私をダイブへ連れてって ~石垣島ヒッチダイビング・ドキュメント~
これは、出張中にダイビングを我慢できなかった男の物語である……。
ダイビングをしない予定の八重山旅
が……たまらん! 潜っちゃおっと!
久しぶりの八重山だというのに、ダイバーには夢のような沖縄、宮古島、石垣島のアイランドホッピングだというのに、予定はまさかのノーダイビング……。
ダイビングのお仕事ではあるものの、陸のみのスケジュール。
まあ、仕事だからと割り切り、宮古島の会議室がある平良港から鈍色の海を眺めつつ、その先にある紺碧の海に思いを馳せるのでした……。
24時間も滞在しなかった宮古島を後にして、お次は石垣島へ。会議室のある離島桟橋ターミナルでは、具志堅さんと一緒に、楽し気にフェリーに乗り込む人たちを見送り、ちぎれた綿あめのような雲がいくつも浮んでいる群青色の夏空を見上げながら大きくため息。
亜熱帯の湿気で、立っているだけで体にへばりつくYシャツを指ではがしながら、「潜らない八重山って初めてかも……」と独りごちると、「ちょっちゅね」と具志堅さんがちょっちゅ励ましてくれた気がした。
夜、こんがりダイビング焼けした、ダイバーやガイドさんと食事をしていると、「白っ! 石垣島に来て潜らないなんて、ダイバーじゃない」と言われまくり。さらに、昔、水中でアホなことを一緒にやった「MOSS DIVERS」の森君に、「昔の和尚(かつてのあだ名)なら、こんな時潜ったと思うけどねー。真面目になっちゃったなー」なんてあおられ、さらに、同席のダイバーの方から「今日の海です」とスカテンの気持ちいい写真を見せられて、ついに我慢の限界!
「明日、絶対潜る! 決めた! コノヤロー!」
急きょ、会議予定を“現場視察”に変えようと決意したものの、すでに23時。こんな時間に予約の電話はできない。う~ん、どうしようかと悩んだ末、よし、ヒッチハイクならぬ、“ヒッチダイブ”をしよう!
「7:30に八重山郵便局に立っているから拾って」とFacebookで懇願しつつ、朝いなかったら、8:00ごろ730交差点で立っていればきっと誰か拾ってくれるはず! とざっくり過ぎるプランを立て就寝したのでした。
早朝のヒッチダイビング
お願い、誰か拾って……
遠足前の子供のように、なかなか寝付けず、そして寝ても早くに目が覚めてしまったので、はやる気持ちをおさえながら7:00にはスタンバイ。
「こんな繁忙期に!」「もっと早く言ってよ! 寝てたし」といった内容のメッセージを次々にいただきつつ、車は来ない。というか、この時間、そもそも車があまり走っていない……。
たった15分で心が折れそうになっていると、1台のダイビングショップらしきバンらが近づいてくるではないですか! 焼けたお兄さんが、じっとこちらを見ている。
おお! 思わず、手を上げて、ニコニコとノートをかざしながら近づいていくと、お兄さんは怪訝そうな顔をして速度を速めて行ってしまった……。単に怪しんでいたようで、まったく関係ない車だったようだ。怖かったに違いない……。
その後、車の中からニヤニヤしながら写メを撮る、ひやかしのダイバーらしき人の車が目の前を1台過ぎだのみで、7:30過ぎても車の往来があまりない。「仕方ない。交差点の方へ行ってみようかな」と思ったその時!
き、来た~~~~!
