水族館なのにNPO?オーストラリアのイルカ保全施設の実態に迫る!後編
「水族館なのにNPO?オーストラリアのイルカ保全施設の実態に迫る!前編」では、オーストラリアにある水族館・カフェ・結婚式場・会議室の複合施設、ドルフィン・ディスカバリー・センター(以下DDC)でアクアリストとして働くライアンさんに、DDCのミッションや教育プログラムなどについて伺いました。
後編ではDDCが行っているイルカ・ウミガメ・サンゴの保全について、引き続きライアンさんにお話を聞いていきます!
DDCの目の前に広がるクームバナ湾には、毎日のように野生のイルカが訪れ、人々を魅了しています。
サンクチュアリーゾーンに設定されているこの湾ですが、実際に野生のイルカに悪影響を及ぼしたりしていないのか、率直な質問を投げかけてみました。
Q.イルカと「触れ合う」ことは可能ですか?
ライアン・ドーさん
イルカがビーチに訪れても、イルカを触ったり、海の中に入って一緒に泳ぐことはご遠慮いただいています。
ただ、太ももの深さまでは水に入ってもらえるので、イルカがこちらに興味を持てば、イルカ自ら私たちのすぐ目の前まで近づいてくることもあります。
また、ボートツアーに参加していただくと、高い確率でイルカを間近で見ることができます。ただ、このツアーでも近づくかどうかの判断を下すのはイルカです。イルカから少し離れたところで入水して、イルカの方から近づいてくるのを待ちます。
Q.イルカに餌付けはしていますか?
ライアン・ドーさん
餌付けというと聞こえが悪いですが、イルカを選んで、本当に少量だけ魚を与えています。
餌を与えているイルカは選別した6匹だけで、一匹当たり一日に魚2匹(350グラム)のみ与えます。
Q.では、イルカは人間が与える餌に依存はしていないということですよね?
ライアン・ドーさん
その通りです。
人間でいうと、グミを20個ほど与えられている程度なので、魚2匹でお腹がいっぱいになることはまずないです。よって、依存するほどの効果はありません。
Q.イルカがもっと頻繁に湾に戻ってくるように餌を与えているのですか?
ライアン・ドーさん
そういうわけではないです。
よく遊びに来るイルカの中には餌を与えていない子たちもいます。
なので、餌につられて遊びに来るわけではなく、人間との交流を好んで遊びにきているんだと思います。
餌をあげるのはちょっとした「ありがとう」を伝えるためのものです。
Q.イルカのレスキューについて教えてください。イルカが怪我を負う原因とは何なのでしょう?
ライアン・ドーさん
一番大きな要因は、釣り糸に絡まることです。
この動画は、実際に少し前にDDCがイルカのレスキューに成功したときの映像です。
釣り糸に絡まったのはイルカの子供。
すぐに助けないと生死にかかわったので、海岸に誘導して、釣り糸を切って、海に返しました。
その間ずっとすぐ近くで心配そうに見守るお母さんイルカ。
ここバンバリーでは釣り糸に絡まる事故はそんなに頻繁に起きるわけではなく、過去2年間でレスキューをしたのは1度だけです。しかし、私たちの知らないところで起こっている事故もあるはずです。
また、釣り糸の絡まり事故以外では、浅瀬で座礁したイルカを助けることの方が多いです。
1989年から数えると150件以上のイルカ救出要請依頼を受けています。
Q.亀の救出も行なっていると聞きました。具体的にはどんなことをしているのでしょうか?
ライアン・ドーさん
海流や嵐によって海岸に流されてしまった、生後数ヶ月の亀がDDCには現在4匹います。
6〜24ヶ月ほど面倒を見て、自然界で生き残る可能性が高まった後、海に返します。
プラスチックを誤飲してしまった大人の亀も稀に保護しますが、件数は少ないです。
サンゴの繁殖「コーラルプロパゲーション」とは?
ライアン・ドーさん
サンゴを10〜30個ほどに分割してカットすることによって、一つのサンゴからより多くのサンゴを繁殖させる技術のことをいいます。カットしたサンゴはコンクートに植え付けられます。
DDCでもコーラルプロパゲーションを行っており、すでにサンゴを植え付けた100個のコンクリートを海に沈めており、魚の新しい住処を生み出しています。
例えば、台風などで自然のサンゴが壊されてしまった場合、壊れたサンゴを回収して、サンゴの養殖に活用することもしています。
Q.サンゴの繁殖はあまり効果がないと聞いたことがありますが…実際はどうなのでしょうか?
ライアン・ドーさん
正しいアプローチを取れば効果的ですよ!
ただ、費用対効果が低くなってしまう場合は多いにあります。
サンゴをうまく繁殖させるためには適切な照明を当てたり、何かとケアが必要です。
時間と費用はかかりますが、サンゴを繁殖させること事態はそんなに大変ではありません。
DDCで行っている魚やタツノオトシゴの養殖と同じように、このサンゴを施設や家で養殖することによって、自然界から搾取されるサンゴが減り、環境保全にもつながります。
続いて、ポストコロナに向けてこんな質問もしてみました。
Q.DDCを訪れるベストシーズンは?
ライアン・ドーさん
イルカを見に来るなら10〜3月の間がベストシーズンです!
ぜひ朝早くDDCに訪れて、ゆっくり朝食を食べてコーヒーを飲みながら、愛らしいイルカに会いに来てください。
終始笑顔でインタビューに応じてくれたライアンさん、ありがとうございました!
ライアンさんと話していると魚への愛が伝わってきて、こちらも幸せな気分になりました。
今回紹介したオーストラリアの水族館。
イルカの研究と教育を主な活動としているので、展示している生き物も魚・サメ・エイ・タコ・レスキューしたウミガメと限られていて、日本の水族館と比べると、施設の規模は小さめです。
日本の水族館だと、野生ではなかなか見ることができない、イルカ・シャチ・アザラシ・ジュゴン・ベルーガ・ペンギンなど、哺乳類を含めた様々な生き物がいますよね。
イルカやシャチ、アシカのショーなども日本では活発に行われています。
日本はこういった展示用の動物を野生から捕まえてきます。
しかし、オーストラリアでは自然界からイルカやクジラを捕まえて水族館に展示する事は法律で禁止されています(罰金4,000万円以上)。
また、保護や教育目的ではない動物のショーなどを行っている水族館は存在しません。
広い海で自由に生きていた動物が、人間の娯楽のために、急に小さなタンクで生涯を送らなければいけなくなるなんて、日本がいかに動物の命の尊さを誤解しているかがわかります。
日本の水族館は、行動範囲の広い大型の動物を展示していると、海外から批判されることも少なくありません。
日本もオーストラリアや他のEU諸国のように、イルカやシャチといった大型の生き物の展示を止めるように少しずつ移行していけると、自然界に住む動物たちがもう少し幸せに暮らしていけるのではないのでしょうか?
Text:Kanae Hasegawa