生き残った者のダイビング事故研究(第1回)

自らの潜水事故体験をきっかけに研究者の道へ「生き残った者のダイビング事故研究」連載スタート

セブ島の海(撮影:越智隆治)

ダイビングは楽しく、それは今の地球に生きる人類にとっての類まれのない特権です。

今回連載させていただくのは、その特権という宝石をさらに輝かせるために必要なクリーニング作業に、有用と考える提案と情報提供をさせていただくためです。

事故研究のきっかけとなった、自らのダイビング事故体験

私がダイビングの事故の問題を研究し始めた理由は、奇跡的に生き残ることができた、20年前の私自身の事故体験でした。
この事故でさまざまな問題を体験することになりました。

事故の原因は、ダイビングインストラクター(ガイド)の手抜きでした。
ダイビングショップオーナーも、事故発生の原因として手抜き(サボタージュ)があったと明記した私のログブックにサインし、これを認めています(※1)。

しかしこのダイビングショップは入院による高額の医療費やその他の責任を無視し、ここを5スターと格付けをしていた【指導団体】も、「現場から事故報告書が上がっていないので事故は存在しない。存在しない事故には取り合わない」と対応してきました。

このとき私は、この組織的で連携された事故の事実への対応と事故被害者への対処法の存在に驚いたのです。

この体験があったことで、私はダイビング事故の実態調査を行ない、当時すでに多くの死亡・行方不明を含むダイビング事故が毎年たくさん起こっていたことを知りました。

またその事実や原因が正しく開示されていないことと、その理由に強い驚きを感じたのです。
この重い事実が、私をダイビング事故問題の研究へと向かわせることになりました。

これは、20年前当時はまだ誰も行っていない未知の研究領域でした。
そしてこれが後の「商品スポーツ」論※1構築への第一歩となったのです。

ダイビング事故で入院中の筆者(中田誠)

事故で入院中の筆者

ダイビング事故を調査するときの心構え

ダイビング事故は、他人にとっては興味深いものですが、事故者本人や家族、遺族にとっては忌むべきものです。

私はこれまで同じ体験者の生き残りの一人として調べてきました。
それは他人事ではなかったからです。

今でも、他人からはどう見えようとも、客観的であっても他人事にはならないようにと自分に戒めを課しています。

この連載では、この点をふまえながら、時にはデータを分析したり、あるいは個々の事例から、プロは事故を未然に防ぐことができるように、また個々のダイバーはどのように自分の身を守ればよいかについて参考になるような教訓を学び、それを提案していきたいと思っています。

どうかよろしくお願いします。

参考資料
※1 商品スポーツ論:「普通の人が自ら安全に行う機会やノウハウを、役務として販売されるスポーツ」についての論。参考:「商品スポーツ事故の法的責任―潜水事故と水域・陸域・空域事故の研究」(信山社)

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生き残った者のダイビング事故研究(連載トップページへ)

  1. 自らの潜水事故体験をきっかけに研究者の道へ「生き残った者のダイビング事故研究」連載スタート
  2. 小さいトラブルが大きな悲しみに。潜水事故の事実が教えてくれること
  3. 表に出るデータは教えてくれない潜水事故の深刻度
writer
PROFILE
商品スポーツの問題、特にレクリエーショナルダイビングの安全についての問題を中心に研究。
他、複数の学会での発表、公演、執筆活動などを行う。

元、「東京大学潜水作業事故全学調査委員会」委員
現、消費者庁「消費者安全調査委員会」専門委員