それでも海を信じたい

Iwate / 岩手

東日本大震災から1年後の三陸の海のルポルタージュ。

Photo
越智 隆治、中村 卓哉
Text
寺山 英樹
Design
Panari*Design
取材協力
三陸ボランティアダイバーズ
特別協力
The More Project Japan
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東日本大震災から1年後の三陸の海のルポルタージュ。

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越智 隆治、中村 卓哉
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海の生き物たちはしたたかだった……

 海の生物はどうなったのか? 内湾の奥の方はダメージも大きく濁りもひどかった。生物も少ない。しかし、湾から少し離れれば海もそこに棲む生物も変わらずに元気だった。海藻もワサワサ生えているし、魚もたくさんいる。ダイバーに人気のダンゴウオも見つかった。「人の手の入った場所はダメージが大きいが、もともと自然の場所は元気」とくまちゃんは言う。
 ダイビングスポットだった浪板海岸は、震災後一変。海水浴場でもあるビーチは壊滅。浜辺を囲む林は海水をかぶって枯れ、土砂も崩れ落ち、雰囲気が変わってしまった。当初、水中もガレキだらけだったが、新居ができたとばかりに、海の生物たちはすぐに棲み付いた。
 海の生物たちはたくましく、したたかだった。
 

三陸の海を取り戻せ。 そして、さらなる一歩を踏み出す

 ダイバーがガレキ撤去に入った海は見事にきれいになっていて、早めに撤去作業をしたところには海藻が生えている。やればやるほど目に見えて成果があがるのだ。しかし、「40箇所を作業していますが、全体でいえば数パーセントにしか過ぎない。9割以上の海が手つかずのまま残っているのが現状ではないでしょうか。港を出ればすぐ漁場。そういうところにまだまだガレキが残っています」とくまちゃんは言う。着実に復興の歩みを進めているが、まだまだ足りない現実もそこにある。
 あれから1年。三ボラはどこへ向かっていくのだろう?
「基本的にはガレキ撤去などボランティア活動はまだまだ続くと思います。ただ、ガレキ撤去で漁業を復活させながらも、ダイビングの可能性も探っていきたい。さらに、せっかく漁師たちとも絆ができたので、一緒にやれることも考えていきたい」

 実際、漁の体験ツアーの準備が始まり、秋にはサーモンスイムが開催される予定だ。ワカメの収穫が復興の兆しであるように、経済的に活性化して始めて復興だろう。そういう意味では、くまちゃんがガイドに戻ったときが本当の復興が始まったと言えるのかもしれない。

潜る以外にもできること。
三ボラメンバーは仮設住宅を訪ね、お茶会を開催したり手芸を教えたり、地元の方々と積極的に交流している。

 ビーチポイントである浪板海岸のガレキはダイバーたちの手によって撤去され、今ではすっかりきれい。地盤沈下で水位が変わり、地形も変わってしまった。津波の影響もあちこちで見られるが、逆にそうしたものを見るのは興味深く、また大事なことでもある。
 水温が上がってくれば、中層を魚群が行き交い、ダンゴウオやフサギンポなど、北の人気者が姿を現すだろう。夏になれば季節来遊魚も津軽海峡を越えてやってくる。
 「今年の夏をメドにお店を再オープンできたらな、と思っています。水中の安全は今のところ確認できているので、あとは施設を再び整えることが課題ですね」
 今でもボランティアの合間にファンダイビングも受け付けているそうだから、ガレキ撤去だけでなく、たまには黒潮と親潮の影響を色濃く受ける三陸の海で遊んでみてはいかがだろうか? 
「これからは海を楽しんでいきたい。そういうことも大事です」。すべてを飲み込んだ海だけど、くまちゃんは、それでも海を信じている。

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