表に出るデータは教えてくれない潜水事故の深刻度
表に出るデータは、
潜水事故の本当の深刻度を表していない
国内のダイビング死亡・行方不明者数
※2001~2010年の集計(一般ダイバー+インストラクター)」
前回の記事で、「ダイビングの事故を数字で見るとき、普通のメディアは海上保安庁のデータで足りるとすることが一般的です」と指摘しましたが、上記、死亡事故・行方不明者数のデータは、海保、警察、消防、自治体記録に、直接調査事例を加えて、私が作成したものです。
これは現在日本で我々が知ることができるデータでは最も実態に近い数字となっていますが、それでも事故の本当の深刻度には及びません。
(※なお統計に反映されない減圧症罹患者数は、とある病院では毎年三桁の数となっています)
海外でのダイビング事故(2009年~2011年)
※2009~2011年の集計
やっかいなのは人の心
潜水事故を呼ぶのは正常化の偏見
ヒヤリハットの法則(ハインリッヒの法則)とは、1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在するという、広く認知されている経験則です。
これを踏まえて上記の重大事故の数を考えてください。
ここ10年、ダイバーの数は減り、ダイビングを行う総回数も減り、しかし器材の改良は進み、ダイバーの事故に対する救急医療体制も充実してきている(ドクターヘリや海保・自衛隊・警察などの対応の進化)のに重大事故者数が増加しているのです。
表に出ただけの数値ででもです。
事故は大きく分けて3つの種類があります。
- 自分のミスで事故に遭う(この場合の責任は、ダイバーの経験レベルと事故時の状況によって異なります)
- 他者の責任で事故に遭う(体験・講習・ファンダイビング・バディの対応など)
- 自然環境によるもの(あらかじめ予見される事態への対処をとらなかった場合には、上級者ほど自然のせいにはできません)
中でもやっかいなのは、人の心。
事故を呼ぶのは“正常化の偏見”です。
正常化の偏見とは、「大したことにはならないに違いない」「自分は大丈夫だろう」などと思い込み、危険や脅威を軽視してしまうことを意味する心理学用語です。
事前の事故防止の対策の軽視や、最初の小さなトラブルを安易に見てしまう心のありかたです。
何でも前向き大好きの人の中には、他人へもこの偏見を強要したり、そのような場の空気を作ってしまう人がいます。
もしそれで油断や遅延が起きて事故となったら、少なくともその前向きな人は、道義的には加害者になると言えるかもしれません。
生き残った者のダイビング事故研究(連載トップページへ)
- 自らの潜水事故体験をきっかけに研究者の道へ「生き残った者のダイビング事故研究」連載スタート
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