世界初!船外機用マイクロプラスチック自動回収装置をスズキが開発

車やバイクのメーカーとしての印象があるスズキ株式会社だが、実は、同社が開発している船舶用の推進機構「船外機」も世界で大きなシェアを占めているのをご存知だろうか。昨今の海洋プラスチック問題を受け、スズキでは漁やレジャー、観光船、水上バスなど幅広く利用されているこの船外機を使用して、海中のマイクロプラスチックを自動回収する世界初となる装置を開発したという。

この船外機用マイクロプラスチック自動回収装置について、一体どんなものなのか、また開発のきっかけや今後の展望などを、スズキ株式会社マリン事業本部の中村鉄也さんにお話を伺った。

スズキ株式会社マリン事業本部マリン営業部米州・大洋州・企画グループマネージャーの中村鉄也さん

スズキ株式会社マリン事業本部マリン営業部米州・大洋州・企画グループマネージャーの中村鉄也さん

エンジン冷却システムを活用し、海中のマイクロプラスチックを回収

――船外機用マイクロプラスチック回収装置とはどういったものか教えていただけますか?

中村さん

まず、当社の船外機にはすべて水冷エンジンを採用しています。海水をくみ上げてエンジンを冷やし、使用後は海に戻すことを繰り返す仕組みで、今回のマイクロプラスチック回収装置は、このエンジン冷却後に海に戻す海水をフィルターで濾してマイクロプラスチックを回収しようというものです。そのため、業務用であれレジャー用であれ、船の使用目的に関係なく走行するだけで、いつの間にかマイクロプラスチックを回収することができます。

回収装置の模式図

回収装置の模式図

――船外機の中の冷却装置を使用しているんですね。

中村さん

そうです。ですので、ご使用の際には船外機を丸ごと買い替えていただくというよりも、すでにお持ちの船外機の冷却水が通るホースの一部分を、間にフィルターがついたホースと付け替えていただくようなイメージです。

マイクロプラスチック回収装置を取り付けた船外機

マイクロプラスチック回収装置を取り付けた船外機

――性能に変わりはないんですか?

中村さん

不要となった使用後の海水を利用するため、エンジンの冷却性能にはまったく影響はありません。マイクロプラスチックが溜まったら、装置を開けて回収物を廃棄していただくという作業は必要ですが、こちらは、少なくとも浮遊物が多い海で使用して、3ヶ月程度捨てなくても溢れないような設定となっております。

スズキ船外機

「水辺だけでなく水中のゴミも回収できないか」世界中でモニタリングを実施中

――開発のきっかけはなんだったのでしょうか?

中村さん

私たちは2010年から、世界中のマリン関係者と協力し、水辺のプラスチックごみを回収する清掃活動を実施してきました。その活動の中で、拾い上げたプラスチッ
クごみは触ると簡単に小さく砕けてしまうことを目の当たりにし、「このままでは、砕けて小さくなったプラスチックごみが海に流れ出て、簡単には回収できなくなるであろう」と危機感を覚えたのがはじまりです。

――水辺から水中まで範囲を広げられたのですね。実用化に向けて、どのような課題がありますか?

中村さん

自社でも他社でも今まで開発されていなかったものなので、船外機の冷却水を使ってどの程度の大きさのものが取れるのかというデータがまったくないわけですよね。そういった現状の中で適切なフィルターをどう選ぼうかという課題はあります。これまでモニタリングを行ったアジアでの実績や、これから実施するヨーロッパやアメリカでの実証結果をもとに、適切なフィルターはどういったものなのか、複数用意する必要があるのかなど検討を進めていく予定です。

――広範囲でモニタリングされてるんですね!

中村さん

2020年度は、日本、フィリピン、インドネシア、中国、タイといった水質環境が異なる5カ国でモニタリングを実施することができました。日本国内はスズキマリーナ浜名湖/三河御津/熊本/富山で、東京湾では勝どきマリーナ様の協力を得て、インドネシアでは政府系機関である自然公園パトロールに、フィリピンではポリスパトロールに使用していただきました。2021年度は欧州、北米の代理店からも問い合わせをいただき、合わせて7ヵ国で同様のモニタリングを実施する予定です。

――実際にモニタリングされてみて、分かったことなどはありましたか?

中村さん

回収されたプラスチックの材料を見ていくと、どこでどんな材質のものが多いのかという違いも見えてくるんですね。現時点では、まだサンプル数は多くないのでハッキリしたことは言えませんが、たとえば、プラスチック素材の中でも材料原価が安く加工もしやすいポリエチレンの様に汎用的に使用されているものは日本、インドネシア、フィリピン、タイどこでも回収ができています。場所によって回収される材質が違うことも分かってきていますので、今後、世界中で回収装置が使用されるようになれば、どこでどういう材質が多いのかというデータ分析に使用できる可能性もあります。

モニタリングで実際に回収されたマイクロプラスチック

モニタリングで実際に回収されたマイクロプラスチック

綺麗な海に向けて、お客様も活動の輪に

静岡県浜松市の中田島砂丘での清掃活動の様子(2019年6月)

静岡県浜松市の中田島砂丘での清掃活動の様子(2019年6月)

――最後に、今後の展望をお聞かせください。

中村さん

2022年1月よりマイクロプラスチック回収装置の世界に向けた量産を開始します。2010年以降、清掃活動を一緒に行ってきた世界中のスズキマリンチームと一体になってマイクロプラスチック回収活動を展開し、活動の輪をお客様にまで広げることができれば、必ずや世界中の海をきれいにすることができると期待しております。

静岡県浜松市の中田島砂丘での清掃活動の様子(2019年6月)

静岡県浜松市の中田島砂丘での清掃活動の様子(2019年6月)

中村さん

また、今回お話しさせていただいた、マイクロプラスチック回収装置は、スズキクリーンオーシャンプロジェクトの3本柱の一つなんです。そのほかプラスチック削減活動として、2010年から行っている水辺の清掃活動、昨年からはじめた船外機や部品の梱包で使用していたプラスチックを、プラスチック代替品にする活動に積極的に取り組んでいます。この3つの柱を中心にプロジェクトを進めながら世界に認められるブランドになっていきたいと思っています。

スズキクリーンオーシャンプロジェクト

スズキクリーンオーシャンプロジェクト

――ありがとうございました。

すべての船にマイクロプラスチック回収装置が設置されれば、相当量のマイクロプラスチックが回収されるのではないだろうか。私たちが海に遊びに行くほど海が綺麗になる。そんな未来に向けて、今後のプロジェクトの躍進に期待が高まるばかりだ。

取材協力:スズキ株式会社
▶︎マイクロプラスチック回収装置の詳細はこちら

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PROFILE
IT企業でSaas営業、導入コンサル、マーケティングのキャリアを積む。その一方、趣味だったダイビングの楽しみ方を広げる仕組みが作れないかと、オーシャナに自己PR文を送り付けたところ、現社長と当時の編集長からお声がけいただき、2018年に異業種から華麗に転職。
営業として全国を飛び回り、現在は自身で執筆も行う。2020年6月より地域おこし企業人として沖縄県・恩納村役場へ駐在。環境に優しいダイビングの国際基準「Green Fins」の導入推進を担当している。休みの日もスキューバダイビングやスキンダイビングに時間を費やす海狂い。