水族館なのにNPO?オーストラリアのイルカ保全施設の実態に迫る!前編
西オーストラリアで3番目に大きい都市、バンバリー。
ここバンバリーはある海の生き物に会えることでとても有名なのですが、それは何でしょうか?
ヒントは、サメさえも恐れる、頭が良くて、好奇心旺盛な生き物。
そう、イルカです!
バンバリーには野生のイルカが約50頭ほど住んでいて、ほぼ毎日人間のいるビーチにも遊びに来てくれます。
実際に、私も家から車で5分のビーチで野生のイルカと何度も泳いでいます。
そんなバンバリーにはイルカの保護や研究、エコツーリズムを行うドルフィン・ディスカバリー・センター(以下、DDC)があります!
DDCは国内外の野生のイルカや海洋環境、湿地帯が健康に保たれているかを活動の焦点としており、様々な大学、政府機関、その他の団体と研究パートナーシップを組んでいます。
その施設内には、水族館・カフェ・サンセットバー・結婚式会場・会議室があり、地元民から長く愛されています。
水族館でありながら非営利団体である、DDC。
カフェを除くと、DDCで働いている人の70%以上がボランティアの方で成り立っています。
水族館内でお客さんの質問に答えたり、イルカが海岸に訪れると、一般の人が勝手にイルカに近づいたりしないように管理したりするのもボランティアの方たちです。
もし、このボランティアの方たち全員に給料が発生したらDDCの経営は成り立ちません。
日本ではあまり聞いたことがない形態の施設ですよね。
そこで今日はそのDDCの実態に迫るべく、水族館でアクアリスト(水族館の管理人)として働くライアン・ドーさんにインタビューしてきました!
<ライアンさんのプロフィール>
5歳の頃、父とともに自宅で小さな水族館を家で作って以来、魚の虜に。
学校卒業後は、西オーストラリア州の街バンバリーのペットショップで魚の管理、販売を行いながら、魚の知識を深める。
そのころよく客として魚を買いにきたりアドバイスを求めに来ていたのが、DDC。そして、DDCが施設を拡大するタイミングでアクアリストの仕事に応募し、2年前から晴れてDDCで働くことに。DDCでは、水族館の管理全般から近隣の学校向けの教育プログラムも運営する。
Q.水族館の管理人の一日について教えてください。
ライアン・ドーさん
つまらないなと言われてしまいそうですが、実は掃除が仕事の大部分を占めています。
タンクの水を替えたり、ガラスをピカピカに拭いたり、藻の掃除をしたり、魚を健康に保つには細やかなケアが必要です。
もちろん、すべての魚の健康状態を確認することも欠かせません。
水族館での作業が終わったら、水族館からは少し離れた養殖施設に行きます。
この養殖所では、ほかの水族館やペットショップに売るためのクマノミやタツノオトシゴの繁殖を行っています。
DDCが魚を提供することで、自然界で捕らえられる魚を減らすことができます。
他には、魚に餌を与えたり、水族館に訪れた客に対して魚の説明をすることも多いです。
Q.DDCの教育プログラムとは?
ライアン・ドーさん
お客さんの多くがイルカに会いたくてDDCに訪れるので、イルカの生態や豆知識に関してももちろん話しますが、地元の海の状態や海洋保全に興味を持ってもらえるように話すことを心がけています。
また、学校のホリデーシーズンは学生がたくさん訪れるので、学生向けの教育プログラムも実施します。
海中世界、マングローブ、海の生き物、生物多様性、食物連鎖、気候危機などについて、ゲーム感覚で楽しめる体験型の教育プログラム。
プログラムの中では、人間の行動や生活様式がいかに生態系に悪影響をもたらしていて、どうしたら海の環境を守っていくことができるかについてもわかりやすく話しています。
具体的には、使い捨てプラスチックを避けたり、使わない電気を消したり、節水をしたりなど、至ってシンプルな解決策。
それでも、感性が豊かで素直な子供たちはすぐに行動に起こしてくれます。
逆に親の方が「子供から注意されることが多い」と、プログラムに参加してくれたファミリーからコメントをいただいてます。
Q.DDCが30年以上にも渡って地元民から愛され続けている秘訣はなんだと思いますか?
ライアン・ドーさん
ファミリー層の心をつかんでいるところですかね。
ここDDCではボランティアのみんながフレンドリーで、ビーチでも水族館でも積極的にボランティアの方から訪れる人に話しかけて、質問に答えます。
他の施設では、入場料を払った後は客は放置されることも多いので、そこが一番大きな違いかなと思います。
また、イルカがビーチに訪れると、鐘を鳴らしてビーチにいるみんな知らせることで、お客さんみんなが平等にイルカを見ることができます。
Q.他の海の生き物を守るために、一部の魚やエイを水族館に閉じ込めていることに対してはどう思いますか?
ライアン・ドーさん
もちろん魚を一切閉じ込めなくていいのであれば、それが一番いいと私も思います。
どんな動物であっても、野生の環境下で生きる権利があります。
ただ、人によっては実際に自分の目で見て、魚と触れ合うことで、初めて海の生き物のことをもっと大切にしたいという気持ちが湧いてくる人もいます。
ドキュメンタリーなどを観ることも大切ですが、自分の目で実際に生き物を見るというのはインパクトの大きさがまるで違います。
いずれは、水族館がなくても「野生動物や地球環境のことを守ろう」とみんなが思えたら一番いいのですが、今のところはまだ水族館が果たす役割があるのが悲しい現実です。
また、水族館にいる魚のうち何匹かはDDCに来なければ死んでいた可能性がある魚もいます。
Q.タンクに入れる魚はどういった基準で選ぶのでしょうか?
ライアン・ドーさん
まずは、水槽のサイズを超えて成長しない魚。
そして、野生の中でもサンゴ礁で生活をするような行動範囲の狭い魚。
何百メートルも移動するような魚を水槽に入れることはありません。
DDCで働いていて、一番誇らしかった瞬間はいつですか?
ライアン・ドーさん
つい最近のことですが、初めてクマノミの繁殖に成功したときです。
卵を産むところまでは今までもスムーズに行っていたのですが、孵化させるところが本当に難しくて、長い間苦労していました。
それが今は100匹以上のクマノミの赤ちゃんが卵から孵り、元気に成長してくれています!
今回は特別に、普段は開放していない養殖所にも連れて行ってもらいました!
さて、ここまではライアンさんに「DDCのミッション」や「教育プログラム」などについてお話を伺ってきましたが、いかがだったでしょうか?
後編の記事では、お待ちかね!イルカと亀のレスキュー、そしてサンゴの養殖について写真盛りだくさんでご紹介しますのでお楽しみに!
Text:Kanae Hasegawa