伊豆のサンゴも危機!身近に迫る海水温の上昇と白化現象
サンゴといえば、南の島で魚たちと華やかに共生している風景を想像するだろう。一方、気候の変化に伴い白化現象も話題になっている。
そしてその現象は、沖縄などのリゾート地だけでなく、海に囲まれた日本では九州や四国、そして関東地方でも問題視されているのだ。
実際にその状況を確認するべく、2月中旬に西伊豆町・田子を訪れた。
ダイビングのメッカとも呼ばれる伊豆半島で起きている、海水温の上昇とサンゴの白化現象について知って頂きたい。
サンゴについて
世界には約800種類のサンゴが生存している。日本では過半数が観察でき、大きく2種類に分けられる。
固い骨格を持つ「ハードコーラル」と、柔らかい組織で構成された「ソフトコーラル」だ。
植物だと思われがちだが、実はクラゲやイソギンチャクの仲間に分類される刺胞動物の一種。
サンゴはポリプという小さな生物のことを指し、その集合体が我々が普段観察しているサンゴ礁になる。
サンゴの役割
海洋生物の約1/4がサンゴに依存して暮らしていると言われており、褐虫藻と呼ばれる植物プランクトンと共存している。褐虫藻に住処を提供する代わりに、褐虫藻が光合成によって作った有機物を栄養として吸収するのだ。
そして、その一部は粘液として体外に排出し、周辺に生息する魚たちの餌となる。また、産卵や稚魚の育つ場所として利用されることから、サンゴの生息する海域は生物多様性が豊かである事がわかる。
サンゴは海洋生態系の基盤になり、水中世界で重要な役割をになっているのである。
海水温の上昇と白化現象の関係性
黒潮の恩恵を受ける伊豆半島では、サンゴ礁はもちろん、そこに生息する南方系の魚類も観察できる。
数年前までは、越冬する色鮮やかな魚はほぼ観察できず、彼らは季節来遊魚と呼ばれ、夏だけに出会える生き物だった。しかし近年では、海水温の上昇により、冬を越すだけでなく、産卵や子育てに取り組む姿も見られ、水中環境の違和感は否めない。
さらに、水の温度が15度を下回ることが多かった2月でさえ、実際には17度もあり、その異変を肌で感じた。
2011年に行われていた国立環境研究所の潜水調査によると、西伊豆町では約40年前まで確認しれていなかった南方のサンゴが調査当時1000株以上発見されていたという。このことからもサンゴの北上現象がうかがえる。
そして、それに伴い、白化現象もより深刻化する。暖かくなった海では、褐虫藻がサンゴと共存していくのは難しい。
共生藻がいなくなってしまうことで、取り残されたサンゴは栄養不足で白く衰退し、やがては死んでしまう。
私自身も、白くなってしまったサンゴの個体を見つけるのに時間はかからなかった。
また、気候の変化だけでなく、私たちが普段使用している日焼け止めには、オキシベンやオクチノキサートという褐虫藻を壊す化学物質が含まれるため、サンゴが死滅してしまう直接の原因になってしまうことが、多くの研究により明らかになっている。
そのため、ハワイやパラオをはじめとする世界の観光地では、サンゴに有害な物質を含む日焼け止めの使用を禁止する動きが始っている。
私たちにできることとは?
まずは、海に潜るダイバーとして、サンゴを傷つけないスキルを身につけること。
浮力コントロールが上手くできていないと、フィンで直接サンゴにダメージを与えてしまう原因になる。
とはいえ、中性浮力をしっかりとれるようになることは初心者ダイバーには難しいことであり、実際に多くの方が苦労するポイントでもある。
しかし、普段のダイビングから、深度変化と呼吸に重きをおく事で、楽しみながら技術も向上していけるはずだ。
また、日焼けに関しても最近ではサステナブルな物や飲むタイプの製品も増えている。地球にも肌にも優しい商品を使用するのは、環境だけでなく自分にとっても良い事だと言えるだろう。
豊かな海を守るためにも私たちにできることを少しずつ始めてみよう。
様々な悪影響から、死を待つだけの白くなってしまったサンゴたち。リゾート地だけでなく、関東地方にも悲鳴を上げている生き物たちが沢山いる。
そして、その叫びにいち早く気付けるのは、海に潜る我々ダイバーの特権。
自分自身のダイビングスキルを見直し、有害な物質が海へ流れないようにすることが私たちにできるはじめの一歩ではないだろうか。
水中生態系の基盤となる「海のオアシス」を共に守り、海の豊かさをいつまでも保てるよう力を合わせていきたい。
Text:Natsuki Matsuda