「はぐれた時の対処が不安」データから見えるCカード講習の不十分さ

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こんにちは、高野です。
花粉症で鼻がグスグスです。三保先生に診ていただきたいと思う今日この頃です。

セブ島の魚の群れ(撮影:越智隆治)

さて、今回はインストラクターが行うCカード認定講習について、講習生の平均的スキル習熟度を自己評価したもの、そして一般ダイバーが自身のスキル習熟度を自己評価した調査結果についてお話しをしていきます。

調査は、「知識の習熟度」と「技術の習熟度」に分けて行っています。

高野修ダイビングに関する調査データ

講習生のスキル習熟度(n-134)

インストラクターの結果を見ると、「同等レベル同士でのバディ潜水」 が最も低く、次いで「ナビゲーション」、「潜水計画立案」 が低いと自己評価をしていることが分かりました。

また、一般ダイバーが自身のスキルを自己評価したものについても同様の結果でした。

今回の調査は、研究の公平性を保つために私は回答していませんが、もし私がやっていたら、自身が行う講習の習熟度は、恥ずかしながらこの結果と同じ自己評価でした。

前回(ダイバーが最もヒヤリとする場面は「はぐれた時、はぐれかけた時」)お話しをさせていただいた通り、「ヒヤリ・ハットを感じたときの状況」について最も多かった回答は、インストラクター、一般ダイバーともに「はぐれた・はぐれかけた」でしたが、そこで「はぐれた場合の対処法」のスキル習熟度に注目して見てみると、インストラクターと一般ダイバーを比べた場合、回答に差があることが分かりました。

高野修ダイビングに関する調査データ

はぐれた場合の対処法(知識)

高野修ダイビングに関する調査データ

はぐれた場合の対処法(技術)

インストラクター、一般ダイバーともに、50%以上が「かなり高い-やや高い」と自己評価しているものの、「すごく低い-あまり高くない」と自己評価している割合を見てみると、インストラクターに比べて一般ダイバーの方が多いことが分かりました。

一般ダイバーは「はぐれた場合の対処法」について、インストラクターが感じている以上に、スキルが高くないと自己評価していることが伺えます。

また、いずれかのスキル習熟度に「すごく低い-あまり高くない」と回答したインストラクターに対して、「習熟度を高くするために必要なことは?」(複数回答可)という質問をしたところ、最も多かったのは、「参加者の講習に取り組む姿勢の向上」、次いで「講習日数の増加」という結果でした。

現在開催している講習日数については、3~4日間という回答が最も多く、中には2日間という答えもありました。

高野修ダイビングに関する調査データ

前回書かせていただいた結果も合わせて整理をすると、以下のようになります。

●「ヒヤリ・ハットを感じたときの状況」について最も多かった回答は…
「はぐれた・はぐれかけた」である。

●インストラクターの評価によれば、自身が行う講習生の平均的スキル習熟度は…
「同等レベル同士でのバディ潜水」、「ナビゲーション」、「潜水計画立案」のスキルが低いと自己評価をしている。
一般ダイバーも同様の自己評価をしている。

●はぐれた場合の対処法のスキル習熟度について…
インストラクターの評価に比べて一般ダイバーの方が、「すごく低い-あまり高くない」と自己評価をしている者が多い。

●習熟度を高くするために必要なことは…
「参加者の講習に取り組む意識姿勢の向上」、次いで「講習日数の増加」であると感じているインストラクターが多い。

これらのことから見えることは、インストラクターは講習において、ダイバーとして認定するために最低限必要なスキル、言うなれば“GOAL”を、本来よりも手前に設定してしまっている可能性があり、また、各指導団体が定めているコースの基準やカリキュラムを、現場において適正に運用しきれていないことが考えられます。(もちろん、すべてのインストラクターがそうではないと思います)

しかし、そうなってしまっている理由はインストラクターの問題だけではなく、講習に参加する側の意識や姿勢も大きく影響している可能性も考えられます。

その結果として、インストラクターやガイドを被告(人)とした、裁判にまで発展するような重大な事故に繋がる、“誘因の一つ”になっているとも考えられます。

時々に耳にする会話があります。

「真面目に講習をやっていたら講習日数が足りないよ」、「講習日数を増やしたらお客さんは休みも取れないだろうし、講習金額も上げなきゃいけないでしょ?そうしたらダイバー減っちゃうよ」、「しっかり教育をしないといけないのは分かるけど、教育を重視していたら商売としてやっていけないよ」、etc…。

私もそれは、よ~く分かります。

インストラクターは、講習料をいただいて指導・教育を行なっている、言うなれば、「教育ビジネス」です。
もちろん、ビジネスですから利益を追求するのは当然です。

しかし、そのビジネスの根底となる指導・教育を疎かにして、利益を優先させてしまったらどうなってしまうんでしょう?

そして、感覚が麻痺し、それが業界として当たり前になってしまったら…。
そこにダイビング業界としての明るい未来、発展はあるのでしょうか?

自身に振りかかってくる様々な(事故やビジネスに対する)リスクを、増やしている気がしてなりません。

今行なっている講習のGOALは何処なのか…
現在活動中のダイバーはGOALできているのか…

インストラクター、一般ダイバー、そして指導団体も一緒になって、今一度考える必要があるのかもしれません。

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PROFILE
大学にて法学を学び、卒業後、某一部上場企業にて人事採用・研修を担当していたが、「人は自然と共に生きていくことが本来の姿である」と思ってしまい…退職。

都市型ダイビングショップを経験後、静岡県の熱海を専門に水中ガイド、コースディレクターとしてインストラクター養成などを行う。
また、潜水士として、海洋調査・水中撮影・ナマコ潜水漁・潜水捜索救難などでも活動している。
 
ある時、業界の発展、健全性の確立を考えるようになり、大学院へ進学してスポーツマネジメントについて学ぶ(学位:体育学修士)。
現在は、教育・指導の観点から、ダイビングのマネジメントについて研究している。
 
■「筑波大学 大学院」 体育系研究員 高度競技マネジメント研究室(山口香研究室)
■「文部科学省所管 財団法人社会スポーツセンター」マリンスポーツ振興事業部 専門職員
■「NPO熱海・自然の学校」理事 安全対策委員長
■「NPOユニバーサルダイビングネットワーク」理事 潜水捜索救難協会トレーニングディレクター
■「Office 海心(うみこころ)」代表
 
【学会発表・論文】
■「SCUBAダイビングにおける裁判事例から見た事故分析」
■「SCUBAダイビングにおけるヒヤリ・ハット調査から見た事故分析 -ハインリッヒの法則に基づいた観点から-」
■ 「SCUBAダイビング指導者育成における教育課程に関する研究 -中高齢者事故予防の観点から-」
他
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