ストリートマリンクラブ石垣島というダイビングショップのバンが目の前に止まり、「覚えてますか~? ガチでやっているんですね、これ(笑)」と運転席から降りてきたのは、シンさんこと倉嶋新一さん。ということで、ダイビングに連れていってもらえることになった(ホッ)。
それにしても、シンさん、確かにどこかでお会いしたことは覚えているが、はて、どなただったろうか……。
謎のガイド・シンさん
話せば話すほど謎が深まる
「マリングでお会いした……」と聞いて初めて会った時の話を思いだす。たしか、西伊豆のショップで働いていて、その数年後に石垣島の食堂でばったり。「今、石垣島でダイビングショップやっているんですよ」と少し言葉を交わした記憶があるが、傍らの、二回りくらい歳が離れた可愛い女性の方が印象に残っている。
年齢不詳で人懐っこく、阿部寛に似ている謎のガイド。
拾ってくれたのが、そんな興味深いキャラだったので、早速、謎を解明すべく、車の中で取材開始。「45歳くらいでしたっけ?」なんて話から始めると、まさかの51歳! 海の男は若く見えるというが、それにしても50歳には見えない。
「ガイド歴は長いんですか?」「いや、ダイビング自体、始めたのが40を超えてからで。最初は嫌で嫌で……」「え!」
「西伊豆にも住んでいたんですか?」「いえ、新宿の歌舞伎町に住んでいて通っていました」「え!」
「お子さん、いらっしゃるんですか?」「本当の娘はもう21歳で、東京にいましてね……云々」「本当の……」
謎は深まるばかりだ。
結局、丸一日ご一緒してわかったことは、元レーサーで、職業柄「早く死ぬものだとばかり思っていた」という人生観の中で生きてきたことと、女性にも男性にもモテるだろうなという人柄と、行動力があって生きる力が強い人だなという印象と、その他、半分くらいは書けないということだ(笑)。
人柄を例えるなら、一緒にジャングル探検に行ったとして、文明とのファーストコンタクトに驚いた裸族にシンさんだけ捕まったとしよう。逃げた僕らは何とかシンさんを助けようと準備をし、1年後に再びジャングルを訪れる。警戒しながらジャングルを奥へと進むと、ガサガサと草木が擦れる音が! 音の方へ視線と武器を向けて固唾を飲んで見つめると、草木の間から出てきたのは、裸族と同じ格好をしたシンさん。
「やあやあ、テラさん、久しぶり久しぶり。このコテカ(ちんこケース)いいでしょ?」とすっかり裸族に馴染み、何なら、傍らには酋長の娘が妊娠して立っている。そんなイメージだ。どんなイメージだ。
しがらみの多い沖縄離島で、50近くから自分の船を持ってダイビングショップをやるというのは簡単なことではないが、「やあやあ」と人懐っこい笑顔で、シンさんなら馴染んでしまいそうな気がする。だからこそ、ポップにヒッチダイングで拾ってくれたのだろう。
ダイビングは出会いだ!
男4人、竹富ダイビング
車を降り、「どの船ですか?」と港に係留する船を見渡していると、「そっちじゃなくて、こっちです」と案内されたのは、港を囲む大きなフェンスの外側。
「え? こっちですか!?」
デーンと港内に横付けされた地元の船を横目に、限られた港、ましてや新参者には厳しい現実を目の当たりにした。しかし、「いや~係留できてラッキーラッキー」というポジティブなシンさんといると、この環境も何だか楽しく、ダイバーとしても特に不自由はない。
ゲストは、自分の他に、Cカード取得後初ファンダイビングのトミーと常連のいっ君。船上は男だらけ4人。これがまたいい。いざ、竹富島へ。
港から出ですぐの浅瀬は、見渡す限りのエメラルドグリーン。水平線で重なる、空の群青色とのコントラストが美しい。陸では鬱陶しかった湿気も、船がスピードを上げると、南国の感触を肌に沁み込ませてくれる存在となり心地いい。身も体も開放されていく、ダイビング前の幸せのアイドリングタイム。
これだよ、これ。八重山、石垣島ってこれだよ!
