なぜ耳抜き不良が死亡事故につながるの? ~耳抜きから始まるパニックへの階段~
耳抜き不良が原因で、死亡事故につながることがあります。
耳抜きが、まさか死亡事故につながるとは!? と思うかもしれませんが、ダイバーの潜水事故の原因の大きな要因の一つがパニック。
その引き金になり得るのです。
耳抜きから始まる、パニックへの連鎖
耳抜き不良が起きると、当初は軽度の痛みが耳に走ります。
特にビギナーでは耳抜き不良が起きてびっくりしてしまい、どうしてよいのか分からなくなったり、他の人はどんどん潜降して行くので自分が取り残される恐怖などから、パニックになってしまう人がいます。
それでもなお、ダイビングを中止したくないという思いから無理をして潜降を続けると、耐えがたい痛みになります。
その結果、痛みでパニックに陥ってしまう方もいます。
また、耳抜き不良の程度や個人差によっては鼓膜穿孔(編注:鼓膜に穴が開いた状態)を起こし、中耳腔に海水が流入して回転性めまいを起こします。
これを温度性眼振といいますが、3~5分程度でおさまるので、バディや岩などにつかまっていれば問題なくやり過ごせる事が多いのです。
しかし、激しいめまいの場合にはびっくりしてパニックに陥ったり、乗り物酔いと同じように嘔吐をしたりするケースもあります。
どのような疾患が原因であっても、水中で嘔吐する事は大変危険な事です。
レギュレーターの排気弁に嘔吐物が引っかかってしまうと、吸気時に海水を吸引してしまい、溺れの原因になり得ます。
嘔吐の際にはレギュレーターを外さず、パージボタンを押していればいいのですが、残圧が少ないとエア切れに陥ります。
さらには、激しい回転性めまいでは、水面に上がろうと思っても方向感覚を失うので海面方向がわからなくなりますし、中性浮力も取れなくなって大深度に落ちてしまう事もあります。
めまいによるパニックや溺れは、外リンパ瘻(編注:中耳と内耳の間にある内耳窓に穴が開く)でも同じです。
鼓膜穿孔の場合には数分でおさまりますが、重症の外リンパ瘻では何日間も続く持続的なめまいが起きます。
その結果、海面に出る事ができず、岩などにつかまっているうちにエア切れを起こしてしまうケースもあります。
外リンパ瘻は、耳抜き不良によって中耳腔が陰圧になり、内耳窓にひびが入って蝸牛や三半規管の中のリンパ液が中耳腔に漏れ出してしまう内耳の気圧外傷です。
海外ではダイバーの死亡事故の際に解剖をしますが、外リンパ瘻が原因で死亡した事例が何例も報告されています。
パニックが起きてしまうと、水中でレギュレーターを外してしまったり、水面でも浮力確保を忘れたりして溺れてしまいます。
また、急浮上によって気胸やエアエンボリズムを起こして死亡したり、麻痺などの後遺症を残したりする事もあります。
パニックを予防するには、その原因となるストレスをいかに小さいうちに取り除くかが重要です。
「耳抜き不良なんて」と軽く見ないで、うまくいかない方は、一度、ダイビングのわかる病院で診察してもらうことをオススメします。