ダイバーの98%が水中撮影をする時代 ~カメラのターニングポイントを探ってみる~

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今や、標準装備ではないかと思うほど一般的になった水中撮影機材。

セブ島のフォト派ダイバーのシルエット(撮影:越智隆治)

実際、アンケートの結果を見ても、水中撮影機材を持たずに潜るダイバーはたったの2%しかいませんでした。

※あくまでオーシャナのアンケート上の話ですが。

ダイビング時にどのような水中撮影機材を持って潜っていますか?

  • その他 (1%, 4 Votes)
  • 持っていない、持たない (2%, 8 Votes)
  • スマートフォン(iPhoneなど)+ハウジング (0%, 0 Votes)
  • ウェアラブルカメラ(Go Pro、アクションカムなど) (3%, 10 Votes)
  • ビデオカメラ+ハウジング (4%, 15 Votes)
  • フィルムカメラ+ハウジング (0%, 0 Votes)
  • ミラーレス一眼レフのデジタルカメラ+ハウジング (20%, 76 Votes)
  • 一眼レフのデジタルカメラ+ハウジング (16%, 61 Votes)
  • コンデジ(コンパクトデジタルカメラ)+ハウジング (55%, 213 Votes)

Total Voters: 387

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僕がダイビングを始めた1995年ごろ、カメラを持って潜るダイバーはまだまだ少なく、デジタルカメラも普及していない時代。
水中撮影は、“フォト派”と呼ばれる一部のダイバーの遊びでした。

オリンパスの純正ハウジングの登場で
コンデジが一気に普及!?

持っている水中撮影機材の1位はやはりコンデジで、半数を超える55%。
すっかり定着した感がありますが、デジカメは、いつごろから普及し始めたのでしょうか?

各種データを見ると、陸上では、90年代後半に徐々に浸透しはじめて、2000年にはフィルムカメラの出荷台数を上回り、2000年代前半にグッと普及率がアップしているようです。

デジタル家電3品目の現状(平成22年4~6月期)
※「カメラ映像機器工業会統計」(一般社団法人カメラ映像機器工業会)
※「消費者動向調査」(内閣府)

一方、水中では、僕がダイビング雑誌に入社した1999年オリンパスが純正のハウジングPT-003を出して以降、一気に普及し、ダイビング雑誌や水中写真専門誌でも2000年代前半から中盤は、「これからはコンデジの時代だー」的なマインドで特集を毎月組んでいた印象があります。

実際、マリンダイビングのバックナンバーを見てみると、自分が短期連載した2000年の「水中写真寺子屋」では、デジカメは登場していません。
コンパクトカメラといえば、懐かしの水中フィルムカメラMX-5などでした。

しかし、翌2001年に同じく自分が短期連載した「水中写真・女のカメラ道」では(色物企画担当だったもので……笑)、コンデジが登場しています。
広告もオリンパスのコンデジとハウジングが毎月のようにドーンと掲載され、連動するようにコンデジ特集も多くなっていきます。

陸上と同様、水中でもデジカメ、とりわけコンデジが普及し始めたのは、やはり2000年あたりがターニングポイントのようですね。

ちなみに、水中専門誌「マリンフォト」副編集長だった友人に水中コンデジの普及の理由を聞いてみたところ、こんな返答。

「オリンパスが水中写真に力を入れたことが大きかったんじゃないかな。
当時、担当者が“何かのジャンルでNo.1になりたい”と熱意を持っていました。
タイアップのオリエンで『日本で一番高い山は富士山とみんな知っているけど、二番目に高い山はあまり知られていない。
一番じゃないと、意味がないんですよ』的なことを言っていたのが印象的でした」

キャノンのデジタル一眼レフ
5Dが起こしたフルサイズ革命

ただ、お手軽にスナップや記念写真を撮りたいというコンデジ派と違って、本格的な写真を撮りたい一眼レフ派は、ターニングポイントはもうちょっと後。

コンデジがググッときた2000年ごろ、本格派はまだまだフィルムの時代で、この頃の広告にはニコノスVが掲載されていたりしますし、撮影のハウツーもフィルムカメラが使われています。
僕がニコノスRSという水中フィルムカメラの名機を買ったのもこのころです。

ニコノスRS

お手軽カメラはコンデジ、本格派はフィルムといった時代がしばらくあって、一眼レフのデジタルカメラに転換期が訪れたのが、2005年のキャノンEOS 5Dの発売。

キヤノンEOS 5D

それまで100万円を超えていたフルサイズの一眼レフデジタルカメラが30万円代となり一気に普及。

オーシャナ代表の越智カメラマンも、新聞社時代からいち早くデジタルカメラを使用していたものの、それまでのニコンから完全に移行したのが5Dの登場からとのことでした。

2007年にニコンもフルサイズを発売し、先述の出荷調査でも2007年にフィルムカメラの調査が打ち切られていますので、この辺りがフィルムカメラ終焉のひとつの転換期でしょうか。

フルセットでは、車が買えるほどのプレミアム価格だったはずのニコノスRSが、査定価格10万円を切って衝撃を受けたのも、このころです……泣。

コンデジと一眼レフの遠い距離を埋めた
ミラーレスカメラが登場

そして、2008年にパナソニックがミラーレス一眼のLUMIXを発売。
個人的には2010年前後からやたらとオリンパスのPENを海で見かけるようになった印象があります。

