
産経新聞写真報道局(同紙潜水取材班に所属)を経てフリーのフォトグラファー&ライターに。
以降、南の島や暖かい海などを中心に、自然環境をテーマに取材を続けている。
与那国島の海底遺跡、バハマ・ビミニ島の海に沈むアトランティス・ロード、核実験でビキニ環礁に沈められた戦艦長門、南オーストラリア でのホオジロザメ取材などの水中取材経験もある。
ダイビング経験本数5500本以上。
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