シンさん1人で切り盛りしていることもあり、基本的には、ダイビングポイントは南部の港から10~20分ほどの近場、竹富島周辺。ダイビングにストイックなダイバーのリクエストには応じづらい環境だが、取材(仕事)では攻めたいけど、遊びだとまったりしたい自分にとっては、石垣島らしい海にのんびりつかれれば十分。また、ファンダイビング1本目のトミー、シンさんと遊びたい常連のいっ君にとってもベストだろう。
リラックスムードのこういうダイビングは久しぶりなので、とにかく楽しい。
「バツ2つなんですよ」「私はまだ1つです」「僕なんか、この歳でまっさらなんですよ」「DNA残しています?」などなど、男4人でキャピキャピとおっさんトークに花が咲く。
偶然一緒になったゲストたちも話を聞くとなんだか濃い。
石垣島常連のいっ君に最初の来島きっかけを聞くと、「石垣島を走って一周するため」。「え? え? なんでそんなことするんですか?」と聞くと、「あびる優に負けたくなかった」といういっ君は、途中で背中と腹筋を同時につりつつも、20時間かけて石垣島を一周したらしい……。ゲストの謎も深まるばかりだ……。
イギリス人とのハーフのトミーは、石垣島出身の奥様の里帰り出産に合わせて長期滞在しているとのこと。今後は香港に移住し、MBA取得のために学生に戻るとのこと。すかさずシンさんが、「まずは、ドリブルの練習から始めないとだね」と51歳を隠しきれないジョークをぶっこんできても、「それはNBA……」と優しくツッコんでくれる優しい青年だ。
いや~ダイビングの出会いってやっぱり楽しいもんですね。年齢も職業も海に溶けてボーダレス。
皆さん、とてもおもしろい話をする方たちだったので、せめてダイビングのことならと、ファンダイビング1本目のトミーに、「いろんな海を潜っているので、何でも教えてあげるから任せてね」と先輩風を吹かしつつ、「体験ダイビングしたことあるって言ってたけど、どこで潜ったの?」と聞くと、まかさの「カナリア諸島です」。「え? え? カナリア諸島! どんな海? どんな海?」と、いろいろ教えていただきました……。
水温と透明度に身を任せるだけの
“体感ダイビング”を満喫
竹富島南部のダイビングポイントに到着。「お先に~」と一番乗りで、借りたコンデジ片手に海へ飛び込む。
最も好きな、30度を1~2度切る水温の感触に包まれながら水深を落としていくと、水中でも日焼けするほど強烈な日射しが、純白の砂に自分の分身を写しだす。
しゅーぼこぼこぼこ。
あるのは、呼吸が泡になって打ちあがる音だけ。
もう他には何もいらない……。思わず、腕と足のチャックを開けて、おもいっきり伸び。
なんだ、このけしからん開放感は。
嗚呼、潜ってよかった……。
※
気持ちのいいダイビングを楽しみ、船上でジューシーとスパムの弁当を食べたら、寝不足だったこともあり睡魔が襲ってくる。そして、仕事では決して言えない、最大の贅沢をしてしまった。
「2本目はパスで」
ぐっすり船上で1時間の昼寝。肌もすっかり沖縄帰りの小麦色になった。ダイバー復活。
そして、眠気覚ましの3本目。
ビタロウの根の隙間をのぞくとハナヒゲウツボ。「カァ~」っと大口を開けてにヘッドバンキングする様子はひょうきんだが、本人たちはきっと威嚇しているつもり(笑)。
そして、勝手に八重山の夏の風物詩だと思っているのが、スカシテンジクダイとキンメモドキが強烈な日射しに煌めくシーン。根の下に寝そべり、スカテンとキンメモドキの群れを見上げる幸せといったらない。
珍しい生物も大物もカメラも何もいらない。
頭を空っぽにして、石垣島の海そのものを信頼し、透明度、水温、浮遊感に身をゆだねるだけの“体感ダイビング”。
夏の石垣島らしい、気持ちのいいファンダイビングを満喫したのでした。
シンさん、ゲストのお2人、急な参加にもかかわらず、どうもありがとうございました。
今回、夜にアポがあったのでダイビングだけお世話になったが、アフターダイビングも一緒に遊ぶと楽しいはず。
シンさんも「アフターダイビングもお任せ! もちろん、お客さまのおごりでね(白い歯キラッ)」。こういうところが好き(笑)。
テンションが上がり、長々と日記を書きなぐってしまったが、言いたいことはシンプルにこれだけ。
石垣島の海、出会い、ダイビングって、やっぱり……
■シンさんのお店
ストリートマリンクラブ石垣島
http://street-ishigaki.com/diving/