オリンパスPEN+ハウジングPT-EP01

しぶとくイルカ撮影のみ使っていたニコノスRSをインテリアとして飾る決心をしたのがこの頃です。

ミラーレスは「手軽に撮りたいけど、上手にも撮りたい。でも、一眼フルセットは手が出ない」という人のニーズにまさにぴったり。

シェアを伸ばして、今ではコンデジに次ぐ所有率。
個人的にも、最初の一台としてコンデジよりオススメです。

プロはなかなか手を出しませんでしたが、そのコンパクトさや将来性に目をつけた越智カメラマンは積極的に使っており、今ではLUMIX GH4を持って、世界中の海で海獣を追いかけています。

Panasonic LUMIX GH4

意外!? スマホでの水中撮影はゼロ

水中撮影機材の普及は、当たり前ですが、陸上の動向とシンクロしているわけですが、ひとつ大きく違って興味深いのが、スマホでの撮影。

陸上では、デジカメの存在意義が問われるほどスマホでの撮影が主流になっており、水中でももう少し多いと思っていましたが、まさかのゼロ。
大事なデータが満載のスマホを海の中に持って行くのはまだまだ抵抗感が強そうですね。

もうひとつ意外だったのが、ウェアラブルカメラ。

最近、海へ行くと、必ずといっていいほどGo Proを持っている人を見かけるので、もう少し多いと思っていました。
今後、間違いなくシェアを増やしそうですが。

カメラの普及で変わる潜り方

カメラ持たない→フィルム一眼→デジタル一眼と経てきた自分としては、ここ10年の水中撮影機材の変遷で、ずいぶん潜り方も変わったなぁとしみじみ。

デジカメを使った当初、何枚でも撮れて水中で確認できるスタイルに感動したものですが、振り返れば、フィルム時はカット数が決まっていたので、その中で組み立てる楽しさや撮り終わった後の「撮らないタイム」なんかも楽しいものでした。

そういえば、ガイド会対談でも、フィルムからデジタルへの移行の中で「撮影に集中力がなくなった」「潜り方が変わった」という話をしていました。

最後に、潜り方といえば、“安全”の視点で考えると、水中撮影機材を持って潜るダイバーがほぼデフォルトになっているのであれば、“水中撮影をするダイバー同士のバディ”を前提とした潜り方を考えないといけないのかもしれませんね。

【余談】水中写真専門誌のターニングポイント

ちなみに、デジカメの普及に反比例して、複数あった月刊の水中写真雑誌は、廃刊したり、季刊になったりと縮小していきました。

単純に、よくある出版業界の流れくらいに思っていましたが、 先述の元副編集長の友人に当時のジレンマをお聞きしてみると、こんな話を。

「あくまで個人的な意見ですが、プロ(一眼レフ)とアマ(コンデジ)の機材の差があり過ぎて、ひとつの雑誌の中で撮影テクニックなどを共有するのが難しかったです」

確かに、言われてみれば、プロもアマもニコノスVを使っていたころは、撮影テクニックを共有できたから水中写真専門誌も成り立っていたのかも。

だからと言って、ターゲットを絞り込むほどパイもなく……。

「それもありますが、当時は、“評価される水中写真=クッキリ、ハッキリ”と価値観が狭すぎた気も。
陸上写真だと、森山大道さんがコンパクトカメラで撮った“ブレ、ボケ、アレ”みたいな作品も芸術として成り立つけど、水中だと、まるで相手にされない。
となれば、水中プロカメラマンはコンデジでは仕事にならないから、ほとんど使わない。
けど、アマチュアダイバーは5万円前後のコンデジできれいな写真を撮りたいと思っている」

なるほど。
パイも狭く、バリエーションも少ないとなると月刊は難しいのかも。
実際、「マリンフォト」は季刊誌になりましたが、水中写真をがっつり趣味とする人を対象にするか、ターゲットや目的を毎回変えて、ムックみたいなテイストで出すのがベターなんですかね……。

いずれにせよ、唯一の水中写真専門誌ですからがんばっていただきたいですね。

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PROFILE
法政大学アクアダイビング時にダイビングインストラクター資格を取得。
卒業後は、ダイビング誌の編集者として世界の海を行脚。
潜ったダイビングポイントは500を超え、夢は誰よりもいろんな海を潜ること。
ダイビング入門誌副編集長を経て、「ocean+α」を立ち上げ初代編集長に。

現在、フリーランスとして、ダイバーがより安全に楽しく潜るため、新しい選択肢を提供するため、
そして、ダイビング業界で働く人が幸せになれる環境を作るために、深海に潜伏して活動中。

〇詳細プロフィール/コンタクト
https://divingman.co.jp/profile/
〇NPOプロジェクトセーフダイブ
http://safedive.or.jp/
〇問い合わせ・連絡先
teraniku@gmail.com

■著書:「スキルアップ寺子屋」、「スキルアップ寺子屋NEO」
■DVD:「絶対☆ダイビングスキル10」、「奥義☆ダイビングスキル20」
■安全ダイビング提言集
http://safedive.or.jp/journal
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