潜水事故レポート(分析)の読み方
事故防止を考えるうえで、まずすべきことは、
実際の事故から教訓を得ることなのは言うまでもない。
そういう意味では、《DAN JAPAN》が毎年発表する事故分析や事故例は、
とても貴重なデータである。事故者数や実例が報告され、
その原因や年齢、経験、地域などの分布が示され、分析が寄せられている。
ただ、これらの報告や雑誌記事、ブログなどを読むと、
ちょっとミスリードな方向に解釈がされている気もしているので、
一度、この事故報告の読み方を考えたい。
まず、以前、ブログでも指摘した「データの読み方」の問題。
事故報告のデータは、あくまで事故件数のみということだ。
つまり、分母であるダイバーの数がわからないので、
分析はあくまで参考のひとつと捉えるべきだろう。
事故件数が増えたとしても、
ダイバー数の増減がわからねば事故の確率が増えたとは言い難い。
さらに、会報誌のリードには、
「事故者数が前年より1名増の52名、うち14名もの尊い命が失われ」と書いてある。
事故者数は前年と比べているのに、
前年に比べて事故死亡者数が減っていることは書いていないのだから、
〝何だか事故が増えているぞ〟という印象を恣意的に与えていると言われても仕方ない。
雑誌にも「男性のほうが事故に遭いやすい?」との小見出しがあるが、
同じように、そもそものダイバーの比率が分からなければ分析の効力は弱い。
年齢や地域も同じこと。
事故形態にしても、”溺水”が一番多いことが強調されるが、
水中なので、「原因の詳細が不明」「どんな原因も溺水に帰結しやすい」
ということも、知っておくべきだろう。
また、「漂流も意外と多い」という指摘もあり、これもその通りかもしれないが、
「漂流しても一人も死んでいない」と読み取れば違った意味が考えられるかもしれない。
データは読み方ひとつなのである。
それが、分母だけでなく、
「どれくらい報告されているのか」「どれくらい検証しているのか」が曖昧なら、
なおさら、データは読みたいように読めるのだ。
“いや〜、ダイビングって案外、安全だな〜”という読み方だって、できるということだ。
冗談でも極論でもなく。
もう一度確認しておくが、こういうデータは貴重である。
60点のデータだとしても、まったくないよりよっぽど素晴らしいと思う。
いろいろな事情からデータ収集の限界があることも知っている。
しかし、こうしたデータがミスリードに使われることを避けたいだけだ。
データなど読み込む人の方が少ないし、分析だけ読む人も多い。
さらに、リードやキャッチ、小見出しには本文より全体を印象づける力があるのだ。
では、この貴重なデータを活用するのに最も有効な方法は?
それは、ひとつひとつの事故例からそれぞれの予防法を考える作業だと考える。
正直、それぞれの事故例の情報はかなり少ないが、少ないのだから仕方がない。
であるならば、たとえ少ない手がかりだとしても、そこから想像を膨らませ、
“たられば”話を考えるだけでも有意義だろう。
なぜなら可能性を考えることこそ、予防そのものだから。
そもそも、事実が曖昧なのだから、たらればの話をするしかない。
事故の責任の所在や犯人探しをすることは、
少ない情報であればあるほど慎重になる必要があり、
引いては事故者への冒涜につながることにもなる。
しかし、可能性から予防法を考えることは、むしろ有意義なはずだ。
ただ、ここでも気をつけるべきことは、事例に踊らされないことだ。
事故例を見て怯え、「ダイビングってやっぱり危険だなぁ」
「すべてのダイビングで予防のためにこうすべきだ!」と思うのは、
いかにも近視眼的と言わざるをえない。
事故の確率や他レジャーとの比較が曖昧な限り、
「ダイビングは危険だか安全だかわからないし、
こうした事故例はレアケースかもしれないが、
少なくとも死ぬこともあるので気をつけよう」という心持ちがベターなのだと思う。
※ということで、4月号『マリンダイビング』の「スキルアップ寺子屋」では、
事故事例から可能性を考える〝たられば予防法〝をテーマにしようと思います。
その後、当サイトでも詳細に紹介します。